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干支狩り エトワールvsシスター・モー

登場人物

・ 乱歩

 西国にある裏社会組織「連合」戌の神将。常に薄ら笑いを浮かべ、飄々とした密偵の青年。

 その頭脳は連合で1,2を争うほど優秀であり、特に情報をもとに過去の真実、未来の事象を「推測」することを得意とする。そのため、敵の情報と道具さえあれば、どんな相手にも負けることのない「無敗の道化師」となる。ゆえに、「連合の切り札」とも呼ばれている。

・猿渡 駿介

 「連合」申の神将。一見どこにでもいるサラリーマンのような、口が達者な詐欺師。

 その頭脳は連合で1,2を争うほど優秀であり、乱歩と二人で連合のブレイン「犬猿コンビ」と言われている。彼は乱歩と違い、人を自分が望むように「誘導」するのを得意とする。そのため、作戦指揮は猿渡が一歩先を行く。

・緋天うさぎ

 「連合」の幹部 十二神将の一人、卯の神将の少女。表社会では売れない地下アイドルとしての顔も持つ。

 裏社会では「嘘暴きの緋瞳」とも呼ばれており、彼女に見抜けない嘘はないと言われている。

 戦闘能力は無いと思われがちだが、彼女はその瞳の能力により、潜入暗殺においては巳の神将冥蛇と同格レベルである。

・シスター・モー

 「連合」の丑の神将で、拷問士。だが、彼女は神将会議中、酉の神将ことりとともに反逆を起こす。

 彼女に対して戦闘で単身で勝てる可能性があるものは、冥蛇の暗殺以外で誰もおらず、連合最強の実力者として内外で有名だった。得意とするのは、重く複雑な軌道を描くモーニングスターによる撲殺。

・クレール・ド・エトワール

 東国にある裏社会組織「夕星」の爆弾魔の少女。

 かつてはアジア最大級の裏社会組織「宵の薔薇」の四神の一人、身も心も粉砕する最悪の爆弾魔として悪名を轟かせていた。

 彼女は異世界の遺物「超人工知能スクエア」に作られた人造人間型の端末であるため、戦闘機と同格の身体能力とスパコン級の頭脳を持っており、さらに生身のまま機械との通信機能も持ち合わせている。

