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717.Episode Ameless Hell Forloyts:【Dear you】

「! メイシア、降ろすわよ」

「え? は、はい」


 進行方向──北部地区方面から強い殺気を感じ、地面でヒールを削り立ち止まる。

 メイシアを降ろしてすぐさま白夜を呼び出し、柄に手をかけながら一歩また一歩と進み、七歩目。泥水が形を纏ったかのような、黒い流動体の何かが襲いかかってきた。


「っ!」


 白夜を抜き、襲いかかる何かを斬るも、やはり見立て通りの水の塊で手応えは無い。ならば、


「顕現しなさい、アマテラス!」


 固有能力の太陽顕現を発動した状態で、アマテラスをこの場に召喚する。

 抜刀したそばから溢れ出す、星々のように瞬く虹色の光。火の最上位精霊たるエンヴィー師匠が鍛刀した聖剣だけあって、本当に派手で美しい。

 星々を纏ったような刀を振るい、襲いかかる水の塊を切り裂けば、それは狙い通りに蒸発して消えた。


「なんだったのかしら、今の……」

「蛇のような形をしていたような。──それよりもっ、お怪我はないですか!?」


 アマテラスと白夜をそれぞれ鞘に納め、こんなこともあろうかとドレスの中に仕込んでいたソードベルトを二つ取り出し、腰に巻く。

 白夜では斬れないが、アマテラスの太陽顕現が通用するもの。メイシアが見たらしい蛇のような形状というのも引っかかる。


「……計画変更、でいいわよね。メイシア、今すぐ東宮に行きましょう。あそこにはナトラやスルーノがいるから、万が一の時は彼女達が貴女を守ってくれる筈よ」

「え──、アミレス様は? どう、なさるおつもり……なんですか?」


 また抱えようと近づけば、メイシアは逃げるように一歩後退り、顔と体を強張らせた。


「戦うわ。先程の謎の蛇へ最も有効な攻撃手段を持つのは、私だもの。聖人様やジスガランド教皇も該当するけれど、彼等はきっと、巻き添え(・・・・)を警戒してそう使えないだろうし、そもそもあれが殲滅対象に判定されるかどうかも不明だから。私がやるしかないのなら、私がやらなくてはならないわ」


 私は王女だから。どれだけ無価値で、無意味で、無駄な人生でも。定められた運命があるのだとしても。私は──このフォーロイト帝国の王女として、その役割を果たす義務がある。それが私の責務。これが私の、証明。


「私は、この国の王女、アミレス・ヘル・フォーロイトだから。──今度こそ、私は私の役割を果たしたい」


 何も出来ず、ただ使い捨てられてばかりだった私に、今や身に余る程の価値がある。意味がある。まだ、王女として生きることを許されている。

 だから、私は私の役割を果たさなければならない。

 ……──ずっと、こんな私の為にと頑張ってくれていた、彼女(・・)の為に。

 私の夢も、願いも、想いも、全部受け入れて尊重してくれた、たった一人の愛する貴女(・・)の為に。

 私の愛する人。貴女だけが、私の宝。

 私は戦う。貴女の宝物を守る為に。貴女がこれ以上苦しまないように。私が、戦う。私の宝物を守る為に、私も戦う。


 私はもう、お父様の為には戦わない。

 私は──……私の幸せを願ってくれた、たった一人の少女(あなた)の為に戦う。

 それが、アミレス・ヘル・フォーロイトの決意。


「だからね、メイシア。あまり私を困らせないでちょうだい。私達(・・)は絶対に貴女を守りたいの」


 それが彼女の望みだから。

 私の優先順位は、一に彼女、二にお父様と兄様、三にフォーロイト帝国と民だ。何よりもまず優先されるべきは彼女の思い。今の私の中では、そう定義つけられている。

 ──故に。そこに、他者の意思が介在する余地は無い。


「さあ、行きましょう。事が片付いたら、答え合わせもしてあげるから」


 返事を待たず、メイシアを抱えて地面を蹴る。

 無理に精神世界の深層へ沈めた彼女がいつ目覚めるかわからないし、可能な限り早く事件を解決して……彼女を苦しめる全てを排除しなければ。

 彼女が自分と向き合う為の時間稼ぎをしつつ、その間に私は、この事件と彼女の苦悩の種を解決する。


 これ以上、貴女が傷つかないように。

 私の願いを守ってくれてありがとう。だから今度は、私の番。私は、貴女の願いを守る。

 貴女が誰にも言わなかった、『これから先も皆とずっと一緒にいたい』という心からの願いを、私だけは知っているから。

 私が貴女の願いを守る。その為に、貴女の願いを脅かすあらゆる要素を排除する。それが、私の成すべき事。


 これは私が、【親愛なる貴女へ】贈る感謝と愛の全て。

 きっと貴女は受け取ってくれないだろうけれど、それでも身勝手に押し付けさせてね。私の愛を。今の私の全てを。

 アミレス・ヘル・フォーロイトの未来を、厚顔無恥にも貴女に捧げるわ。重いとか、煩わしいとか言われても、私はもう止まれない。


 だって私は──……愛の為に生きる氷の血筋(フォーロイト)ですもの。


ずっと『みこ』と共に在って、『彼女』の想いと願いと苦痛を誰よりも知る悲運の王女が、ついに、理不尽で不公平なこの舞台へ戻って参りました。

独善的な愛の為に、アミレス・ヘル・フォーロイトが動きだす────!?


来週は6/16〜6/20まで、平日は毎日更新予定です♪

ではまた次回お会いしましょう。引き続き、フォーロイト帝国での日々をお楽しみください〜!ヽ(´▽`)/

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― 新着の感想 ―
こんばんは~!今日も更新ありがとうございます! さて、やっぱり彼女が……まさしく『彼女』と一心同体で唯一無二であるアミレス・ヘル・フォーロイトがついに完全にゲームと決別し、たった一人で彼女の全てを受…
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