647.Main Story:Ameless2
午後頃、『ボクも行く』『俺もお供させてくださいな』『姫、おじいちゃんも君と外出したいのだが』と訴えてくる精霊さん達を『貴方達みたいな超絶美形が街に出たら騒ぎになるんです!!』と必死に説得し、アルベルトだけ伴い外出する。
そして気が早いかもしれないが、デザイン案をいくつか“ヴァイオレットのスミレ”名義でシャンパー商会に持ち込み、とりあえず全部発注した。
我ながら凄まじい行動力である。仕方ないよね。フリザセアさんがなんでも似合いそうなのが悪いよね。
服はヴァイオレットで作ってもらっても良かったのだが、建国祭中は諸外国からの客足も多く、店はただでさえ大忙しだろうから。なのであえてシャンパー商会に依頼したのである。
最近では、シャンパー商会で育成された新進気鋭のデザイナー達が私の得意とするデザインを踏襲し、ヴァイオレットの新商品を作ってくれているので、スミレは名ばかりのメインデザイナーとなってしまった。
そもそも、顔出しすらしてない年齢不詳の謎多きデザイナーで通してたから、たいして立場は変わらないのだけど。
そんなわけで、私はたまにふと思いついたデザインをヴァイオレットのスタッフ達に託している。そして彼女達がそれを商品化して、ほぼオークションに近い形で販売しているのだとか。
意外なことに帝国社交界では、“ヴァイオレットのスミレ”が持つデザイナーとしてのネームバリューは凄まじいらしく、私の知らないところでスミレデザインのドレスは流行の最先端とかなんとか、あれこれ言われてしまっているらしい。
まあ、そのことについては深く考えないことにした。元々金策の為に始めたデザイナー業務だもの。
そうして用事を済ませ、お祭りの視察──と称して、テロリスト候補の怪しげな連中がいないかと目を光らせていた時だった。
「んむ。王女様じゃん」
「アンヘル! 久しぶりね」
もぐもぐと屋台スイーツを頬張るアンヘルと遭遇した。彼もどうやら建国祭を楽しんでくれているようで、嬉しい。
「…………ん。王女様は執事だけ伴って、遊びに来てるのか?」
マイペースにスイーツを平らげ、舌なめずりをしてから、アンヘルは訊ねてくる。買い食いはするが、食べながら喋るつもりは無いらしい。行儀が良いのか悪いのか分からないな。
「半分趣味、半分仕事って感じかな。用事が済んだから今はお祭りの視察をしているところよ」
「そうか。……ものは相談なんだが、一緒に祭りを回らないか?」
まさかのお誘いに、一瞬フリーズする。
アンヘルは不死身の為、永い時を生きている。もしかしたら、『いい歳して一人で祭りを見て回るとか、恥ずかしすぎて無理』と思っているのかもしれない。
確かに一人でお祭りはちょっと気が引けるものね。任せてアンヘル! 私が一緒に居てあげるわ!
「別に構わないけれど……相手が私で本当に大丈夫なの?」
ミカリアとかミシェルちゃんとか。他にも候補は居るだろうに……たまたま私がいたから、丁度いいやって思っちゃったのかな。アンヘルってそういう面倒くさがり屋さんなところあるもんなぁ。
「おう、王女様じゃないと駄目だ。そもそもあんた以外を誘うつもりは初めから無かったさ」
「え?」
「それじゃあ早速行くぞ」
「あの、行くってどこに……?」
「そりゃあもちろん──……」
気になる言葉を呟くアンヘルに手を引かれ、駆け出す。私達の後ろを、虫の居所が絶望的に悪そうなアルベルトが追走し、やがてアンヘル案内のもとたどり着いたのは、
「──スイーツバイキングだ!」
シャンパー商会が運営する最高級宿館。その大広間の入り口には、『パティスリー・ルナオーシャン スペシャルスイーツバイキング』と書かれた看板が立てられている。
──何やってるのホリミエラ氏?! スイーツバイキング!? 食べ放題という概念すら無いこの世界で!?
驚愕のあまり声さえも出ない。この件に関しては本当に、私は無関係だ。だから一から十までシャンパージュ伯爵がこれを企画したということになる。
いや、落ち着きなさいアミレス。まだスイーツバイキングが私の知ってるものと同じとは限らないわ。もしかしたら偶然名称が一致しただけの、まったくの別物かもしれない。
「なんでも、先に規定通りの金額を払っておけば、時間内はスイーツを好きなだけ食べていいらしいじゃないか。流石は時代の革命児パティスリー・ルナオーシャン……惚れ惚れする経営手腕だ」
スイーツバイキング確定ですね!!
「どうした王女様。熟した果肉のような顔をして」
「どんな顔してるの私……?」
「まあいいか。ほら、入るぞ。俺が誘ったんだから、おまえ達のぶんも俺が払う。いいな?」
訊ねておきながら、有無を言わさぬ空気を醸し出さないでほしい。
私達の返事を待たずして、アンヘルは三人分の料金を支払い、私の手を引っ張りつつ意気揚々と会場に足を踏み入れた。
どうやら今回は試験的なものらしく、厄介な客をふるいにかける意味もあるのか値段設定は少々お高め。ぐるりと会場を見渡すと、貴族階級のご令嬢やご婦人が多い印象を受けた。客達は各テーブルにて、スイーツを楽しみつつ和気藹々と交流しているようだ。
「給仕はまだ来ないのか? 王女様がいるんだから案内ぐらいはしろよ」
「盛況しているみたいだし、忙しいんだよ、きっと」
アンヘルが顔を顰めたところで、ドタバタと誰かが駆け寄ってきた。
「──っ、王女殿下……!? どうしてここに?」
「バドール! 貴方こそ、こんな所で何をしてるの?」
と、聞いたものの。おおよその見当はついている。──シェフコートをきっちりと着こなしている様子から、彼はおそらく副業中なのだろう。
だが私がここに来た報せを受け、何事かと飛び出してきた……といったところだろうか。