「いてててて……」

 会議中に突如暴れ始めたことりとシスター・モーに、上から落ちてきた手榴弾。見慣れた景色が爆心地となりすべてが吹き飛んでいた。

 目を覚ました乱歩は傍らの帽子をかぶり直しながら、苦い顔を浮かべる。

「おいおい、流石の僕でも、これは厳しくないかい?」

 乱歩の目の前には、笑顔で凶器のモーニングスターを持ったシスター・モーが立っていた。

 近くには同じく苦い顔をする猿渡、少し離れたところでうさぎが足を引きずっている。

 ――――――武闘派のモーさんに対して、非力三人組。逃げるのすら難しいな……。

「猿渡さん、どうすんの?」

「どうするって、お前を囮にしても逃げられないだろ、あれ。どうにかならないのか?」

「戦力皆無の僕にどうしろと。」

「だよなぁ。」

 乱歩も猿渡も目くらまし程度なら可能だが、そんな即興の小細工が効くほどシスター・モーは甘くない。

「内緒話は終わりましたか?では、断罪を始めましょう。」

 とげのついた鉄球が二人めがけて降ってくる。左右に分かれて間一髪で躱す。二人相手でも全く隙のない動き。

「乱歩!このままじゃ殺されるぞ!」

「分かってる!でも、こんなぼろぼろの状況でどうしろと?!」

「出し惜しみすんなよ!隠しアイテムさっさと出せ!」

「テキトーに使ったらただの無駄撃ちになるじゃないか!中途半端な攻撃が効く相手じゃないんだぞ!」

 キャンキャンキーキー騒ぐ二人。

「君こそ銃とか持ってないのか?!さっさと出しなよ!」

「馬鹿か!あんな動き回る相手に当たるわけねぇだろ!お前こそナイフとかスタンガンとか、とにかく武器ねぇのか?!」

「あったらとっくに使ってる!今持ってるのは煙幕とフラッシュバンだけだ!ふつう、これくらいあれば逃げ切れるんだよ!」

「あらあら、こんなときに喧嘩ですか。随分と仲のよろしいこと。」

 シスター・モーの意識がその二人に向いている。だから、後ろから迫る弱弱しい刺客には気付けなかった。

 グサリ、とシスター・モーの背中を抉るナイフ、その持ち手は紅い瞳のうさぎだった。

「いつの間に……。」

 刺されたことよりも、背後を取られたことに動揺が隠せないシスター・モー。

「驚くのは早いよ。」

 うさぎが手を離した瞬間、シスター・モーの全身に電気が走った。

「ああああああああぁ!」

「走れ!」

 三人は感電するシスター・モーを背に出口へ向かう。

 扉を開ければ逃げられる。そんな希望は無情にもシスター・モーに折られた。

「この程度ですか?」

 彼女のモーニングスターが目の前の扉を壊し、出口を塞ぐ。

「嘘だろ……!あれは、僕の切り札だぞ?!なんで動けるんだよ!」

 乱歩は逃げながらうさぎにスタンガン付きナイフを投げ渡していた。言葉通り彼の切り札であり、大男ですら簡単に気絶するほどの威力を誇る代物だった。

「ふふふ。乱歩さん、これくらいなら、拷問器具をうっかり落とした時に何度も浴びてますよ。」

 次の攻撃が来る前に3人はバラバラに逃げる。それを予見していたかのようにシスター・モーの凶弾がうさぎを襲う。

 一度目は飛んで避けられた、だが、着地に失敗しよろけて動きが止まる。そこを、二度目の凶弾が風を切って襲い掛かる。

 回避も、妨害も間に合わない。このままでは、うさぎが潰される。狙われた彼女自身もそれを覚悟していた。


「あら、運がよかったわね、貴方たち。」


 うさぎを遮るかのように立つ小柄な少女。

「最後の悪あがきが無ければ、間に合わなかったわ。」

 薄暗い会議室でも輝くプラチナブロンドの艶やかな髪、宝石のように煌めくエメラルドブルーの碧眼、場違いで戦闘に全く向いていないパステルピンクのロリータ調のドレス、手足は細く華奢で、肌は陶器のように白く滑らかだ。

 まるで高級なフランス人形のような、乱雑に扱えばすぐに壊れてしまいそうな少女の小さな手が凶弾を受け止めていた。

「力を貸してあげるから協力しなさい。」

 フランス人形が彼らに取引を持ち掛ける。

「あのシスターは倒す。その代わり、貴方たちを拘束させて頂戴。命は保証するわ。」

 彼女はうさぎを持ち上げ、襲ってくる鉄球をひらりと躱し猿渡と乱歩の元へ運ぶ。

「私はどちらでも構わないわ。やることは変わらないもの。」

 うさぎの紅い瞳が純粋な碧玉を見つめる。

「嘘じゃ、ない。」

 その言葉に猿渡が驚く。

「俺たちを、殺しに来たんじゃないのか?」

「違うわよ。貴方たちを捕まえに来ただけ。驚いたわよ、入ろうとしたら既に内輪揉めを始めているんだから。」

 その言葉を聞いて猿渡は思考を進める。

 ――――――少なくとも、今はこのよく分からん女に協力して、それから適当に出し抜けばなんとかなるだろう。いい感じに相討ちになれば楽に脱出できるし、殺す気は無いようだから、死にはしない、なら。

