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♦744.Chapter4 Prologue【かくして月は目醒め】

王子達の業務提携にレオナードが加わっております。

同年代男子組の貴重な共同戦線で始まるChapter4、お楽しみくださいませヽ(´▽`)/

 謎の蛇の正体を見抜いたレオナード・サー・テンディジェルは、前線で戦うフリードル・ヘル・フォーロイト達にどうにかその正体を伝えようと頭をフル回転させた。

 発動中の『語り部は一人(ウェルカム・トゥ・)夢を見る(ワンダーランド)』という音魔法によって、彼が言葉にした全てが強力な精神干渉効果を持ってしまう。

 そして彼が見抜いた蛇の正体は──魔神海帝(かいてい)アルミドガルス。あらゆる人格や事象を捻じ曲げかねないレオナードの声で、その正体を口にしてしまえば……あの蛇に手がつけられない程の変異を齎すやもしれない。

 だからその名を呼ぶわけにはいかないのである。

 どうにかして、言葉以外の方法でフリードル達にあの蛇の正体を知らせなければならない。その方法を、彼は必死に考えていた。

 忙しなく眼球を四方八方に動かし、視界に映る全てで何百通りのも方法を検討する。これでは無理だと焦りからか表情が険しくなる一方だったが、ついに手段は見つかった。


(これなら……!)


 レオナードが選んだものは、フリードルが出した避雷針代わりの氷柱。彼が絶え間なく自身の周囲に生成していたものだから、マクベスタ・オセロマイトの雷によって砕かれた物以外にもまだ何本か氷柱が残っている。

 地面に落ちている氷柱の破片を取り氷柱に駆け寄ったレオナードは、氷柱を様々な角度や強さで叩く。


(……やるならあと数本は欲しいところだし、長さも調整したいけど、今はそんな暇が無い。俺の魔力で音を弄ろう。──さあ、ぶっつけ本番だ。やるぞレオナード・サー・テンディジェル!)


 そして彼は氷柱を使い、手探りで冷たい音を奏でてゆく。

 叩き、なぞり、音の魔力で音階を再現する。それと並行して奏でた音色を音の魔力で増幅させ、雷鳴が轟く戦場でもなお彼等に届くように音を響かせた。


(頼む、誰か気づいてくれ……!)


 彼が奏でたのは、戯曲〈アースヴァルトゥの嘆き〉の音楽劇で使用される劇伴。

 曰く。蛇の紋様を掲げる古代王朝アースヴァルトゥの王の落胤であった少年が、王の死によってその人生を狂わされた。

 少年は愛する人を、場所を、夢を、全てを奪われてもなお、愛する人の為に醜い世界に身を置き続け……やがて彼は絶望した。そして、この理不尽な世界の全てを呪ったのだという。

 憐れなその男は、尽きぬ絶望から狂い全てを呪った末に、人の形を失ってしまったのであった……。

 この大陸において、一部の国々を除いて世界的に有名なこの音楽劇。海帝(かいてい)アルミドガルスと関連づけられる事が多いこの曲を奏でれば、あの三人のうち誰かは気づいてくれるだろうと……レオナードは教養のある三人の王子を信じたのだ。


(……この曲、聞いたことがある)


 真っ先に気づいたのはカイル・ディ・ハミル。フォーロイト帝国に密入国するようになってから、帝都の劇場にて数々の演劇を鑑賞していたこの男は、聞き覚えのある曲に耳を澄ませた。


「──〈アースヴァルトゥの嘆き〉か? 今、レオナードがわざわざ()るってことは、つまりあの蛇の正体……」


 平静を失っていたカイルだが、戦場に似つかわしくない悲壮感溢れる曲を聞き、却って少しだけ落ち着いたようだ。


「フリードル、マクベスタ! あの蛇はアルミドガルスだ!! 全てを呑む蛇の魔神、海帝(かいてい)アルミドガルス!! 一度(・・)()呑み(・・)干せ(・・)ない(・・)圧倒的(・・・)()物量(・・)()ぶつ(・・)けれ(・・)(・・)いい(・・)はず(・・)()!!!!」


