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殺し屋殺しvs花底蛇 -屋上遊戯-

登場人物:

 ・風斬 青龍(東 青龍)

 中学2年生。

 裏組織「宵の薔薇」の元構成員で殺し屋として所属していたが、裏切りがばれて追われる身となった。

「Color Project」と呼ばれる実験の結果誕生した人造人間 「青のSecond」で、普通の人間よりも身体能力と知能が高く五感も鋭い。特に、動作の速さと視力、聴力が優れている。しかし、痛覚が鋭敏すぎるため擦り傷ですら激痛となってしまい動けなくなる。

 暗殺の四家 斬殺の東家の使う剣術の手ほどきを受けており、高い身体能力と合わせて大人顔負けの強さを持つ。

 襲ってくる殺し屋達を退けているうちに、いつしか「殺し屋殺し」と呼ばれるようになった。

 デパートの寂れた屋上遊園地。僕――風斬 青龍はクレーンゲームのボタンで遊んでいた。

 あとちょっとでぬいぐるみが取れる――――――そんな時、背後に誰かの気配を感じた。

 クレーンゲームのガラスの反射から見える、音も無く忍び寄る少女の影。その手には拳銃が握られていた。


 パリンッ!


 クレーンゲームのガラスが砕けた。――僕が弾丸を避けたからだ。

「後ろに目でもあんの?」

 ハスキーボイスと共に音も無く放たれた弾丸は、直前まで僕がいた場所を正確に撃ち抜く。

 僕はその声に聞き覚えがあった。

「その声……あなた、教室にいませんでした?」

 1か月ほど前、転入したクラスで聞いたことがあった。

 ――――――ハスキーボイスを持った女子なんていましたっけ……?

 僕はじっと少女の顔を見つめる。見覚えはある、見覚えはあるのに、クラス内の女子の誰にも当てはまらない。

「見惚れたか?見惚れるのはいいが―――」

 少女は一瞬で僕との距離を詰め、懐に入り込んだ。


「―――気を付けな。きれいな花の下には、蛇がいる。」


 少女の拳が胸へと飛ぶように放たれる。ドガッっと鈍い音が響き、クレーンゲームがへこむ。

 ――――――嘘!素手!?なんて破壊力……

 銃を持っていた時点で明らかだが、少女は殺し屋だ、裏社会の人間だ。彼女に常識なんて通用しない、見た目に惑わされてはいけない。

 ――――――だとしても、これは反則です!なんで、あんな細い腕でゲーム機へこむの?!

 少女の動きは止まらない。見た目に反して化け物級の威力の拳や蹴りが青龍めがけて次々と放たれる。

 僕は隠し持っていた特殊警棒型収納式日本刀を引き抜いた。少女は難なく躱し、僕から距離を取った。

 ――――――身長159cm、やや瘦せ型。切れ長でややつり目、右目を隠す前髪、耳の上でピンをクロスさせて横髪を留め、高い位置で1つに纏めた暗い赤茶の後ろ髪が風でさらさらとなびく。

 全身を観察すると、クラスに一人、該当する生徒がいたのを思い出した。


「分かった!あなた、なんなんですね!」


 一瞬の沈黙の後、

「誰がパンダだ!」

 鋭いツッコミが走った。

「え?だってあなたの名前、南 湊生(みなみ みなみ)でしょ?だから音読みで――」

「俺の名前は南 湊生(みなみ そうせい)だ!誰がそんなダジャレみたいな名前つけるか!」

 その素の反応は、やはりクラスメイトの湊生のものだった。以前から気には掛けていた。彼は他のクラスメイトとは、明らかに纏う空気が違った。僕と同じ、裏の人間の空気。いつか、僕の正体に気付き、こうして殺しに来るだろうと思っていた。それでも――――――

「僕は、あなたを傷つけたくありません。引いてくれませんか?」

 僕は、彼とは仲良くしたい。

「それは無理な相談だ。」

 そう簡単にその願いが叶わないとは分かっている。彼はプロだ。僕のような半端ものではないから、きっと、本気で僕の命を狙うだろう。

「こんな殺し合いではなく、クレーンゲームとかで遊びましょうよ。僕、まだ来たばかりで遊び足りないですし。」

「いいぜ。」

 僕は、自分の耳を疑った。もしかして、殺し合わなくて済む?しかし、甘い期待はすぐに裏切られる。

 次の瞬間、湊生は上着から何かを取り出し、動いた。


「俺と遊んだあとで、生きてたらな!」


 ガキィィン、と飛んできたものを刀が受け止める。

「トンファー、ですかっ!」

 僕は危険を感じ、慌てて刀をしまい後ろに跳び退いた。知識として知っていたが、トンファーという武器は刀に対抗するために造られたものだと言われている。使い方も、動画で見たことがある程度だが、とても厄介そうだ。

