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干支狩り 辰爺vs東の悪魔

登場人物

・ 東の悪魔

 暗殺の四家 斬殺の東家の当主。一族に伝わる剣術を極めており、その剣技をもって対象を残虐非道に斬り刻み、血の海で一人、狂った笑い声を上げる化け物、狂気の権化と表現される。

 元宵の薔薇の一員であり、現在は裏社会組織『夕星』の一員としても活動している。

・辰爺

 関西にある裏社会組織「連合」の最高幹部 十二神将の一人、辰の神将。神将たちのまとめ役であり、実質トップ。

 かつては連合随一の殺戮者であり、組織内外で数々の伝説が語り継がれるほどの実力者であった。現在も身体能力は衰えたとはいえ、猛威を振るった剣技は健在である。

 爆風を最小限のダメージでやり過ごし、老体に鞭を打って逃げおおせた辰爺。

 しかし、逃げた先には裏社会随一の厄災が立っていた。

 ――――――神サンは意地悪じゃのう……。

 廊下の奥には知らない人はいない、狂気の権化と形容される最狂の殺し屋『東の悪魔』。彼の狂気的な笑みがゆっくりと近づいてくる。

 ――――――年貢の納め時、か……。

 辰爺は杖から隠し刀を抜き構えた。


 合図はない。二人は同時に動いた。

 刀と刀がこすれあう。

 たった一息の間に、五度、金属音が鳴る。

 悪魔がその場から飛び退いた。

「やるねぇ。一回、会ったことあるのかなぁ、東家の人間と。」

「……若いころに、な。声があやつとそっくりだ。」

「へぇ、だぁれ、それ?」

「さぁな、名前は知らんよ。」

 変則的な斬撃が辰爺を襲う。それを紙一重で裁く辰爺。

「ねぇ、アンタたち、何があったの?」

 刀を振りながら悪魔は無邪気に質問する。

「アンタたちの組織って仲良しなイメージだったけど。あんなことになるなんて、ビックリしちゃったぁ。」

「そうでもないさ。いろんなところから爪弾きにされた人間が集まるところじゃ、変な奴が一人や二人紛れても、気付けないわい。」

 互角の戦いのように見える、だが、実際はまだ悪魔は本気を出していない。一度東家の人間、風龍と戦ったことがあるからこそ、辰爺は分かっていた――このままでは、殺されると。

「昔の血が騒ぐ、なぁ――」

 老人とは思えないほどの素早く正確な袈裟斬り。タイミングは完璧だった。襲い掛かってきた悪魔の服をきれいに裂いた。

 それはとても洗練された剣術だった。手数は多くない、だが、どれも正確で確実に急所を狙う戦場で鍛え上げられらものだった。

「うん、流石ぁ、どれもえげつないねぇ。殺戮者は伊達じゃあないなぁ。」

 回避を余儀なくされた悪魔はなかなか踏み込めずにいる。

「何が目的か知らんが、老いぼれも、ただではやられんぞ。」

「くひひっ!そぉこなくっちゃ!」

 金属音が響き、火花と血が散る。

「はあっ!」

 鋭い声と稲妻のような踏み込み。それを悪魔はバックステップで躱す。

 今度は横凪。それもしゃがんで避ける。

 逆に悪魔が跳ねるように逆袈裟斬りを繰り出す。それを間一髪で受け止める辰爺の隠し刀。

「くぅ……」

 悪魔の方が力も速さも上だ。

「アンタ、若い頃はきっと、腕の立つ剣豪だったんだろうね。」

「天下の東家に誉められるたぁ、光栄だねぇ。」

 辰爺の刀が押される。

「で、諦めの悪さも一級品、ってとこかぁな?」

 辰爺は力量も技術も圧倒的に負けている。だが、その目は光を失っていなかった。

「悪いな、若造。儂にも意地というもんがある。ここで退いたら、神将の名折れなんじゃ。」

 シワだらけの両手が柄を握り直す。

「しゃぁあ!」

 たった一瞬だけ、辰爺の力が上回る。押し返されよろけたその一瞬で、刀を翻し悪魔の急所を、首目掛けて旋風のような横凪ぎが襲う。

 一際甲高い金属音が反響した。

「……今のは、危なかったぁね?」

 悪魔が寸でのところで刀を差し込み、そのまま振り抜くと、よく研いだ包丁で大根を切るように、辰爺の刃はスパッと根元から斬られ、乾いた金属音を立てて落ちた。

「アンタの負けだ。」

 悪魔が刀を収めるが、辰爺は床に落ちた刃を拾うとそれを構え、振り抜こうとする。

 それを悪魔の手は優しく抑え込んだ。

「そんなに死に急がないでよ、おじぃちゃん。死んだらみんな、悲しむよぉ?」

「元よりこの身は連合のためにある、そのためなら、生い先短いこの命、いくらでも差し出す覚悟じゃ!」

 決意のこもった老人の顔を見て、悪魔は悲しそうに首を横に振った。

「なら、なおさら、ここで捨てちゃダメだ。」

 そして、優しい笑みで彼の目を見る。

「安心してよ、アンタも、アンタの仲間も殺さないし、すぐに開放する。ただ、ちょぉっと聞きたいことがあるだぁけ。別に、大したことじゃなぁいよぉ?ある組織について、知ってることを教えて欲しいの。――――そぉいう、建前。」

 その言葉を聞いた辰爺の目が見開く。

「……まさか、お主らは、分かっていて――」

「たまたま、だぁよ?」

 くひひ、と青年は無邪気な笑みを浮かべていた。

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