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695.Main Story:Ameless

3/27.あとがき更新しました。

 ローズと逃避行をして、師匠にプレゼントを渡して、レオの笑顔が見られるまで一緒に星空を眺めて。そうこうしていたらいつの間にか夜三時を超えていて、建国祭中に何が起こるか分からない緊張もあってか、眠れそうになくて。

 なので、いつもより少し早い明け方に日課のトレーニングをこなし、そのまま、ビーナスベルトの空を見上げていた。


「──日の出だ」


 城壁の向こうからゆっくりと顔を出す太陽。淡い影が徐々に広がり、長かった夜の終わりを告げようとしている。


「ねぇ、神様……何処にいても、陽の光はあたたかいね」


 小さな箱庭から外界への憧憬を抱いていたが、あの頃も今も、太陽の光というのはあたたかい。

 …………まあ、一番温かいのはあなただけど。最近ね、あなたの『ぎゅぅ〜っと攻撃』を恋しく感じることがあるの。基礎体温が低くなったからなのかな。またあの頃みたいに、あなたの傍でお昼寝したいなぁ。

 決められた予定に合わせて世話役の女性達が来る時以外、滅多に人が寄りつかない聖域──という名の牢獄(おり)の中で。戯れに私を抱きしめては、『うりゃりゃーーっ!』とくすぐり攻撃のコンボを決めてきた、大人気ないあのひと。

 思い出せば思い出す程、あの温もりが恋しくなってしまう。


「今、どこで何をしてるのかな。ぶつくさ文句を言いながら願いを叶えてるのかな。私がいなくなったから、また女の子と遊んでるかも。………………会いたいよ、神さ──」


 弱音を吐きかけたら、


「アミィ。今日は随分と早起きさんだね」


 朝日を纏うシルフが、穏やかな微笑みを携えて現れた。


「ま、あ……おはようシルフ。昨夜色々あったから今日は眠れなかったの」

「そうみたいだね。鬱陶しいくらいエンヴィーが大はしゃぎだったよ」


 師匠、そんなに喜んでくれてたんだ……。


「シルフはお仕事終わりかな? いつもお疲れ様」

「君に労わってもらえるのなら、面倒な仕事にも、存外価値や意義があったものだね。気遣ってくれてありがとう。アミィ」


 言って、シルフはこの世で最も美しい笑みをたたえて、楽しげに私の頭を撫でた。相変わらず輝く程に美しいヒトだなぁ。


「……そういえば、シルフ達っていつも何のお仕事をしてるの? 魔力や魔眼を管理する仕事としか聞いてないから、具体的には知らないなぁと思って」

「あぁ。まぁ、だいたいそんなところさ。魔力を管理し、ついでに魔眼も管理する。それが、精霊(ボクら)の役目だからね」

「具体的にはどんなふうに管理してるの? 何か、それ専用の魔法とかがあったり……?」

「君は本当に、好奇心が旺盛だねぇ」


 シルフは私から手を離し、くつくつと笑ってから観念したように続けた。


「まずはじめに。一つ、訂正しよう。魔力を管理することが精霊の役目とつい先程言ったけれど、正確には少しだけ違う。──魔力を管理するのは各属性の精霊……その最上位に君臨する最上位精霊という、神々の権能の一部を所持する、魔力の管理権限を持った存在だけだ。人間界で言うところの領主ってやつに近いね。だから普通の精霊達は魔力を管理していない。人間と違って魔力だけで活動可能な『魔力生命体』だから、人間より遥かに魔力変換効率が良く魔法への適性と親和が高いだけであって、彼等は実のところ、君達人間とさして変わらない──ごく普通の一般精霊なんだよ」


 衝撃の事実だ。“精霊は魔力を司る存在”という学説はこの世界で広く親しまれている。故に、神からの贈り物とされる魔力を司る彼等は、我々人間と同じ“神の子供”でありながら、神の遣いとされる……といったふうに天空教の聖書には書かれているとか。

 ──あ。そうか。だからシルフは、『実のところ、君達人間とさして変わらない』って言ったんだ。人間(わたしたち)精霊(かれら)も、神に作られた存在という点では同じだから。


「その、魔力生命体っていうのは……?」

「読んで字の如く、だよ。魂に在る魔力炉が大気中の魔力原子を吸収して魔力と生命力に変換することで、はじめて人間は生命活動を可能とする。他にも食事や排泄や睡眠や、諸々の作業が人間(きみたち)には必要だろう? だけど、精霊は少し違うんだ」


 シルフはその両手に、宇宙の一部をぷちっと取って作ったような、星空を映す人形を二つ用意した。その人形の中には人体のように、いくつもの内臓らしき影が浮かび上がっている。


「こうして見れば外側(みため)内側(なかみ)も人間と精霊は似通っているけれど。精霊はね、人間と違って食事も排泄も睡眠も本来行う必要が無いんだ。何せ精霊(ボクら)は生命力を生産していない──魔力だけで生きている存在だから」

「魔力だけで……」

精霊(ボクら)の作り手がそう決めたんだ。人間のように無駄が多く非効率的な生命活動をする事なくただ粛々と役目をこなせ、ってね。だから生命活動らしい作業の殆どが不必要だし、そのぶん浮いた、人間の魔力炉が生命力に変換するぶんの魔力原子も全て魔力に変換している。そうして生産された魔力で魔法を扱い、生命活動を行う──神を模して作られた人間から手間暇のかかる行程と機能を省いて生み出された、魔力さえあれば生きていける、たいへん燃費が良く使い勝手のいい道具。それがボク達なのさ」