 その様子を見た湊生は舌打ちをする。

「勘がいいね、あんた。取ろうと思ったんだけど、本職相手にはそう上手くはいかないか。」

 素手による圧倒的な破壊力、相手を殴り殺すのに適した武器。僕は漸く、目の前の殺し屋の正体に気付いた。

「あなた、撲殺の南家、花底蛇(かていのじゃ)、ですね。」

 暗殺の四家、撲殺の南家、彼らは琉球の躰道と古武術を極め、素手と非刀剣武器で相手を殴り殺すことを得意とした一族。圧倒的な破壊力とトリッキーな動きが非常に厄介な相手だと聞く。武器も入手しやすく隠しやすい、対象に怪しまれず近づくことができる、表社会のターゲットに対しては最も強い殺し屋だ。

「花底蛇――中国の故事ですね。美しいものには恐ろしいものが潜んでいる。確かに、あなたのような殺し屋にふさわしい。」

「これが俺の殺し(やり)口でな。油断しただろ?」

「えぇ。教室でもあなたのことは警戒していました。でも、女装するとは思いもしませんでした。」

 湊生が他のクラスメイトとは違うことに気付き、警戒はしていた。だが、性別も雰囲気も偽って近づいてくるとは思いもしなかった。もし湊生がただのクラスメイトとして近づいてきていたら、先手を取られることはなかった。

 見知った相手ですら身元を欺き、力で捻じ伏せる殺し屋、花底蛇、彼は一流だ。

 ――――――今までとは格が違う。本気でやらなければ、殺される!

 僕は再び刀を出し、水平に構える。


「僕の速さに、ついてこれますか?」


「受けて立とう。」

 僕は一歩踏み込む。湊生との距離を一気に詰め、刀を滑らせる。湊生は左のトンファーで軽々と受け止め、もう一方のトンファーを回転させて僕の頭を狙う。

 しゃがむと同時に足元を薙ぎ払うように刀を振ったが、軽く跳んで避けられ、そのまま蹴りが放たれる。湊生は僕の行動を読んでいたかのように、着地後そのまま回転して蹴り、さらに叩きつけるようにトンファーを振り下ろした。

「すげぇな、全部避けるか。」

「掠っただけでも、激痛ですからね。」

 僕は彼のトンファーの合間を縫って、彼のトンファーと手足を狙う。

 ヒュン、と湊生の耳元で、僕の刀は風を切った。

「狙いが甘い。」

 刀が動かない。湊生が持ち変えたトンファーが刀を引っ掛けていた。

「俺の首や心臓を狙っていれば、俺に深手を負わせられたのにな。」

 湊生がトンファーを捻る。

「しまっ――――」

 僕の手から刀が外れ、気を取られた瞬間。


「その甘さが命取りになる。」


 がら空きになった腹に、湊生の強烈な蹴りが叩き込まれた。その勢いで僕は吹っ飛び、古くなったメダルゲーム機に激突した。ぶつかった衝撃でメダルは散らばり、けたたましい警告音が鳴り響く。

 動けない僕に近づく湊生。

 ――――――奥の手、です。

 僕は手の中に散らばったメダルを隠し持った。


 -------------------------------------------------------------------------------------

「甘いのは、あなたも同じですよ。」

 青龍のその言葉の直後、俺――南 湊生の右腕に痛みが走った。

「えっ……?」

 右腕の袖は斬れ、赤い線が一筋走っている。

 次の瞬間、腕と足に次から次へと痛みが走る。まるで、銃弾が掠ったかのように。

「くそっ!」

 俺近くにあったゲーム機の影に隠れる。遠くでチャリンチャリンとメダルが落ちる音がする。たった少し目を離しただけで、もうすでに青龍の姿が見えない。

 ――――――ヤバい!

 振り返ると、メダルの雨が降ってくる。

 ――――――銃声が無いから、どこから撃ってるか分からねぇっ!

