715.Date Story:with Mayshea2
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「あれ。アミレスじゃん。それに伯爵令嬢も」
「これは……アミレス王女。ご無沙汰しております」
「姫! メイシアちゃんもいる! 二人ともすっごくカワイイ〜!」
メイシアに連れられてシャンパー商会系列のサロンに入ると、そこには不思議な組み合わせの三人組がいた。
「ユーキさんと、メアリードさんと……無知なものですみません。司祭の方とお見受けしますが、どちら様ですか?」
「これは失礼した。オレはセインカラッド・サンカルという者です。ユーキの従者とだけ覚えていただければ」
「ユーキさんの。わたしはメイシア・シャンパージュです。以後お見知り置きを」
「ああ、よろしく頼む。日長石……それに柘榴石のような瞳のお嬢さん」
どこか眼差しが鋭いメイシアが訊ねると、セインカラッドは国教会式の礼をして名乗った。そして二人は表面上は和やかに、されど淡々と言葉を交わす。
「ユーキ兄。やっぱりあの人、関わっちゃダメなタイプの人だよ。初対面のメイシアちゃんに変なこと言ってるヤバい人だよ」
「いやー……久々に再会した幼馴染の頭がおかしくなってるとは。誰かれ構わず牽制するのはやめてほしいな、後が面倒だし」
「……あの人の暴走に巻き込まれるのはいいんだ。ふぅん。ユーキ兄、あの人に甘くない? ジェジといいあの人といい姫といい、ユーキ兄って頭がちょっとおかしい人に甘いよね」
「あんたはどこに怒ってんの……別にそんなつもりは…………特に無いけど、言われてみれば確かに全員頭おかしいな……」
何やら失礼なことを言われている気がする。ユーキもメアリードも、私達をなんだと思っているのかしら。……そんなところもまた、愛おしく感じるのだろうけど。
私には、まだよく分からないわ。
「もしかして、貴方達は三人でこのサロンに来たの?」
会話を遮るように問えば、
「元々はアタシとユーキ兄のふたりきり♡だったのにぃ……そこのセインカラッドさんが勝手についてきたの」
「ユーキ在る場にオレ在り、だ。ユーキの従者として、オレはユーキの傍に四六時中居なければならないのでな」
「だから四六時中は邪魔だよ。……メアリーがどうしてもここのケーキを食べたいとか言い出してね、僕はその付き添い。で、これはいつの間にか居た付きまとい」
「そこは護衛と言ってくれ、ユーキ。まるでオレが犯罪者みたいだ」
メアリードは不満げに唇を尖らせ、ユーキは呆れたようにため息をこぼした。そしてどうやら、セインカラッドは呼ばれていないのに勝手に着いてきたようだ。
「そうなのね。メアリード達が嫌なら、セインカラッド・サンカル卿の身柄はこちらでどうにかするけれど……どうする?」
「え? えぇと…………アタシはユーキ兄とふたりきりがいいけど、でもユーキ兄はあの人がいた方が楽しそうだから。アタシ、我慢する」
「……いい子ね、メアリード。それなら私は何もしないでおくわ」
想い人の為にこの場は譲歩する姿勢を見せた優しい彼女の頭を撫でてあげれば、ユーキが訝しむようにこちらを見つめてきた。
「──アミレス。あんたもしかして今、体調悪かったりする?」
「どうしてそう思ったの?」
「なんか様子が変だから。王女だし忙しいのは分かるけど、ちゃんと休みなよ。イリ兄なら喜んで、あんたの代わりに馬車馬の如く働くだろうしさ」
「ふふっ、それもそうね。でも彼等にばかり無理をさせる訳にはいかないわ。私、王女ですもの」
「うわ出た。アミレスの変な責任感……」
相変わらず不躾なことを宣うユーキに、何か言ってあげようかとも思ったのだけど。それより先に私達の間へとメイシアが割って入ってきた。
「そうですよっ、アミレス様は今ご体調が優れないのです! 今すぐお休みになっていただかなければ……!」
彼女の後ろには、サロンの従業員が。どうやらユーキ達と雑談している間に話を通してくれていたようだ。
「本当に具合が悪いのなら、セインに──」
「行きましょうアミレス様!」
「あっ、ちょっと待ちなって……!」
メイシアに背中を押されて、別れの挨拶も無くその場を後にする。
やがて通されたのは、サロンの中の一室。彼女がシャンパー商会会長の娘だからか、対価も無しに、そこを無料で貸与してくれるのだと言う。
更には体に良いとされる飲み物と、様々な薬を部屋に置いて、従業員は退室した。
「……こんなにも民に気を遣わせてしまうなんて。王女失格ね、私」
「いいえっ、そのようなことは! アミレス様のお力になれるなど、我々にとっては正真正銘の栄誉ですから」
流石にわざわざ用意してもらったものを無碍にはできまい。私は、特に体調不良ではないのだけれど……一応、薬をいただいておこうかしら。
これは……頭痛薬。こちらは胃薬、こちらは解熱薬、こちらは…………。薬は全て粉薬だ。紙に包まれ、更にそれを包装したものに、薬の名前と薬効が記載されている。
「……そうだ。ねぇ、メイシア。どうしても私を休ませたいのならば、セインカラッド・サンカル卿をお連れした方が早いわよ」
「え? どうしてですか……? せっかく、アミレス様と彼等を引き離せたのに?」
適当に取った薬を喉に流し込み、話を振れば、メイシアはむぅと拗ねたように頬を膨らませた。
「だって彼は光の魔力を持っているもの。きっと、ユーキもそう言おうとしていたと思うわ」
「そ、そう、なんですか……? ごめんなさい、わたし、目先の感情に囚われて余計なことを」
「……謝らないで、メイシア。貴女は悪くないの。貴女がここの従業員に頼んでくれたおかげで……ほら、この通り。私の顔色もかなり良くなっているでしょう?」
「たしかに、先程と比べれば……でも、まだ顔色は少し優れないままです。わたしはなんということを……」
笑ってみせれば、メイシアは眉尻を下げてこちらを見つめ、やがて俯いた。
「ふふ、そうね……メイシアがどうしても心配だって言うのなら、少しここで休んでいきましょうか。もう少し元気になったら、街に出るのはどうかしら」
「は、はい……っ! わたし、まだサンカル卿がサロン内に居るかどうか、捜してきます! アミレス様はどうかこちらでごゆっくりお休みください!」
勢いよく立ち上がって彼女は部屋を飛び出してしまい、私は取り残されてしまった。