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633.Side Story:Others2

「……サラ?」

「え、うそ。本当に? ルティじゃなくて、サラ……?」


 救出した女達を地面に下ろしつつ、ディオリストラスとラークは瞬く。彼等からの問いかけに、青年──サラは、こくりと頷いた。


(あぁ……つい、出しゃばってしまった。まだ菓子折りもお詫びの品も何も用意出来てないのに。ミシェル・ローゼラの監視任務中なのに、ディオ達の悔しそうな表情を見てたら、体が勝手に……)


 きゅっと口を真一文字に結んで、サラは僅かに俯く。ユーキとの約束を破り、己の心含めなんの準備もなく彼等と再会してしまったことで、不安と緊張が一度に襲ってきたようだ。


「──ッこの馬鹿野郎!! 今の今まで!! どこほっつき歩いてやがったんだ!?」

「俺達がどれだけ心配したことか……! というか、どうして急に姿を消したのか説明して!!」

「!? ご、ごめんなさい…………」


 ドドドッと急接近してきた二人の圧に、サラは思わずたじろいだ。あれ、なんか思ってた反応と違うな? と思うものの、そんなことを言ってる暇はない。かつての兄貴分達の圧が凄まじいのだ。

 滝のように汗を流す気弱そうな黒衣の青年と、そんな彼に詰め寄る、体格の良い眼帯男と腹黒そうな優男。愉快なその光景に誰もが呆気に取られるなか、誰にも助けてもらえなかったセインカラッドはというと。


「まったく、とんだ仲裁方法だ…………ん、ミシェルとロイではないか。オマエ達が何故ここに?」


 事も無げに鮮やかに着地してくるりと振り返り、そこでようやく友の姿を視認しては、首を傾げていた。


(今まで気づいてなかったのかよ。節穴かこいつ)

「えっ、ええと……その……おお、お祭りを! 楽しみたっ、くて!! そそそ、それよりセインは? セインはどうしてこんな所で喧嘩してたの……カナッ!?」

(ミシェル、相変わらず嘘が下手くそだなあ。可愛い……好き……)


 恋に盲目なロイは置いておいて。露骨にミシェルの声が裏返っていたのだが、絶賛節穴状態のセインカラッドはそれにも気づかず、「ああ、実はだな……」と素直に事情を語りはじめた。



 ♢♢♢♢



 約三十分に及ぶセインカラッドの事情説明──という名の過去回想は、聞き手を眠りへと誘う副次的効果があったようだ。

 膝を抱えて座りしっかりと話を聞く姿勢だったのだが、ロイは開始二分で興味を失い爆睡(脱落)。ディオリストラスも途中で飽きたのか船を漕ぎはじめて脱落し、ミシェルもまた必死に睡魔と戦っていた。

 まともに彼の話を聞いていたのなんて、ラークとサラぐらいだろう。


「つまり。要約すると……君は誘拐された幼馴染を捜していて、本人とは既に一度再会済。数週間前にこの街で再会出来たから、もう一度会うべくここ暫く毎日のように足を運んでは捜していたと?」

「その通りだ」

「……最近、露骨に怪しい不審者がよく出るって通報があったんだけど。もしかして、君だったりする?」

「その真偽は分からんが……目立たないように顔を隠せる格好はしていた。見ての通り、オレの容姿は凡人達の目を引く。まあオレよりもアイツの方が断然人の目を引くがな。そう、その美しさはまさに完璧に相応しい様に洗練(カッティング)された宝石のようで──……」

「はいアウトー。不審者はっけーん」


 ラークが話を遮ってまでセインカラッドの腕を拘束すると、容疑者Sは「何故だ!?」と目を白黒させた。


「それで? 結局、なんであの女衆と取っ組み合いの乱闘になったんだ?」

「街の者達に親友のことを聞き込んでいたら、何故か突如として因縁をつけられ、更には喧嘩まで売られたのでな。オレの持つアイツへの愛情の方が遥かに強大(うえ)だと示すべく、その喧嘩を買ってやった」

「なんでそこで買っちゃったかなぁ〜」

「仕方ないだろう。ファンクラブとやらを自称する女達が、さも当然かのように『ユーキ様のことならなんでも知ってるわよ』とか吐かすのだ。──幼馴染であり親友たるこのオレを差し置いてな。故に、言い争いに発展した」

「「……ユーキ?」」


 地べたに座り込み、セインカラッドの取り調べを行っていたディオリストラス達は、ここで同時に眉尻を上げた。

 過去回想含め、セインカラッドは捜し人を“幼馴染”や“親友”としか言っておらず、名前は出していなかった。そして、彼の記憶にあるユーキとディオリストラス達の記憶にあるユーキがあまりにも違っていた為、全く気づかなかったのである。


「君の捜し人って、ユーキなのかい?」

「そうだ。オマエ達はユーキについて何か知っているのか?」

「知ってるも何も……」

「俺達の弟分だからな、ユーキは。そんでもって、アイツ等のことは俺達も絶賛捜索中だ」

「…………オトウトブン。──成程。オマエ達が例の『信じ難いぐらいマヌケでお人好しなガキ連中』か」

「おい待てなんだその罵詈雑言は」


 ディオリストラスは目を丸くして、


「ユーキがそう言っていただけだが」

「それ本当にユーキか? ……いや、ユーキなら言いかねんな……」


 ユーキの歯に衣着せぬ物言いを思い返した。なお、今のユーキは猫を被ることをやめたので、彼の知るそれよりも遥かに毒舌になっている。


「しかし、オマエ達はユーキの義家族なのだろう。何故ユーキを捜索中なんだ?」

「それがねぇ……ユーキ、家出中なんだよ。二人の兄弟と一緒にね」

「家出? ……ふむ。だから一向に見つからないのか」

(──警戒心が人一倍強いユーキが、自宅でもない適当な場所で長期間暮らせるとは思えない。ならば考えられる場所としては……アイツが心から信を置く者の家、といったところだろうか)


 セインカラッドは頭を悩ませた。ここまで来れば答えは一つに絞られたも同然なのだが、そこはセインカラッドと言えども容易には訪ねられない場所。

 どうしたものか、と彼は逡巡する。


(……セインの密会相手──いや、捜し人は、あの時も居た凄く綺麗な男の人だったんだ)


 ちぇっ。と、ミシェルは少しむくれた。

 彼女も歳頃の乙女。人並みにラブな展開を期待していたらしい……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] こんばんは~、今日も更新ありがとうございます! さて、あらま。何の準備もなく飛び出しちゃったんですか……なんとなくサラらしいですね。仲間のピンチを見逃せないその優しさ、良いですねぇ……。…
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