670.Side Story:Schwarz2
シュヴァルツ視点でお送りします、魔界の会議になります。
以前、シュヴァルツの部下達の名前は別に覚えなくてもいいと言ったような気がするのですが、撤回します。覚えていただけると嬉しいです。
申し訳ございませんよろしくお願いします。
「──ヴァイス! ああっ、今日もとても可愛いよ! お兄ちゃんは君の晴れ姿をまた見られてとても嬉しいな。そうだ、後で画家に二体の──、いや。プティーちゃんも呼んで三体の肖像画を描かせよう。ざっと五十枚……待てよ、俺の寝室を埋めるには七十枚は要るか……?」
「うぜェ。うるせェ。気色悪ィから失せろ。もしくは死ね」
着替えを終えて会議の間に入るやいなや、だらしない顔で騒ぎ出したブランシュの横を通り過ぎ、長方形の卓──その上座に位置する豪奢な椅子に腰掛ける。
オレサマが席につくと、先に到着していた八体の魔物達もまた、正装を身に纏った状態でそれぞれの席についた。
「さて、それじゃァ──……軍略会議を始めるとしようか」
八柱共を見渡すようにぐるりと視線を送る。すると、目が合った途端悪鬼族のデンコーが静かに挙手した。「どうした」と発言を許可すれば、
「キングよォ。アンタからの呼び出しなら、オレ達ァ、喜んで参上するさ。だから聞かせてくれやァ……アンタが『軍略会議』を行うのは初めてらしいじゃァねェか。議題も聞かされずただ召喚されただけなんで、オレァ気になんだわ。──いったい、何が起こるッてんだァ?」
いつも通りの態度で、随分と正当な問いを投げてきた。こんな態度からはあまり想像がつかないだろうが、この男は八柱の中でも最も忠誠心が強く、そして指折りの真面目さを併せ持つ男なのだ。
それ故に、奴も気になるらしい。この会議の議題──すなわち、魔界全土を巻き込むレベルの大問題が何なのかが。
それは他の奴等とて同じようで、約一名を除いてこちらに関心を向けているようだ。
「ああそうだな、まずはそれについて話そう。結論から言えば──……近々、魔神が復活するらしい」
「「「──────ッ!?」」」
「なっ……!?」
「うそーーーーっ?!」
「えぇえええええええええええ!」
「なんですって!?」
悪魔族のブランシュ、妖魔騎士族のシバルレイト、堕天族のエンデアは息を呑む。悪鬼族のデンコーは瞬き、影人族のビビゼブと黒山羊族のオンルドゥアはガキのように声を上げ、龍骸族のリリコは机を叩くようにして椅子から立ち上がった。
「プアクラストからの情報だ。信憑性は高いぞ」
「……プアクラストによる情報ということは、まさか今回復活の兆しがある魔神って……」
「あァそうだ、そのまさかだよ」
ブランシュの言葉に心当たりのある奴等は、ごくりと固唾を呑んだ。
「──『海帝アルミドガルス』。あの蛇野郎が、生意気にも人間界で復活しようとしてやがるみてェだ」
翼を持つ大蛇の魔神。かつて魔界の最果てにある虚の海に封印したあの蛇が、何やらコソコソと人間界に魂を移していたようで。人間界で復活しようとしていると、魔界の水域──ひいては海全域を支配領域とするプアクラストが報告してきたのだ。
「アルミドガルスと言うと、魔王様が以前虚の海に封印したという、全てを呑む大蛇の魔神……でしたか」
「その話、先代から聞いたわ! 魔王様がまだ魔王になる前の、それも子供の頃にやってのけたっていう偉業よね!」
「封印するのはいいけど、人魚族にその監視を押し付けるのはほんっっっとにどうかと思う……結局こうして、二千年近くうちの一族が監視任務を押し付けられていたんですけど……」
エンデアが呟くとリリコがそれに興奮気味に反応して、更にプアクラストが呆れの息を吐いた。
「うふふ、懐かしいなぁ。何を隠そうヴァイスがあの蛇を封印する時、俺も一緒にいたんだよねぇ。俺はただ父さんと一緒にヴァイスの活躍を眺めていただけだったけれど……あの時から、たしかにヴァイスは強かったよ」
ブランシュが恍惚とした表情で余計なことを口走りはじめやがったので、奴の口元に荊棘を巻きつけて口を封じる。「ンー! ンンー!」と喚くブランシュを無視したところで、
「バカ共の所為でちィと話の腰が折れちまッたが、ことのあらましは理解したァ。キングがわざわざオレ達を集めたのはァ……魔神アルミドガルス復活の折、オレ達に成すべき事があるから──ッて解釈で違いねェかァ?」
デンコーが机に肘をついて身を乗り出した。
「そうさな。魔界ならまだしも、人間界で復活されてはオレサマ達にはどうすることも出来ねェ。それ故にオレサマ達は蛇野郎が復活した後に動かなければならない」