 レオナードが奏でる戯曲〈アースヴァルトゥの嘆き〉の劇伴から海帝(かいてい)アルミドガルスに辿り着いたカイルが、これでもかと叫ぶ。

 海帝(かいてい)アルミドガルスは全てを呑む翼を持つ大蛇の魔神。だがその胃袋には限度がある。

 故に数千年前……海帝(かいてい)アルミドガルスが人間界を呑み干す前に、美しすぎる怪物が海帝(かいてい)アルミドガルスを捕らえ、魔界に連れて行けたのだ。


「……急に息を吹き返しよって。あの爬虫類の正体に気づいたのは貴様ではなくレオナードだろう。何を我が物顔で…………まあ、今はそのような些事に使う暇はない。聞いたかマクベスタ・オセロマイト! 先程から無駄に落としている雷を一度に、一点に集中させろ! 僕がお前に合わせてやる!!」


 舌打ちの後、フリードルは気を取り直してマクベスタへと指示を出す。彼の人生において一二を争う大きな声だ。

 相変わらず限界ギリギリの状態のようで一言も発さないものの、フリードルの声は聞こえていたようで、マクベスタはこくりと一度頷いた。

 するとどうだろう。あれ程に騒々しかった雷鳴がピタリと止み、マクベスタの持つ聖剣ゼースがバチバチと不穏な音を溢れさせている。


(フリードル殿はオレに合わせてくれると言った。ならば後はカイルだが……)


 嫌な汗を滝のように流すマクベスタは、少しだけ首を動かし後方のカイルを一瞥した。

 この三人の中で最も魔力運用が得意なカイル。圧倒的な力で押し切るのなら、カイルの助力は必須だろう。

 しかし彼は、既に使用不可のものを除き手札を全て切ったことで、何も出来ない事に焦っている。新たな魔法を即席で作るのははっきり言って困難だ。

 だが、相手の弱点が分かれば話は別だ。既に切った手札でも、やりようはいくらでもある。


「──サベイランスちゃん。ありったけの魔力で魔力圧縮弾を撃ち込むぞ」

 《星間探索型魔導監視装置、仮想起動。魔導変換開始》


 その手に持つ板状の魔導兵器(アーティファクト)が無機質な号令をかける。


 《事前指定、目次参照完了。魔力総括機構、全面起動。演算最適化、実行。形状変化、開始。大戦兵器化(モード・ワルキューレ)──再現。…………環境干渉開始。魔力槽、許容値を超過。術式を仮起動し、魔術陣そのものに魔力を収集します。──魔力収集率、二百五十パーセントを記録。以降の環境干渉は人体の生命活動に致命的な影響を及ぼす為、魔力収集を停止します》

「空間から集めなくていいから、俺の魔力を全部使え。どうせすぐには死なねぇし」

 《………………魔力収集率、三百パーセントを記録。百パーセント超過時点で有機物保護術式の適用外の為、自動的に有機物保護術式は停止しておりますが、魔力収集を続行しますか?》

「いけるところまで続行して、これ以降の魔力は全部球状の結界に回してくれ」

 《承認。──魔力収集率四百パーセントを記録。対魔力、対衝撃の特殊結界を展開。対象:海帝(かいてい)アルミドガルス……収容成功。結界に魔力変換及び魔力吸収の術式を展開。──自動反射、自動修復、自動強化、自動変換、全術式成立(オールグリーン)


 なんか俺の知らない機能増えてない? とカイルは一瞬頭を捻ったものの今はそれどころではないと、巨大なスナイパーライフルに変化した星間探索型魔導監視装置に触れ、フリードルとマクベスタの方を向いた。


(カイルも大丈夫そうだ。ならば──)

塵芥(ゴミ)が……また奇妙なことをしてくれたな)


 海帝(かいてい)アルミドガルスを囲むように現れた、無数の魔術陣からなる球状の結界。フリードルが試しに氷柱を生やしたところ、なんと結界をすり抜けて中に攻撃が通るようだ。

 であれば。もはや一斉に攻撃するしかない。


(……──ゆくぞ、ゼース)


 聖剣ゼースを頭の上に構え、心臓を潰しそうなぐらい鈍く轟く雷を、振り下ろす。


「下手な小細工は無用だろう。──凍え死ね」


 蛇の真下に広がる白藍色の魔法陣から、極寒の魔力を巻き込んだ猛吹雪が溢れ出す。


「撃て、サベイランスちゃん」

 《攻撃準備(カウントダウン)、開始。三、二、一……──魔力圧縮弾、発射》


 世界を砕く砲手に集束した膨大な魔力が、空間を抉る程の不協和音を響かせ放たれる。

 まさに圧倒的な物量。マクベスタ、フリードル、カイル。それぞれが持つ魔力の大半を犠牲に放った、渾身の一撃。


(なんて威力の攻撃なんだ……!? これなら……!!)


