表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

819/829

713.Main Story:Ameless

 師匠とフリザセアさんに見送られ、ハイラ紹介の使用人ゼルさんに馬車を出してもらい、シャンパージュ伯爵家へと向かう。

 何かしらの大事件が起きるとは思えない程、平和で活気溢れる街を横目に、手が僅かに震えた。

 ……何度も何度も帝都内で事件が起きて、それでも建国祭を楽しもうと、皆一生懸命なのに。今回の事件を防げなかった。後手に回ることを余儀なくされてしまった。王女として不甲斐なくて、今にも切腹したくなる。


「私みたいな女に名誉ある死なんて贅沢か……」


 そもそも自ら命を絶つ度胸も無いのに。何を言っているのだろうか、私は。


「王女殿下、シャンパージュ家に着きましたよ」


 馬車が止まるなり外からゼルさんが呼びかけてくる。扉を開けて降りると、目の前には見慣れた黒く美しい門が。

 感謝を告げて馬車を引き揚げさせ、もはや知り合いクラスの門番さん達にメイシアとの約束について話すと、


「はいっ! お待ちしておりました!」

「何卒、何卒お嬢様をよろしくお願いします!!」


 娘を嫁に出す親のような勢いでメイシアのことを頼みこまれた。

 メイシアたっての希望で、今日は護衛をつけない。彼等もそれを聞いて不安なのだろう。ご安心なされよ、メイシアのことは何がなんでも守ります。無論、シャンパージュ伯爵家のことも。

 そうして玄関まで通され、いざ扉が開いたかと思えば。


「おはよう王女様! ようこそございます〜っ!」

「言葉がめちゃくちゃよ、エリニティ」

「へっへっへっ」


 シャンパージュ伯爵家の執事服を身に纏うエリニティが、随分とまあ元気そうに飛び出してきた。


「……エリニティ、貴方なりに頑張ってるのはすごく分かるわ。だからもう一度、言葉遣いについて学んでみるのはどうかしら? 貴方なら、もっといい執事になれると思うの」

「王女様がそう言うなら……ラーク兄やバド兄にも聞いて、オレ、頑張ってみる。ジェジとかも巻き込んで!」

「頑張ってね。教材とかが必要なら、私兵団の経費で買って後で報告してちょうだい。……ついでだし、近況とかも聞いていい? 貴方とこうして話すの、なんだか久々だし」

「えっとー、伯爵様から『想像以上に役に立つね君』って褒めてもらったんだ。スゲェでしょ? オレ、スゲェよね?」


 ディオとメイシアからの伝聞でしか、エリニティの副業については聞いてなかったけれど……これ、完全にホリミエラ氏にいい意味で目をつけられているわ。


「……えぇ凄いわね。シャンパージュ伯爵の期待を裏切らないように、無理せず頑張って」

「ハーイ!」

「あと、メイシアに毎日告白したりして困らせないようにね」

「…………」

「さっきと同じように返事しなさい」

「ぜ、ゼンショーします……」

「勝ってどうするの。普通に善処してね」

「ウス……」


 しおれた花のような表情で俯くエリニティをじとりと眺めていると、


「アミレス様!」


 鈴の鳴るような声が玄関に響いた。


「お待たせ、メイシア。迎えに来たわ」

「あぁ……っ、今日もお美しいですアミレス様」

「メイシアも……」


 スラリとまっすぐ流れていた長髪は魔法がかかったようにふわりと巻かれており、フリルやレースが添えられたシックな色合いのワンピースが、メイシアを童話の中のお姫様のように飾り立てている。深い森の眠り姫、という印象を抱いたものだ。


「すっっっごく可愛い!」

「ひゃうぅ……」


 語彙力が消し飛んでしまった。もっとこう……攻略対象達並みの語彙力で、褒めたかったのだけれど。

 まあ、メイシアは喜んでくれているみたいだし。この後のおでかけ中に、改めてきちんと褒めよう。


「ご機嫌麗しゅう、我が君、王女殿下。変わらぬ美しさ──いえ、更に磨きがかかった美しさに私めは感服するばかりでございます。あまりの神々しさに思わず傅くところでした。ああしかし、私はとうに貴女様に傅いているのですがね」

「シャンパージュ伯爵! 朝早くからお邪魔しております」


 ホリミエラ氏がにこやかに階段を降りてくる。新しい事業が上手くいっているのか、上機嫌すぎて、イリオーデみたいなことを口走っている。こういうのは八割美辞麗句なので、真に受けない方がいい。なので軽く受け長そう。


「いえいえ、王女殿下であれば我が伯爵家はいつでも歓迎です。寧ろもっとお越しください。毎日お越しくださっても問題ありません。我々は毎日、心尽くしの歓待をさせていただきます」

「それはもう住んでいるのと同義では……?」


 というか毎日押しかけるのは普通に超迷惑だろう。


「ああ! それは言い得て妙ですね! 是非とも、我が家を第二の家と思っていただき、いつでも帰ってきてくださいませ」

「いえいえ、それは流石にご迷わ──」

「ご安心ください! 私も、妻も、メイシアも、勿論大歓迎ですので! ええ!」


 圧が強いって。

 こんなにこの人の笑顔を胡散臭く感じたのは初めてだ。何故そこまで私を家に招こうとするんだ……?


「ンンッ。ええと、シャンパージュ伯爵」

「はい。なんでしょうか」


 わざと低めの声で咳払いをし、丸眼鏡越しに彼の淡い瞳を見つめる。そして、やけに嬉しそうに見つめ返してくるホリミエラ氏へ、会話のキャッチボールを諦めた変化球を投げつけた。


「本日は、メイシアの一日を私にくださりありがとうございます。──必ず、何があっても、私がメイシアを守ります」

「アミレス様……っ」


 メイシアは、キュンッと幻聴が聞こえてくるような、とろけた様子だ。


「王女殿下……何卒、私達の愛娘をよろしくお願いします。どうか……末永く」

「? はい、勿論です。友達として、メイシアの未来を守り抜いてみせます」


 えらく幸せそうな表情で念押しするホリミエラ氏に、私は任せてくれと返事した。

 今日は絶対にメイシアを守ってみせる……!


なんと次回からついにメイシアとのデートが始まります。このデート、いったいどうなっちゃうんでしょうか!?


来週は6/10〜6/13の、火水木金の四日連続更新予定です。

次回もよろしくお願いします〜ヽ(´▽`)/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こんばんは~!今日も更新ありがとうございます! さて、アミレスなら守りたいもののため自らの命なんて省みないことが多々ありますから……もしそんなときアミレスが大切なものを守りきった上での死なら、立派な…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