「はいっ! 魔王様、質問です! ど〜してボク達が魔神を処理しないといけないんですか〜?」
「あァ……そういえばお前、まだ千年も生きていないんだったか。この千年は魔神が生まれなかったからな、若い魔族が知らんのも無理はない」
ビビゼブが馬鹿正直に質問してきた為、寛容かつ親切なオレサマは、話を止めて簡潔に説明してやることにした。──もっとも、
「説明してやれ、エンデア」
「……何故ワレが……」
説明役は適当な奴に押し付けるケド。
「はぁ…………。魔神とは、魔族ないし精霊などの魔力を生命力として生きる種族がその成長過程にて変生し、神に等しき存在へと昇華した状態を指す。魔神はその名に相応しく往々にして擬似神格を獲得し、それに伴い何らかの権能をも獲得すると聞く。そして魔神とは大抵、暴虐の限りを尽くす世界の敵だ」
「へぇ〜。でもなんで魔族がそれをわざわざ処理しなきゃいけないの〜?」
「先述通り、魔神の誕生と魔族は強く関わりがある。何せこれまでに確認された全十二体の魔神のうち半数以上が、魔族が変生して生まれたものだ。中には『人神ハイル=リンデア』や『天上城郭ディアブルーム』などの魔族以外の種族から魔神へと変生した者も居るが、魔神の大半は元魔族だ。故に──……魔神の始末も魔界の役目なのだ」
エンデアは淡々と語るが、その顔には僅かに青筋が浮かんでいる。元天使たるエンデアも、恐らくは神々の命令で魔神と戦った事があるのだろう。
あくまで天使の頃の記憶は無いと言い張るエンデアだが、過去に味わったのであろう魔神に対する恨みつらみを思い出してしまったようだ。まァ、オレサマは気が利く魔王だから指摘しないでおいてやるがな。
「なるほどなるほど〜。魔神なんて面倒な存在の芽を野放しにしたのは魔族なんだから、責任取れ! ってこと?」
「言葉を選ばなければ、そうだろう」
「うわっ、めんどくさ〜〜!」
歯に衣着せぬビビゼブの物言いに、八柱共も僅かに沈黙する。そうは思っていてもなんとか考えないようにしていた事実を突きつけられ、複雑な心境なのだ。
「蛇野郎が人間界で魂だけでも復活すれば、魔界には中身のない蛇の肉体が残るワケだ。だがその抜け殻には蛇野郎が蓄えてきた膨大な魔力と僅かな擬似神格、最悪の場合権能の一部まで残留するものと思われる。そして魂が復活したことで因果が歪み肉体までもが復活し、制御を失った魔神の骸が魔界で暴れることが予想されるときた。──なればこそ。お前達八柱の魔物には、その始末を命ずる」
「「「「「「「「──はっ!!」」」」」」」」
魔王からの正式な命令ということもあり珍しく真剣な様子で、八柱は返事を揃えた。
蛇野郎が復活する時、きっとオレサマは人間界に居るだろう。だから、魔界のことは八柱に任せることにしたのだ。
ブランシュがいるし、他の七体とて、この群雄割拠の魔界で各種族の長を担う程の粒揃い。魔神の骸相手でも引けを取らないだろうさ。
♢♢♢♢
「……──よし。解散だ解散。神々の機嫌取りをしたり、魔神復活だ会議だとここ暫く仕事ばかりで気が休まらねェ。そんなワケでオレサマはまた城を開けるから、何かあったらブランシュかプティーにでも言え。いいな?」
魔神にまつわる話の後、ついでに小一時間程魔界の今後について会議をし、軍略会議はようやく終了した。
早くアミレス成分を補給したい。その一心でいの一番に立ち上がると、
「あァァ!? キング! アンタ、またァ人間界に行くッてンのかァ? だったらせめてェ、オレを供として傍に置いてくれやァ!」
「そう頻繁に魔界から姿を消すのは魔王として如何なものかと愚考しますが」
「ふふ、お兄ちゃんはもっとヴァイスと一緒にいたいんだけどなぁ」
デンコーとエンデアとブランシュが文句を唱えてきた。
だがそんなもの、オレサマには関係無い。行くったら行く。アミレスに会うと決めたのだからオレサマはアミレスに会うのだ。
「八柱諸君、後のことは任せたぜ〜〜」
一度も振り返らず手を振りながら退出し、部屋を出てすぐに人間界への扉を開く。換装にていつもの服に戻ることも出来たが、今日はあえてこのまま。大嫌いな堅苦しい衣装のまま、扉を抜けて行く。
少しばかり雰囲気が変わったオレサマを見て、アミレスがどんな反応をするのかとても気になるからな。
なんて、適当な言葉で取り繕ってみたが。
結局のところ──……好きな女の前では少しでも格好つけたいだけなのだ。
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