番外編 シャンパー新聞朝刊の人気コーナー
10/2(木)の注目度ランキング[連載中]で6位にランクインさせていただけたので、その記念の番外編です。(こじつけ)
時系列的には、妖精族侵略事件後、建国祭直前になります。
※本編最新部分までのネタバレを含みます。
シャンパージュ伯爵家が運営するシャンパー商会には、帝国内の様々な情報の発信を目的とした新聞社部門がある。
帝国内の主要市街に支部を置き、各地の情報から事件の報道、流行りのファッションに食べ物、更には星占いにお悩み相談に読者投稿コーナーと……様々な企画で紙面を彩り、見事帝国内シェアトップを誇っている。
そんなシャンパー商会の発行する『シャンパー新聞 帝都版』の朝刊には、近頃身分問わず若い女性を中心として密かな人気と支持を集めるコーナーがあった。
その名も──〈〇〇な美男子ランキング〉。
例えば、〈朝が弱そうな美男子ランキング〉や、〈デートの時エスコートしてくれそうな美男子ランキング〉などなど。
帝都在住の様々な美男子達を、同じく帝都在住の女性達が想像だけで勝手にランクづけする企画だ。こちらは週に一度しか新聞に載らないのだが……驚くべきことにこれがまさかの大人気企画なのである。
基本的には身の回りの人や有名人を、毎週出されるお題に添って匿名で推薦、投票する仕組みとなっており、投票数の多い上位五名が紙面で発表される。
貴族令嬢は平民を、平民は貴族令息を、それぞれ本来交わらない世界のまだ見ぬ美男子を知れるからと、身分問わずの人気を博していた。
当然、ランクインした美男子に迷惑をかけてはならない。相手のプライベートは必ず守ること。やるなら親衛隊に留めるべし。──とは、〈〇〇な美男子ランキング〉編集担当の言である。
そんな〈〇〇な美男子ランキング〉にて、先日新たなランキングのお題が発表された。
題して、〈恋人にしたい美男子ランキング〉。わりと奇抜なお題の多い〈〇〇な美男子ランキング〉コーナーにしては真っ当なものが来たと大騒ぎになった。
その為、帝都在住の若い女性達は、興奮気味でああだこうだと投票先について議論を交わしているのだという──……。
♢♢
「〈恋人にしたい美男子ランキング〉……今回のお題はえらく普通ね。前なんて、〈罵ってほしい美男子ランキング〉だったのに」
建国祭目前だからか、やはり世の女性達は恋人を求めているらしい。素敵な恋人と建国祭にてデートをしたいという熱意が垣間見えるようである。
シャンパー新聞朝刊に週一で現れる企画、〈〇〇な美男子ランキング〉。毎日朝刊に軽く目を通す身としては、毎週の連載というのもあって見慣れたものだが……どうやら今回はまともなお題だ。
以前募集していたお題は、〈罵ってほしい美男子ランキング〉。ちょうど今読んでいる紙面にランキングが載っているのだが…………
〈♡四位:イリオーデ・ドロシー・ランディグランジュ卿(二十四歳)
☆投票コメント☆
・以前社交界でお会いしましたけれど、非常に冷ややかな御方でしたわ。あの麗しいお顔で睨まれたら、きっと……(東部地区在住 縦ロールに五時間さん(十七歳))
・王女殿下にお仕えするクールな騎士様がわたしにだけ辛辣になってほしい。そのギャップにキュンキュンしたいです。(匿名希望)
・青の騎士様に罵ってもらうためにはどうすればいいのでしょうか。犯罪者になれば良いのでしょうか?(西部地区在住 シュガーさん(二十七歳))〉
〈♡二位:西部地区のラークさん(二十六歳)
☆投票コメント☆
・いつもニコニコしていて優しいから!(南部地区在住 鶏肉は焼いて食べてね! さん(二十歳))
・実はめちゃくちゃ口と態度が悪かったりしたら最高だと思います。(匿名希望)
・ラークさんに罵られたい人生でした。(南部地区在住 リリリさん(二十三歳))〉
〈♡一位:西部地区のユーキさん(年齢不詳)
☆投票コメント☆
・ユーキ様お願いします罵ってください本当にお願いしますなんでもしますから!!(西部地区在住 ユーキ様の靴さん(二十一歳))
・顔面国宝。世界の宝。あの顔に罵られた人間は間違いなく世界一幸せです。羨ましい。(東部地区在住 ルビーさん(十六歳))
・ご尊顔から放たれる容赦の無い言葉と、どうでもいいと口ほどに物を言う清々しい笑顔。まさに至高ですわ!(東部地区在住 薔薇子さん(年齢はヒミツ))
・好きですユーキ様!わたしをこっぴどくフってください!(南部地区在住 リンゴさん(二十二歳))〉
──うちの部下がランクインしまくっているわ。それはもう堂々と、ワンツーフィニッシュからの四位まで掻っ攫っている。こんなひっっっどい内容のランキングで。彼等の上司としてどう判断してどう動けばいいのかしら、これは。
どうやら我が私兵団はこのコーナーの常連なようで、以前はイリオーデやラークやシャルぐらいなものだったが、最近はユーキの名前もよく見かける。
何が恐ろしいって、宝石眼と本性を隠さなくなったユーキを世間はまだ知らないのだ。ここ最近は東宮にいるけれど、ユーキ達が西部地区に戻ったら大変なことになるんじゃないの?