 居場所が分からない以上、逃げるしかない。しかし、青龍は確実に俺を捕捉しメダルを撃ち込む。

 何度も経験して漸く避けるのに慣れてくる。神経を研ぎ澄まし、どこからともなく飛んでくるメダルの雨の中から、僅かな人間の気配を探る。

 背後から殺気を感じとった。

「そこか!」

 ゲーム機を乗り越えトンファーを振り下ろす。しかし、そこに手ごたえはない。

 視界の端で何かが動く。しかし、それが何かを認識するより早く身体が地面に叩きつけられた。身体中を衝撃が走り、一瞬呼吸が止まる。そして、動く間もなく投げ飛ばされた。


 ガシャァン!


 激しい音と共に身体は柵にぶつかり、そのまま空中に投げ出された。

 ――――――まずい、落ちるっ……!

 何かを掴もうと伸ばした手を、誰かが掴んだ。


 風に煽られ、俺の身体は揺れ動く。


「ごめんなさいっ……!まさか、壊れるなんて思わなくて……。」

 青龍は今にも泣きそうな顔で、半身を乗り出し俺の手を掴んでいた。

「離しな。あんたまで落ちる。」

「嫌だ!僕は、あなたを死なせたくないっ!」

 俺だって、こんな形で青龍を死なせたくない。

「あんたは生きるために俺と闘った。ここで落ちたら、本末転倒だ。」

 青龍は言葉の代わりに俺を引き上げようと力を込める。


 ――――――これが、あんたってやつか。


 青龍の信念に関心している場合じゃない。どうにかしてこの状況から脱しないと、2人とも落ちるのは確実だ。

 手足を壁の溝に引っ掛ける。

「青龍、手を離せ。」

「だから、あなたを見捨てるわけには――」

「いや、普通に邪魔。」

「じゃま……」

 涙目になる青龍。

「登るのに、片手塞がってたら無理だろ。」

「ほ、本当に大丈夫、ですか……?」

「さぁな。」

「さぁな、って……。」

 俺は掴まれた手で壁を掴む。

「ほら、何とかなりそうだ。」

 俺が壁を登ろうとしているのを見て、青龍は恐る恐る手を離した。

「ほら、よっと……。」

 屋上の床を掴むと、青龍が再び俺の手を掴み、引き上げてくれた。俺は這い上がり、大きくため息を吐いた。


「あんたさぁ……俺があんたを道連れにするとか考えなかったのか?」

 屋上に戻った俺は呆れたように青龍に話しかける。

「えーっと……。」

 ――――――考えてなかったのかよ。

 その場に腰を下ろし、大きなため息をついた。

「あ、あの、もう、いいんですか……?」

 息が上がっている青龍が、少しだけ警戒していた。

「殺そうとした相手に助けられたくせに、まだ殺そうだなんて、そんな非道なことはしねぇよ。」

 ここまで馬鹿なお人好しを殺すほど、俺は外道じゃない。

「そう……ですか……。よかった……。」

 青龍はその場に崩れ落ちる。

「あなたがまだやる気だったら……流石に、どうしようもありませんでした。」

 ははは、と力なく笑う。

「悪いな、殺す気はなかったんだが、少しやりすぎた。」

「やっぱり……そうでしたか。蹴られたとき、急に衝撃が軽くなったので……。」

 俺の仕事は、青龍の暗殺。だがそれは、青龍が外道ならば、という条件付きだった。

「噂通り、宵の薔薇の四神青龍は、人を殺さない殺し屋だったってわけか。なら、殺せねぇ。」

 青龍に即効性の痛み止めと水を渡す。

「僕を……試した……ということですか……。」

「あんたは禁忌を犯した実験から生まれ、悪名高い宵の薔薇の人間だった。仁義外れの外道なら容赦なく屠るつもりだった。だが、実際は殺されかけても相手を狙わず、殺しに来た奴を助けるような、とんでもないお人好しだった、と。」

 自分の上着を青龍に掛ける。

「俺はこの辺りを片付ける。もうしばらくすれば痛みが引くと思うから、寝てな。」

 俺はそう言って立ち上がった。

「そういえばさっきの景品、あとちょっとで取れそうだったのに。どうしてくれるんですか。」

「気にするとこ、そこかよ。……今度、取ってやるから勘弁してくれ。」

「いや、なんなんとデートする気はないです。」

「遊んで欲しいっつったの、あんただろ!あと、俺は男だ!」

後日、なんなんと青龍は二人で仲良くゲーセンに遊びに行ったのだった。


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