 戦況を見守るレオナードが固唾を呑む。


「──────」


 しかし。土煙の向こうで、蛇はまだ蠢いている。

 たしかに物量で押し切った。海帝(かいてい)アルミドガルスは彼等の放った攻撃ではじめて負傷し、その体に無数の傷を残している。──だが、殺すには至らなかった。


「っ、うそ……だろ……」

 《──創造者(マスター)への魔力供給開始。当機残存魔力を強制譲渡します》


 最も魔力を消費したカイルがその場で膝をつけば、星間探索型魔導監視装置が即座に魔力回復に努めた。

 それとほぼ同時に、ついに限界を迎えたマクベスタが聖剣ゼースを落とし、その場に倒れ込む。もう、指一本動かないようだ。


「マクベスタ・オセロマイト……! チッ、あれでもまだ足りないというのか……!」


 ただ一人立っているフリードルだが、彼もまた魔力の大半を消費したばかり。戦うとなれば魔剣極夜一つでの消耗戦となるであろう。


「……僕は皇太子だ。この国の皇帝となる男だ。であれば──我が国、我が民に害成す者を前にして、最後まで戦わぬ選択肢などない」


 嫌な汗もそのままに、魔剣極夜を構える。

 カイルが膝をついた時点で、あの特殊な結界は解除されていた。海帝(かいてい)アルミドガルスが動かないのはダメージによるものだろう。……そうだと思いたい。

 そう、フリードルがらしくもなく弱気になった、その時。


「──燃えて」


 可愛らしい声が僅かに聞こえたかと思えば、海帝(かいてい)アルミドガルスが灼熱の炎に包まれた。


「燃えて、燃え上がって、燃え尽きて」

「ッ、シャ、ァ、ァアアアアアアアアッ!!」


 はじめて傷を負い、未だそのダメージが残る海帝(かいてい)アルミドガルスがあまりの熱に叫ぶ。

 しかし炎の勢いは衰えるどころか増すばかり。


「わたしの義手(みぎて)の魔力を全部あげる。だから、わたしのアミレス様を脅かすもの全て──……」


 既に腹一杯になりこれ以上は何も呑めない蛇を、熱く燃え盛る魔力が襲う。義手を晒す少女──メイシア・シャンパージュがこれまで十年近く溜め込んできた膨大な火の魔力が、まるでマグマのように海帝(かいてい)アルミドガルスを飲み込む。

 そして、彼女の両眼(・・)が妖しく光る。


「爆ぜて消えなさい!」


 刹那。世界から音が消えた。──否、凄まじい爆発により、その場にいた全員の耳がキンッと、遠くなったのだ。

 しかし、フリードル達は無事だった。それどころか街すらも壊れた様子はない。


「ッ、何が起きて……!?」


 フリードルが辺りを見渡せば、突如現れた伯爵令嬢の他に、もう一人、誰かがこちらを見据えて立っていた。

 その男は、ホッとした様子で胸を撫で下ろしている。


「ふぃー、あぶねーあぶねー。俺でもちょっと抑えきれなくなる程の爆発とか……俺がいなかったらどうなってたんだ、コレ。マジで潜在能力(ポテンシャル)やべーなお嬢さん……」


 紅い三つ編みを揺らす男──火の最上位精霊エンヴィーは、最悪の展開を妄想しては苦笑した。

 どうやら、メイシアの膨大な魔力を火薬に、彼女の持つ延焼の魔眼と爆裂の魔眼で高威力の爆発を引き起こしたらしい。

 その爆発による被害を海帝(かいてい)アルミドガルスのみに留めたのはズバリ、エンヴィーの介入によるものだ。メイシアが引き起こした炎と爆発を火の権能で操り、先程カイルが作っていたような球状で、人や街に被害が及ばない一定範囲内に抑え続けたのである。

 流石は最上位精霊といった離れ業だ。


「大丈夫かー、マクベスタ。随分とまあ暴れたみてーだけど」

「……っ、ぁ…………」

「喋れねーの? ま、よく頑張ったな。お嬢さんの魔眼があの蛇に効いたのは、間違いなくお前等が決死の覚悟で魔法をぶっ放して、あの蛇の権能を抑え魔力耐性を削り切ったからだ。よくやったよ、お前等は」


 マクベスタに駆け寄ったエンヴィーはニカッと笑い、限界を迎えて倒れ伏す弟子の頭をわしゃわしゃと触った。


(──爬虫類が、消えた。気味の悪い気配もしない。つまり……今度こそ殺せたのか)