「分かった。協力する。乱歩、うさぎ、お前らもそれでいいか?」

「僕らにはそれしかないだろうね。」

「大丈夫。この人は信用できる。」

 納得する二人と、納得のいかないシスター・モー。

「変わった人ね。不利な方に手を貸すなんて、善人気取りかしら?」

「クライアントの意向よ。」

 戦いづらいハイヒールにも関わらず、華麗に鉄球をかわす。

「でも、貴方一人で私を倒せるの?力はずいぶんお強い様ですが、それだけでは、ねぇ?」

「一人じゃないわ。彼らの力も借りるもの。」

 少女はフリルの中に手を入れる。

「敢えてこちらの名を名乗るわ。」

 取り出した爆弾を構え、高らかに自身の名を告げる。

「身も心も粉砕する、元宵の薔薇の爆弾魔 クレール・ド・エトワール。」

 それはかつての悪名。失われたはずの、破壊の象徴。

「貴方の野望を粉砕するわ。絶望なさい。」

 爆弾が放たれシスター・モーの元へと飛んでいく。


 派手な爆発音、それが、戦闘開始の合図だった。


「じゃあ早速役に立ってもらおうかしら。申の神将さん、時間稼ぎをしてちょうだい。」

「え゛?!」

「10秒できれば上出来よ。」

 エトワールは彼の襟首を掴み強引に投げ飛ばした。

「嘘だろ?!」

 次に乱歩の方を見る。

「何か通信機ないかしら?」

「近距離用のサブ端末でよければあるけど、一方通行だよ?」

「問題ないわ。少し弄るわね。送信機貸して。」

 乱歩は首を傾げつつ言われた通り送信機を投げ渡し、エトワールは端末を手に持った。

 ――――――流石に、通常状態では太刀打ちできなさそうね。

能力(モード・)限界突破(スペックオーバー)――――」

 それは、彼女本来の力を引き出す合言葉。

段階1:(フェーズワン・)解除・50%制限(フィフティオーバー)から段階2:(フェーズツー・)起動・多重思考(マルチコアシステム)へ移行……完了。システムチェック……正常(オールグリーン)。」

 猿渡を投げてぴったり10秒。右手に爆弾、左手に端末を持って走り出した。

「光栄に思いなさい。80%の力で相手するわ。」

「随分と見くびってくれますね。」

「それはどうかしら?」

 襲ってきた鉄球に向かって右手の爆弾をかち合わせる。

「申の神将さん、時間稼ぎありがとう。」

 そう言って再び猿渡の襟首をつかんで投げ飛ばした。

「システム解析・開始――」

 襲ってくる鉄球を躱し、いなし、受け止める。それを、手元の解析の片手間にこなしてしまうエトワール。

「――完了、システムハック、3…2…1…完了。」

 エトワールは送信機を乱歩に投げ返した。

『これで、しばらくは連絡を取り合えるはず。どこかに隠れていなさい。』

 彼女は口を開いていないにも関わらず、受信機からは彼女の声がした。

 ――――――噂通り、頭のなかはスパコンってわけかい。

 人間の次元を超えた所業に閉口する三人の神将。

「どうかしら?見くびっていたのは貴方ではなくて?」

 エトワールが声をかける。

「貴方はあの三人を簡単に殺せると思っていた、でも、実際は?」

 既に三人の姿はない。この部屋に気配はあるが、シスター・モーには探す暇もない。彼女の妨害が激しいから。

「彼らの悪あがきが、イレギュラー()を呼んだのよ。力がないと軽んじ本気を出さないから、貴方は死ぬの。」

「あなたこそ、本気を出さないようですが?80%とかなんとか――」

 その言葉を鼻で笑うエトワール。

「人間の能力は、普段はリミッターが掛けられているの、知ってるかしら?」

「それはもちろん……」

 突然の問いかけに戸惑いながらも応えるシスター・モー。

「人間は普段2、3割程度しか筋力を使えないの。脳も同じね。貴方の全力は最大でも30%なの。」

「それが、どう関係あるのです?」

「人間が常に100%の力だと、筋肉も骨も細胞もダメージの回復が間に合わなくて死んでしまうわ。だから本当に危ないときだけ、一瞬だけその力が発揮されることがある。『火事場の馬鹿力』ってやつね。」

