干支狩り 冥蛇・眠りねずみvs青龍・マスター
登場人物
・冥蛇(冥土の蛇)
関西にある裏社会組織「連合」の最高幹部 十二神将の一人、巳の神将。組織きっての暗殺者であり、裏切者を粛清する処刑人でもある青年。鋭い目つきにスーツ姿、無愛想で口数の少ない上に冷徹な雰囲気を纏っているため、処刑人という役割も相まって組織内外で恐れられている。
・眠りねずみ
「連合」の最高幹部 十二神将の一人、子の神将 眠りねずみ。組織一の武器職人でありながら、他の知識にも精通し、戦闘もこなせる天才肌の少女。仕事が忙しいのか面倒なのか、人前には滅多に姿を現さず、現れても大抵は気だるげに眠っている。パジャマにねずみのパーカーを羽織りフードを深く被り、さらに作業用のゴーグルを首に下げたままなのでその素顔を知る者は意外と少ない。
・東 青龍
東北の裏社会組織「夕星」の殺し屋。現在の通り名は「殺し屋殺し」とも言われている藍色の髪の青年。
かつて悪名高い裏社会組織「宵の薔薇」における実力者 四神 青龍であり、最速の暗殺者と呼ばれていた。そして、彼の正体は「Color Project」と呼ばれる実験の結果誕生した人造人間 「青のSecond」。普通の人間よりも身体能力と知能が高く五感も鋭いが、痛覚が鋭敏すぎるため擦り傷ですら激痛となってしまう。加えて、苗字の通り暗殺の四家 斬殺の東家の使う剣術を修めているため、裏社会の実力者の一角を担う。
・マスター
裏社会組織「夕星」のリーダー。普段は東北の裏路地でバーを営む傍ら、様々な「仕事」の仲介を手掛けており騒動に顔を出すことはない。
素性を知る者は少ないが、組織のリーダーであることからも分かる通り、彼もまた裏社会の実力者の一人である。
身体が床に落ちた衝撃で目を覚ましたのは、冥蛇だった。
「皆……無事、か……?」
そういう冥蛇は爆弾にもっとも近い場所にいたためか、爆風の衝撃をもろに浴び、壁にたたきつけられて全身が軋むように痛んでいた。手足がつながっているだけ奇跡だ。
壁に手をついて立ち上がり、霞む眼で目の前を見る。
先ほどまでいた会議室ではなく、扉を出た先の廊下にたたきつけられたようだった。だが、目の前は瓦礫の山で会議室の様子は全く分からない。
呼吸を整える。
「とにかく、皆の安全確認が……最優先、だ。」
腰の拳銃を抜き構えたまま、会議室に向かう。
曲がり角でその先の様子を伺う。
――――――誰かがいる。この隠れ方は、おそらく……
「ねず、俺だ。冥蛇だ。撃たないでくれ。」
冥蛇も拳銃を降ろして廊下の途中の瓦礫に近づく。彼の予想通り、子の神将 眠りねずみが大きな機関銃を構えていた。
「冥蛇さん……!よかった、無事で……!」
「ねず、けがはないか?大丈夫か?」
彼女には多少のかすり傷はあるものの、大きなけがはないようだった。無事を確認し笑顔だった彼女の表情が次第に曇る。
「私は問題ありません。それよりも、冥蛇さんの方が。」
「……まだ大丈夫だ。皆と合流して、避難する。ねずは――――」
先に避難しろ、冥蛇のその言葉を遮るように、
「わかりました。一緒に行くです。」
機関銃を構えて立ち上がった。有無を言わせぬ目で。
――――――ダメだ、といっても聞かないな、これは。
眠りねずみは技師だが、武闘派に匹敵するくらいには強い。そして今の冥蛇は全力では戦えない。
「……無茶だけはするな。危なくなったら逃げろ。」
「了解です。」
二人は先を急いだ。
会議室の正面玄関の前までたどり着いた。入口には瓦礫はなく、中に入れそうだ。
だが、扉の前に立つ彼がそれを許さないだろう。
様子を伺う二人の足元に銃弾が撃ち込まれる。
「そこのお二方、出てきてください。」
その声を聞いた冥蛇の顔が強張る。
「出てこないのなら、こちらから行きますよ。」
扉の前の影が動く。同時に冥蛇も壁から飛び出し影に向けて銃を放った。
相対する二人。
冥蛇の姿を見た影は、藍色の髪の青年は驚く。
「なぜ、貴方が、ここにいるのです――玄武さん」
冥蛇はその言葉には答えない。代わりに背後のねずに振り返らずに言葉をかける。
「ねず、俺ごと撃つ気でやれ。でなければ、あいつには、当たらない。」
冥蛇にかつてないほど切迫した表情をさせる相手に、苦い顔をしながらも頷いた眠りねずみ。
ジャケットに手を入れると冥蛇は青年と距離を詰めた。
「貴方は、だって、貴方は……亡くなったって……!」
冥蛇は答えることなくこぶしを突き出す。
間一髪で交わした青年は銃をしまい懐に手を入れた。その手を引き抜かせないと言わんばかりに冥蛇の手が伸びる。
危険を感じた少年はバックステップで冥蛇と大きく距離をとる。
直後、冥蛇の肩の上を銃弾が走る。回避を余儀なくされた青年は大きく後退しながらそれを避けた。
「冥蛇さんとお知り合いです?あなた。」
改造機械銃の装備を素早く組み替えながら、ねずみは目の前の青年に語気強く尋ねる。が、答えたのは青年ではなく冥蛇だった。
「宵の薔薇の四神 最速の暗殺者、東 青龍だ。」
