684.Main Story:Ameless2
「いらっしゃいませ──あっ! ……ごほん。これはこれはお得意様ではありませんか! いつもお世話になっております〜〜!」
「こちらこそ。いつもお世話になってるわね。今日は連れもいるのだけど、いいかしら?」
「えぇ勿論大丈夫ですよ。ささっ、いつものお部屋にご案内します!」
ローズと護衛のイリオーデと共に、久々にヴァイオレットの実店舗を訪れると、馴染みのデザイナー、ユンレイがいち早く私に気づき、奥の部屋に案内してくれた。
そこで、賑わうヴァイオレットに気もそぞろで私達のやり取りまで気が回らなかったらしいローズが、ハッとしたように小声で話しかけてくる。
「スミレちゃんはあのヴァイオレットの常連なの? お得意様って呼ばれてたけれど……」
「似たようなものかなぁ」
「すごい……っ!」
常連というか、元デザイナーなんだけどね。そういえばローズにはまだ言ってなかったわ。……ヴァイオレットのドレスのファンらしい彼女に、『それ作ったの、私だもの(ドヤ顔)』と伝えるのは妙に恥ずかしい。でもこの流れだとどうあがいても明かすことになるのよね、この後すぐに。
…………覚悟、決めておくかぁ。
「──まさか王女殿下直々にお越しいただけるとは。いつも通り、執事さんか侍女の方が来るものと思ってましたよ〜。もちろん、わたしは王女殿下にお会いできてすっごく嬉しいですからねっ」
「ありがとう、私も貴女と会えて嬉しいわ。今日は少し暇があったから、完成品見たさに出向いたの。それで、ユンレイ。先触れは見てくれたかしら?」
「はい! 勿論用意してあります!」
早速お持ちしますね。とユンレイが更に奥の部屋に消えてゆくと、ローズがそわそわとしながら部屋中をキョロキョロと見渡しはじめた。
「お待たせしました。こちら、ご依頼くださった品になります!」
台車を押してユンレイが運んできたのは、紳士型トルソーに着せられた、この辺りで親しまれる紳士服の様式に中華系衣装の要素を盛り込んだ、半洋半中の服。着用予定のヒトが体を動かすことが好きなので、伸縮性と耐久性に優れた特殊な素材を使用してもらった。
彼の紅髪に似合うようシックな色合いを基調としている為、刺繍や装飾を含めても派手さは以前より減ってしまうだろうが……まあ、師匠は顔が派手だもの。これぐらい落ち着いた雰囲気の服でも、じゅうぶん派手になれるわ。
ちなみにこちら、かれこれ半年くらい前に発注したものです。師匠は何年も前から私がデザインした服が欲しいと言ってくれていたからね。満を辞して製作に取り掛かったというわけでして。忙しい中、かなり丁寧に作ってくれたようで、ありがたい限りだわ。
「相変わらず素晴らしい出来栄えよ。貴女達に依頼してよかったわ」
「ご期待に添えたようで何よりです! そしてこちらは併せて発注されていた、特注のアクセサリーになります。シャンパー商会の金細工職人に改めて師事していただき、我々が作り出せる最高の品に出来たかと自負しております」
「まあ……貴女達はいつも、私の期待を軽々と超えてくれるわね。ありがとう、期待以上よ」
「ありがとうございますっ。皆、久々に王女殿下の新作を製作できる! って意気込んでいたので、後で皆にも伝えておきますね!」
「私の新作というだけでそこまで…………。いつもうちの部下の服の仕立て直しばかりさせてごめんなさいね。貴女達も好きなように服を作ってくれて構わないのよ」
私より少しばかり歳上のユンレイは、若くしてシャンパー商会服飾部門で有望株と評価されていた経歴があり、なんと我が私兵団の団服を実際に製作してくれたチームの一員でもある。そんな彼女が団服製作チームに在籍していたデザイナー仲間数人を伴い、ヴァイオレット設立時に専門デザイナー兼縫製技能者としてやって来てくれたことにより、今や、メンバーの成長による団服の仕立て直しなどの際はこちらのヴァイオレットで行っているのだ。
「いえいえ、わたし達もやりたくてこの仕事をしてますので! ですのでもっと色んなデザイン画をください。王女殿下のデザイン画を見て、実際に製作するのは、我々にとってもかなり勉強になりますから」
「ユンレイ……そう言ってもらえて嬉しいわ」
一通りの話を終え、改めて、完成したばかりの師匠の服を眺めていると、
「……あ、あの。スミレちゃん。お店の人とすごく親しげだったこともだけど、“デザイン画”ってどういうことなの……?」
困惑するローズがおずおずと袖を引っ張ってきた。
「今まで言う機会が無かったんだけど……実は私、スミレって名義でデザイナー業をしておりまして。要するに──ヴァイオレットの商品を、いくつかデザインしました」
「……! …………!? え、あ……っ、ふぁ、ファンですっっっ!?」
「あ、ありがとう。それはなんとなく気付いてたかな」
錯乱したらしいローズが、目をグルグルさせて、声を張り上げる。その後もしばらく「アミレスちゃんが、“ヴァイオレットのスミレ”様……? じゃあ、あれも、これも、全部アミレスちゃんが作ったものなの…………??」との困惑が聞こえてきたものだから、これ以上追加の情報は与えず、彼女が落ち着くのを、三十分程待つことになった。