 張り詰めていた緊張の糸が少し解れたのか、フリードルの体が一度だけふらりと揺れる。しかしすぐさま何事もなかったかのように仏頂面に戻った。


塵芥(ゴミ)は……放っておいても特に問題なかろう)

「──シャンパージュ伯爵令嬢。令嬢が何故ここに?」

「アミ……王女様に、頼まれまして。わたしとエンヴィー様にはカイル様とマクベスタ様の援護をしてほしい、と。皆様を探していたところ、先程のカイル様の声が聞こえたので……エンヴィー様と相談の上、わたしも少しばかり魔力を使ったのです。しかしまさか、皇太子殿下とテンディジェル公子までいらっしゃるとは思いませんでした」

「そうか。…………今、我が愚妹に頼まれたと言ったか?」

「言いました」

「やはりあの女もいるのか、この街に」

「あちらの方で、氷の精霊様とデリアルド伯爵と共に不審人物と戦っております」

「愚妹めまた無謀な真似を……ッ!」


 メイシアが淡々と経緯を話せば、フリードルは髪をくしゃりと握って盛大にため息を溢した。


「今すぐ愚妹の元へ案内しろ、シャンパージュ伯爵令嬢。学習しなさすぎるあの女はどうせまた無茶をしている」


 フリードルが我先にと踏み出した瞬間、ガクンッと膝から崩れ落ちた。突如として全身から力が抜けたのだ。

 何が起きている? と魔剣極夜を支えに、なんとか膝をつくのは回避したフリードルが震える手を凝視すれば、


「──大丈夫ですかフリードル殿下! ややや、やっぱり反動ありますよねすみませんっっっ」


 先程までの冷静沈着な軍師はどこへやら、眉尻を下げたレオナードがドタドタと駆け寄ってきた。


「反動とはどういうことだレオナード……」

「ひぎぃっ……! じ、実はですね、その、先程戦闘中に俺が使いました『語り部は一人(ウェルカム・トゥ・)夢を見る(ワンダーランド)』は有体に言えば精神干渉魔法で……こう、ちょちょいと精神を弄りまして、皆さんには一時的に限界を遥かに超えた力を発揮していただいたのです……なので……そのぅ…………魔法を解除したことで、限界を超えた反動がばっちり出ているかと思います」

「貴様、皇太子に精神干渉魔法を使ったのか」

「すすすすすすすすすすみませんでしたぁああああああああああ!!」


 滝のように汗を流し、凄まじい速度で何度も頭を下げるレオナード。彼の薄っぺらい体も、これを繰り返せばいつかは腹筋が割れるやもしれない。

 実のところ、フリードルは全く怒っていない。先の戦闘中、レオナードの魔法に支えられたのは紛れもない事実だからだ。


(だが、反動があるならば先に言え。危うく民の前で皇太子(ぼく)を地に膝をつくところだったではないか)


 現在の醜態もそうだ。これは皇太子として恥ずべき姿。不幸中の幸いは、落雷やら氷柱やら魔法やらの騒ぎで周辺住民は避難しており、これを目撃した民はメイシアとレオナードだけな事だろう。


「肩を貸せ、レオナード。このままではまともに歩くことすら出来ない」

「お、俺なんかの肩でよろしいのですか……?」

「僕の足腰が立たなくなったのはお前の所為なんだが」

「はひぃっっ! 喜んでフリードル殿下の足になりますならせていただきます! なのでその誤解を生む言い回しはやめてくださいお願いします!!」


 いそいそもぞもぞと鈍臭い動きで肩を貸してくるレオナードを、フリードルは珍妙なものを見る目でじっと見つめる。

 そこにマクベスタとカイルを小脇に抱えるエンヴィーがやって来て、「へーまだ立てるのか、やるじゃんお前」とフリードルを見て感心したようにため息を一つ。


(……何故僕の妹の周りには、こうも変な男がわらわらと集まるんだ?)


 それは件の妹が立派な変人だからなのだが、同じく世間一般的には変わっている部類に入るこの男は、答えに辿り着けない。

 その後、メイシアの案内で彼等はアミレス・ヘル・フォーロイトの元へと向かったのであった……。


明日も20時頃に更新予定です!

よろしくお願いします〜!ヽ(´▽`)/

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― 新着の感想 ―
こんばんは〜!今日も更新ありがとうございます! さて、いやぁ同年代男子組でしか得られない栄養ってありますよね〜。 アミレスがいないから必要最低限の連携なのに、高水準のスペック活用するからとんでもない…
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