 飛んできた鉄球を軽々と受け止めるエトワールの細い腕。

「私にはもともとそのリミッターはない。後から作ったのよ、普段から100%だと、エネルギーの無駄だから。」

 その白い腕には紅い筋が浮かんでいる。

「リミッターのない私の80%の力の意味、もう分かるでしょう?」

 シスター・モーがモーニングスターを手元に引き寄せようとするが、びくともしない。

「今度は貴方が逃げ惑う番。貴方には彼らのような悪あがきができるかしら?」

 エトワールが腕を引く。モーニングスターを強引に奪い取った彼女は天井に向けて投げつける。崩れかかった柱の間に引っ掛かり、取り戻すのは不可能に。

 降り注ぐ爆弾の雨と、華麗な脚捌き。シスター・モーに避けることはできても、攻撃に転じる隙も手段もなかった。

 ただ、彼女は諦めていない。

 ――――――爆弾は有限、それまで待てば……。

 確かに爆弾の大盤振る舞いだ、すぐに底をつくのは明白だった。

『君、そんなに爆弾投げつけて大丈夫かい?そんなに数はないだろう?』

『あら、よくわかったわね。さっきので最後よ。』

『ジリ貧じゃねぇか!?』

 案の定、シスター・モーもエトワールの爆弾がなくなったことに気づき、遂に攻撃に転じる。

 どこかに隠し持っていたナイフがエトワールの首を狙う。

 しかしエトワールは余裕そうにシスター・モーを眺める。

 ――――そのナイフが、自分に届かないことを知っていたから。

「やっぱり貴方、見くびっていたわね。」

 シスター・モーの背後、うさぎが再び背後をとりその腕を止めていた。

「とはいえうさぎさん、私、そこまでやれとは頼んでいないわ。」

 エトワールは通信機越しに三人に指示を出していた。戦っているこの部屋への、爆弾の設置だ。

「だって……あなただけに任せるのは、卑怯だもん。」

 エトワールは優しい笑みを浮かべる。

「その心意気、嫌いじゃないわ。でも、無茶はするものじゃない。適材適所というものがあるの、今は私に任せなさい。貴方の出番は、今じゃない。」

 彼女の言葉に嫌な予感を感じたシスター・モーは問いかける。

「うさぎ、貴方、何をしたの?」

「教えない。」

 シスター・モーはうさぎの腕を振りほどき、彼女は飛ばされ壁にぶつかる。

『二人とも逃げなさい。そこから右の方に私が入るのに使ったロープがあるわ。貴方たちならそこから出られるわ。』

『うさぎは無理だ。足がやられてる……!』

『彼女一人くらいなら、私が何とかするわ。それよりも、早くこの建物から出なさい。――死ぬわよ。』

『君は、どうするんだ。うさぎをどう助ける?』

『正面から堂々と出るだけよ?ドアくらい簡単に吹っ飛ばせる。』

『爆弾はもうないんじゃ……』

『対人用は、ね。それよりもさっさとお逃げなさい。』

 エトワールはシスター・モーと距離を詰め、その首に手を伸ばす。その速さは異次元だった。


「au revoir、シスター・モー。」


 シスター・モーの身体を宙に放り投げると同時、大きな振動が会議室を、建物全体を襲った。

 上からは瓦礫が鬼のように降ってくる。地面は割れ崩落が始まる。

 どこからか上がった火の手が瞬く間に燃え広がり、あたり一面を真っ赤に染める。

「さぁ、にげましょう、うさぎさん。」

「う、後ろっ!」

 うさぎの目の先には襲ってくるモーニングスター。しかし、それが二人を襲うことはなかった。

「今はここを出るのが先決よ。」

 エトワール達が脱出した直後、館は炎に包まれ崩れ落ちた。

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