「むむむ。ユーキとラークとイリオーデの名前が書いてあるな。三人とも有名人じゃないか」
「有名になっても嬉しくないけどね。最近、僕の周りをうろつく喧しい集団がいて困ってたところだし」
シャルとユーキがテーブルに置いた新聞を覗き込む。この度見事に一位を取ったユーキは呆れた様子だ。
「〈恋人にしたい美男子ランキング〉か…………いまいち趣旨がわからんが、アミレスがこのような俗的なものに興味があったとは驚きじゃな」
「興味があるか無いかで言えばあるけれど、私が新聞を読む理由の大半は市井の情報収集の為だよ。このコーナーはたまに目を通すぐらいかな」
「そうじゃったか。してこのランキングは誰が決めておるのじゃ?」
「この新聞を読んだ人達がシャンパー商会新聞社部門にこのコーナーに関する手紙を送って、編集担当の人が集計して何週間後かに発表って形だったかしら」
「ほぉー……随分と手間暇がかかっておるのぅ。しかも不特定多数の人間の主観の寄せ集めとな。近頃の人間達は、珍妙なことばかり思いつくの」
「人気投票ってそういうものだからね。主観で投票先を選ばせて、より多くの人間に投票させる。──そうすることで分かりやすく需要を可視化できる便利なものさ」
「流石は兄上! 賢いのじゃ!」
珍妙な企画に興味津々のナトラと、客観的に意見するクロノ。竜種達にとってもこのコーナーは目を引くものがあるようだ。
「……君は、投票しないのか?」
「私? 私はしないかなぁ。恋人にしたいとかよく分からないからね。それに私、一応は王女なので。誰が好いとか軽率に言っちゃいけない立場なのです」
「ふぅん。まあ、どうでもいいけど」
じゃあなんで聞いてきたんだろう。
クロノにしては珍しく、進んで私と会話してくれたかと思えば……何故かムッとした表情で彼はそっぽを向いてしまった。
「じゃあさじゃあさ! ひめさまが思う〈かっこいい美男子ランキング〉ならどお? オレ何位ぐらいかにゃあ?」
「かっこいい美男子かぁ…………難しいなぁ。私の知り合いって皆顔整いなんだけどやっぱりそれぞれ系統が違うと言うか厳密には別ジャンルの顔整い達だから一括りにランキングに当て嵌めるのは難しくて、どうせやるならランキングを細分化して〈イケメンランキング〉〈美人ランキング〉〈美少年ランキング〉〈美男子ランキング〉でそれぞれ考えるべきだと思うの」
「あんたは急にどうしたのさ……」
ジェジが尻尾を振りながら鷹揚に放った言葉に、オタクの血が騒ぎだす。
私の知り合いの美形達の容姿は、様々な系統に分かれている。それを一括りに〈美男子ランキング〉に当て嵌めて順位を定めてしまうのは、不誠実なのではなかろうか。
「それと、かっこいいっていうのは私の主観に拠る判断になるからやるならあくまでも客観的に、世間一般的に〈イケメン・美人・美少年・美男子〉に分類される人達の中でよりそのカテゴリーに相応しい容姿の人を高い順位に据える必要があるわね」
「じゃが、このランキングは主観でやるものなんじゃろ? ならばそれで良いではないか」
「不特定多数でやるならばそれで良いかもしれないけれど、私一人で考えるとなると話は変わってくるわ。あくまでも公平に、公正に、誠意を尽くして順位を定めないと」
「そういうものなのか……むつかしいのぅ、人間の流行りというものは」
アルベルト作のベビーカステラ擬きをはむはむと頬張るナトラが、眉根を寄せて、長椅子の上で足を振っている。
その後も、身内で各種ランキングを考案した。そしてたっぷり時間を費やして無事に完成した各種ランキングを見たユーキは、
「…………これ、絶対に誰にも見せない方がいいと思う。間違いなく面倒なことになるから」
「なんで? ただのランキングだよ?」
「いいから僕の言うこと聞いとけって。客観的でもなんでも、あんたが決めたこのランキングに一喜一憂不満爆発大乱闘する奴が確実に現れるから」
「えぇ……?」
今すぐこの紙を破り捨てたいとばかりに必死の形相で、私の両肩を掴んで諭してきた。
東宮の仕事を手伝うべく何度か席を外していたアルベルトがとても見たがっていたが、シャルが「お前は見てはいけないらしい。ユーキがそう言っていたんだ。だから見ない方がいいぞ、ルティ」とガードしていたようで。
結局こちらの各種ランキングは、ユーキとジェジとナトラとクロノだけが真相を知る、幻のランキングとなってしまったのであった…………。