 シルフは明るく言うが、実に不愉快な内容だ。

 彼本人がそう言ったように。その生態は、まるで、神々が望んだように役目をこなすその為だけに最適化されたようなものだから。


「……シルフ達は、ずっと、神々の道具として……生きてきたの?」

「泣かないでおくれ、ボクの可愛いアミィ。これは、優しい君が心を砕く程のことではないんだよ。もうずっと昔……一万年も前から変わらない事実だからね」


 こうして、何事もないように現状を受け入れているシルフを見ると、人間の分際で神々への怒りが湧いてくる。

 目頭が熱くなった頃には、シルフがまたふっと微笑んで、頭を撫でてきて。その手つきがどうしようもなく優しくて、胸がぎゅっと締め付けられた。


「……話を少し戻そうか。精霊の身体(からだ)の大部分は魔力で出来ている。だからエンヴィーとかフリザセアとか……勿論ボクも、人間界に来る時は人間体っていう、人間の規格(スケール)に落とし込んだ肉体に身体(からだ)を変換している。何せ精霊体で人間界に来れば、その大部分が魔力たる精霊は、簡単に周囲に影響を及ぼしてしまうからね」

「大部分が魔力で…………。だから読んで字の如く、『魔力』で出来た『生命体』ってことなの? たまに師匠の姿がちょっとだけ変わっていたのはそういう理由だったんだ……」

「そういうこと。まあ、中位精霊くらいまでなら精霊体のまま人間界に来れるけれど、エンヴィーやフリザセア程度となると、本来、特に難しいんだよ。所持している魔力のこともあって、仕方なく人間界(こっち)で精霊体になる時は気合いで魔力を抑え込んでるみたいだね」


 ここでふと、頭の中に疑問が浮かぶ。

 精霊も悪魔も上位に上がるほど自我が強く、生命としての格が高いと聞く。そして今のシルフの話で確信したのだが、やはり師匠は上位精霊なのだろう。

 ここからが本題だ。たしか、師匠は以前──『精霊王から魔眼の管理に適した属性の精霊にその仕事が下された』って、メイシアの延焼の魔眼をどうするか、という話し合いの時に言っていた。魔眼と魔力は別々に管理していると言われてしまえばそれで終わりだが……シルフが言うように、各属性の魔力を管理する権限が、限られた精霊さんにしか与えられていないのならば。

 それって、つまり──……


「……ねぇ、シルフ。差し支えなければ教えてほしいのだけど」

「なんだい? 君が望むならなんだって教えてあげるよ」

「師匠……エンヴィーさんは──火の最上位精霊、なの?」


 訊けば、シルフは目を丸くしてぴたりと固まり、逡巡するように視線を動かした。そして長い沈黙の後、彼がしっとりと口を開く。


「………………ああ、そうだよ。エンヴィーは火の精霊達の頂点に君臨する、火の権能を持った最上位精霊だ。……まさかボクの話からそこまで推察されるとはね。エンヴィーめ、ボクがいないところでどれだけ情報を開示してきたんだか……」


 やれやれ。とため息をこぼした後。

 シルフは切なげに、悲しげに、小さく笑い、


「──場所を、変えようか」


 私達の足元に白く光り輝く魔法陣を描いた。


↓精霊関連話↓

◯2.目覚めるとそこは異世界でした。2〜3

◯4.ボクは彼女と出会った。 ◯5.ボクは宝物を手に入れた。

◯7,5.ある精霊の誤認

◯9.ある王女の決意

◯18.ある精霊の回想

◯21,5.ある精霊の後悔

◯34.いい事を思いつきました。

◯35,5.ある精霊の報復

◯56.眠れる炎の美女1〜5

◯68.白亜の都市の侵入者1〜5

◯97.緑の竜 番外編3〜4

◯109,5.ある精霊の失敗

◯102.氷結の聖女4

◯127.悪友は巡り合う。4

◯147.ある精霊の仕事 ◯148.ある精霊の進歩

◯225.暗躍はおしまい?3〜5

◯268.ある精霊の叛逆

◯284.幕を下ろしましょう。3

◯287.ある精霊の感傷 ◯288.ある精霊の執着 

◯301.青い星を君へ3

◯316.薔薇の君へ、花車を6

◯383,5.ある精霊の変容 

◯392.冬に染まる街で君と4

◯414.ティータイムは修羅場の後で

◯438.終幕 興国の王女

◯450.バースデーパーティー2

◯454.誰が為の殺神計画1〜5

◯481.バイオレンスクイーン4〜10

◯528,5.Interlude Story:Sylph

◯531.Main Story:Ameless〜5

◯536.Main Story:Ameless/Sylph ◯537.Side Story:Others

◯542.Main Story:Michelle2

◯548,5.Interlude Story:Others

◯551,5.Interlude Story:Elemental

◯560,5.Interlude Story:Elemental

◯572.Side Story:Sylph

◯576.Side Story:Sylph 

◯577.Main Story:Ameless〜2

◯597.Chapter4 Prologue【かくして妖精は慶ぶ】

◯603.Main Story:Others

◯630,5.Interlude Story:Sylph

◯642,5.Interlude Story:Kile

◯646.Main Story:Ameless ◯646,5.Interlude Story:Friezacea

◯657,5.Interlude Story:Others

◯658.Side Story:The men's party that came back.〜10


予習復習にお役立ててくださいませヽ(´▽`)/

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― 新着の感想 ―
こんばんは~!今日も更新ありがとうございます! さて、やっとですねぇ……あんだけ精霊のことを教えるのを渋っていたシルフが(ごく一部でしょうけど)アミレスにやっと真実を告げるんですね。 前から何気にす…
更新ありがとうございます!! 忙しくて2周目がゆっくり読書になっている☆夜空☆です。 エンヴィー師匠の!!!推しの!!!!話!?!? あと1週間も待てない……! 気合で待ちます!!笑 近頃、寒暖差…
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