634.Main Story:Ameless
シルフの誕生日の翌日。
未だ顔を見せないシルフへの心配が募るものの、約束は約束だからと、ケイリオルさんより授かりしこの最強のアイテム《白紙の小切手》を手に帝都不動産組合本部へ向かった。
そうしてユーキ達の新居の本契約を済ませ、鍵を受け取った私は、早速だが改めて物件を見に行くことにした。
ついでに家具なんかも買ってあげたくなったから、お部屋の各スペースチェックをしておこうと思ってね。
なので変装もせず西部地区を堂々訪問しては、街の人達から相変わらずむず痒い歓声を受けていたのだが……道中で、ヤンキーよろしく地べたにたむろしている集団がいた。そしてなんとも恐ろしいことに、その集団は一人残らず知り合いだったのだ。
「……貴方達、そんな所で何してるの?」
問うと、いの一番にディオが反応した。
「殿下じゃねぇか。実はよ、コイツが最近噂の不審者で──……」
彼はすくっと立ち上がり、事の経緯をかいつまんで説明した。その間アルベルトとサラが和気藹々と話していたり、イリオーデが何故かセインカラッドを執拗に睨みつけていたりと、中々に気が散ったが……元々、大勢の人間の声を聞き分けて一言一句記憶するのは得意な方だ。
昔取った杵柄で、私はなんとか事情の把握に成功した。
「──なるほど。ユーキ強火過激派のサンカル卿と、『ユーキ様親衛隊』がマウントバトルの末に乱闘騒ぎを引き起こしたと」
「いくらなんでも理解が早すぎんだろ、殿下……」
西部地区にはユーキのファンクラブがある、とはメアリーから聞いていたが……なんというか、その、結構過激な感じなのね。そしてセインカラッドもまた過激派幼馴染なので、乱闘騒ぎにまで発展したと……。
「オレは何も間違ったことをしていない。あの傲慢な女達が、このオレを差し置いて、この世の誰よりもユーキを知ったように語るのです。アミレス王女ならよくお分かりでしょう、オレがいかにユーキを想っているかを!!」
「まあ、うん……知ってますけど……それで貴方に何回か殺されかけたし……」
「そッッ、れは……っ! ……ッ!!」
じぃっと圧をかけてみると、彼なりに反省しているのか、セインカラッドは青い顔で下唇をぎゅっと噛んだ。
「とにかく。どんな事情があれど、同担と解釈違いが起きたからって無闇矢鱈と争わないようにしてください。事実だとしても、幼馴染マウントなんて以ての外です。どうしてもと言うのなら、後方腕組み彼氏面に留めるように」
「かれッ、彼氏面? あ、も、申し訳ない……」
「貴女達も──ファンを名乗るなら、推しに相応しい言動を心がけなさい。貴女達ファンの民度がそのまま推しの評価に繋がってしまうものよ。本当に推しを愛しているのなら、推しを下げるような行為は絶対してはならないわ」
「「「「「「「っ!! はい!」」」」」」」
セインカラッドと、少し離れた場所に座り込んでいた『ユーキ様親衛隊』の会員達に、それぞれ簡単にだが喝を入れる。そこで、
「あ、アミレスさ……じゃなくて、王女殿下。おひさしぶりです」
「! そうねっ、おはようミシェルちゃん!」
今日も今日とて可愛い我が推しが、なんと先に挨拶してくれたのだ。その嬉しさのあまりついつい声が弾んでしまい、ディオ達から、急にどうしたんだコイツ……と言わんばかりの視線を送られた。
「ああそうだ。なァ、殿下。ユーキ達が今どこにいるか、知ってたりしねぇか?」
「え? ユーキ達の居場所?」
眉尻を下げたディオがそう聞いてくる。
ふむ、なんと答えたものか。
「う〜〜〜〜ん…………まあ、そうね。知ってはいるけれど──」
「っ! どこにいるんだ!?」
「──口止めされてるから言えないわ。ごめんね」
「くち、どめ……だと……?」
ユーキからは、『もしディオ達から何か聞かれても教えないでね』と釘を刺されている。なので彼等には申し訳ないが、ユーキ達の居場所を教えるわけにはいかない。
その代わり、もうすぐユーキ達を西部地区に戻してあげるから。それまでもう少し耐えてね。
「口止め……俺達はそこまで、三人を……」
うぅ、ラークが更にこの世の終わりみたいな顔に……。
「…………ねぇ、イリオーデ。私、今とても、心苦しいわ」
「ユーキの我儘など聞き流しても問題ありませんよ。あれが騒ぐのであれば、私が黙らせますので」
「あれ、って……ユーキって一応貴方より歳上よね?」
「酔狂なことに、ユーキが自ら『弟分』であることを選んだので。本人がそれを望むのなら、と。ですのでどうかその御心を砕かぬよう……。ユーキの口を塞ぐ程度のこと、私には造作もないですから」
流石は私の騎士。自信たっぷりだわ。
この前の戦いで分かったが、実はユーキもかなり強いようで……東宮での居候生活を本格的に始めてからというものの、彼はよくイリオーデの自主練や、私の特訓に付き合うようになった。なにやら勘を取り戻したい、とかで。
そこで私は、ユーキの強さを体感したのだが……それでもイリオーデは彼に勝てる自信があるようだ。勿論私だって負ける気はしないけどね!
……ユーキ達が引っ越す前に、真剣勝負を申し込んでみようかしら。引き攣った顔で断られそうだけど。
「あぁクソッ、ユーキ達はどこに行きやがったんだ、まったく……!!」
心配かけさせやがって、とディオはボヤく。
うーん……東宮にいるよってことだけ伝えちゃ駄目かな。やっぱり心苦しいよ、この状況。