659.Side Story:The men's party that came back.2
男子会開催二回目にして早速王様ゲーム形式を廃止し、それはそれで困る新たな形式を提案したシルフ。拒否権の無い指名制!? と、引き続き参加している面々が王様ゲームより酷い新形式に目を丸くするそばで、
「なんか思ってたのと違うな。姫さんについての語らいだってのに、指名制の質問形式ってどういうことだ?」
「……姫についていかに詳しいかを問い、その浅はかな知識と回想を、俺の重厚なる姫にまつわる記憶で捩じ伏せてやればいいのか?」
「フリザセア。そーゆーの人間界ではマウントって言うらしいぞー。めちゃくちゃ嫌われるらしいぜ、それ」
「そうか。他者に嫌われようが俺には関係の無い事だが、姫の前では気をつけるとしよう」
前回の男子会で行われた地獄の王様ゲームを知らぬ二体は、相変わらず呑気に話している。
それを見かねて、シルフはやれやれと眉尻を下げて切り出した。
「それじゃあまずはボクが見本でやってみよう。──おいそこの吸血鬼」
「ん? なんだ、精霊さん」
「お前、昨日は一日アミィと仲良くデートをしていたらしいな。どういった意図でアミィをスイーツなんたらに誘ったのか、全部吐け」
見本というか、もはやそれが目的だったのだろう。シルフは迷わずアンヘルを指名して、畳み掛けるように質問を投げかけた。
アンヘルとアミレスが(アルベルトも同席していたが、)デートをしていたという証言に、普段のアンヘルを知る者達は瞬き、アンヘルを凝視する。
「そりゃあ、アミレスに会いたかったからだけど。あわよくば一緒に過ごして、思い出を作って……それで、彼女の笑顔が見たかった。だから彼女も喜んでくれそうなスイーツバイキングに誘ったんだ」
元々嘘をつくつもりは特になかったが、嘘を許さぬ星空の紅茶の力で見事丸裸にされたアンヘルの心に、男達は確信した。
──あの男もアミレスに想いを寄せているのか、と……。
「ふーん。鼻につくな、お前。金輪際アミィに近寄るなよ」
「それは聞けない相談だな。アミレス本人からそう言われたのならまだしも、第三者のあんたから言われたところで強制力は無いだろ?」
「チッ…………」
聞いておきながらなんとも自由な反応だ。
それとは打って変わり、舌打ちされてもなおアンヘルは毅然としており、優雅に紅茶を味わっているではないか。これが五百年分の記憶を取り戻した男の余裕か。
「……まあ、こんな感じに時計回りで順番に質問していくってことで。はい次はエンヴィーね」
「急に俺っすか。えー、誰に何聞いてやろうかな」
シルフの左隣に座していたのはエンヴィーだった。突如として役を振られたにもかかわらず、彼は特に困った様子も見せず質問内容を吟味する。
「じゃあ、マクベスタで。前から気になってたんだが……お前がいつからか持っていたあの黒い剣。アレは、何の為に誰から譲り受けた物なんだ?」
(──あの趣味が悪ぃ見知らぬ剣術についても聞きたいところだが、質問は一つまでだからな。次の機会にするか)
雰囲気がガラリと変わり真剣な様子のエンヴィーに問われ、マクベスタは表情を固くした。だが程なくして、彼は答える。
「……もっと強くなる為。彼女の幸福を脅かす全てを殺せるようになる為だ。あの剣は、数年前にシュヴァルツから貰ったんだ」
「ほーう。シュヴァルツがアレを? なんで悪魔があんな剣を持ってんだか」
「それはオレも気になっていた。彼曰く、処分に困っていたらしいが」
「処分ねぇ……ま、弟子のお前が強くなればなる程俺の評価も上がるし? 姫さんの為の剣なら、何も言うこたぁねーよ」
(──聖剣を魔界が奪った理由は、人類の戦力を削ぐ為だろうが……それを現魔王の野郎があっさり手放した理由が分からねぇな)
魔界の動きを警戒するに越したことはないか。と、エンヴィーはその軽薄な笑みの下で、未だ姿を見せないシュヴァルツへの疑念を膨らませる。
(マクベスタ相手なら、この間アミィと二人で出かけていたことについて聞くべきだろ。何を聞いてるんだか……)
「──エンヴィーの番も終わったな? じゃあ次はマクベスタだ」
不満げなシルフがそう促すと、
「……それじゃあ。カイルに質問しよう」
「俺? もうなんでも質問してくれちゃっていいんだぜ、マクベスタ!」
意外にもマクベスタはすぐさま質問相手と内容を決めた。どうやら、はじめから誰に何を聞くか決めていたようだ。
普段は素っ気ない推しが自分に興味を持ってくれた喜びからか、カイルは喜色満面で応じた。その様子に呆れつつ、マクベスタは切り出す。
「……カイル。お前にとってアミレスはどんな存在なんだ? お前は……アミレスを愛しているんじゃないのか?」
まるで時が止まったかのよう。ピタリとカイルが硬直すると同時に、その場に居合わせた男達の大半から全身がひりつく程の殺意が溢れ出した。
特に、あの男のそれは他の参加者達のものより格段に恨みつらみが込められた──呪いの塊のような殺意で。
(カイル・ディ・ハミルがあの女を愛しているだと? もし、それが真なのであれば──……僕はあの男をこの世から消し去らねばならない。我が妹が獣共の手に渡るなど、あってはならないからな)
フリードルは未だに信じていた。ある冬の日にアミレスが放った、『その……一目惚れしちゃったんですよね! カイル王子に!!』という出まかせを。
勿論彼とてそのような事はあり得ないと一笑に付したかったが、いかんせんアミレスとカイルの距離感があまりにも近すぎて、それが本当のことなのだと思い込んでしまった。
それ故に──押し倒したり、口付けたり。とにかくアミレスを体から篭絡してしまおうと、彼は躍起になっているのである。
そんな、フリードルの身勝手な焦燥などつゆ知らず。カイルはルールに則り、問いに対する答えを語りだした。