裏社会の情勢に疎い眠りねずみですら知っている、その名を持つ者の脅威。暗殺の四家 斬殺の東家の剣術を使う最速の暗殺者。彼から逃げられる標的はいない。
「元、ですよ。今はもう、宵の薔薇でも四神でもありません。」
青龍と呼ばれた青年は笑顔を浮かべる。
「僕たち『夕星』はあなたたちを殺すつもりはありません。ちょっと全員捕まえてお伺いしたいことがあるだけなんです。ご協力いただけませんか?」
その言葉に二人の神将は殺気立つ。
「仲間を売ると思うか?」「仲間を売ると思うです?」
冥蛇が動く。眠りねずみの射線を避け横に回り込むように距離を詰める。
青龍は迷いなく懐から刀を抜き銃弾を弾き、そのまま冥蛇へ斬りかかる。
金属同士がこすれあう音が響く。
冥蛇は左手のグローブで刀を受け止めている。ジャケットに手を入れたときに鉄板入りのグローブを装着していた冥蛇は、そのまま刀を押しのけ懐に入り込む。
距離を離そうと飛び退いた青龍に眠りねずみ銃弾の雨が降り注ぐ。
「私たちを舐めるな!クソ野郎が!」
その銃弾は当たらない。すべて躱される。
「てめぇら全員、ぶち殺す!」
ねずみの怒りとともに改造機関銃が大砲へと変化し弾丸が射出される。
しかしそれも届かない。
「貴方の怒りはごもっともでしょう。ですが、こちらにも事情があるのですよ。」
4つに切断された弾丸が地面と壁にめり込む。
「そんなものは知らん。」
唐突に降ってきた声に青龍は上を向く。
その首に蛇のように一瞬で巻き付いたのは、冥蛇の腕。
「だが、お前の気遣いに応えよう。殺しはしないが、痛い目はみてもらう。」
ギリギリと青龍の首を絞め上げる冥蛇の脇腹に突如、痛みが走った。
力の緩んだ一瞬をついて拘束から抜ける青龍。
「危ないところでしたね、青龍君。」
「助かりました、マスター。」
玄関の方向から現れたバーテンダーの格好をした糸目の青年がゆっくりと近づいてくる。
彼の纏う雰囲気が、殺気が、冥蛇の背筋を逆撫でる――嫌な、予感を感じていた。
「初めまして。私が『夕星』のマスターです。」
「ねず!」
言い終わるや否や、マスターと名乗った彼の手が動く。放たれたナイフは眠りねずみの機関銃に突き刺さる。
「さぁお嬢さん、少し、私のお相手を。」
「逃げろ!ねず!」
先ほどとは比べ物にならないほど焦った顔で、慌てた様子でマスターに銃を向ける。
「させませんよ。」
腕を蹴られ銃口は逸らされる。冥蛇はその銃口を青龍に向け引き金を引く。
銃弾は弾かれるが、冥蛇はその隙に青龍と距離をとり、眠りねずみのほうに視線を向ける。
「僕を前に視線を切るのは悪手ですよ、玄武さん。」
青龍の刃が冥蛇の肩を掠める。怯むことなく手を伸ばし首を狙う冥蛇の右手。
当たらない攻撃ばかりに焦る冥蛇。当たらない理由は青龍の回避能力の高さだけではない、冥蛇自身が眠りねずみの方に気がとられているからだ。隙をみてマスターの方へ銃弾を放っている。一人で二人を相手しているようなものだ、最速の殺し屋に攻撃が当たるはずがない。
青龍に集中して無力化し、さっさとマスターの方へ助太刀すればいい。しかし、冥蛇にはそれができない。
――――――マスター、奴は、ねずを殺す。
一目見た瞬間、冥蛇はそう確信した。自分が目を離した瞬間、奴はきっと――
青龍から目を離した瞬間、冥蛇の身体を三度の閃光が襲う。
一度目は冥蛇の拳銃を持つ左手、二度目は左の太もも、そして三度目は、
「さぁ、膝をついてください、玄武さん。」
冥蛇の左胸、銀閃が貫いた。が、膝をつくことなく視線を眠りねずみの方に向ける。
しかし、その目は最悪の惨状を捉えた――――飛び交うナイフに切り刻まれる眠りねずみの姿を。
小さなうめき声をあげ、膝から崩れ落ちる小さな身体。
その姿を見た冥蛇の目に怒りが宿る。それは、マスターにねずみを傷つけられた怒りか、それとも、助けられなかった自分への怒りか。
その怒りに怖気ついた青龍は動きが遅れた。
右手で脇腹に刺さっていたナイフを抜きそのままマスターに向けて投げつける。そのナイフはとどめを刺そうとしていたマスターの目の前を横切り、彼の動きを止めた。その一瞬で青龍に背を向けマスターへと距離を詰める。
「逃がしませんよ。」
青龍の刀が器用にアキレス腱を切断すると、冥蛇はようやく膝をついた。
口から血を流しながら、それでも彼の闘志は消えない。言うことを聞かなくなった足を引きずりながらナイフを抜きマスターへと投げつける。
「その身体でこの精度、素晴らしい。ですが少し――威力が足りませんでしたね。」
心臓を狙ったナイフは容易く受け止められた。
「先ほどはナイフをお返しいただき、ありがとうございました。ですので――」
マスターは受け止めたナイフを冥蛇へと投げ返す。
「――貴方のナイフも、お返ししますよ。」
そのナイフは蛇の喉元に突き刺さった。流石の彼も、これは深手だった。
身体が地面に倒れ、目の前が暗く霞む。少し先には倒れている眠りねずみ。
冥蛇は僅かな力を振り絞ってねずみへと手を伸ばす。
「ね……ず……」
その手が彼女の指に触れたところで、彼の意識は途絶えたのだった。




