♦631.Chapter3 Prologue【かくして霹靂は告ぐ】
ミシェル視点にてChapter3はじまります。
六月になり、フォーロイト帝国の帝都では建国祭が始まった。国内外問わず多くの人が帝都に訪れているとかで、町は人でごった返しているそう。
それすなわち、祭りが大繁盛しているということ! 元日本人として、祭りと名のつくものを楽しまないわけにはいかない! ……まあ。前世では、『祭りなんて時間の無駄!』ってほとんど行かせてもらえなかったんだけどね。記憶にある祭り、文化祭と体育祭ぐらいだよ……とほほ……。
だからこそ、この世界の祭りに心が躍っているのだ。故郷の村には祭りなんてなかったし、そもそも建国祭といえばゲームで出てきたビッグイベントだ。
そういった二重の意味で、あたしはこの祭りを楽しみにしていたし、楽しみすぎて昨夜はよく眠れなかったぐらいだ。
「ええと……お小遣いは持った。国教会の身分証も持った。もしもの時用の魔石も持った。あとは……」
「日除け道具、水分補給用の水袋、軽食、魔法薬、履きなれた靴、小さめのゴミ袋、かな」
「わ、全然持ち物足りてなかった……!? 気づけてよかったぁ……ありがとう、ロイ!」
「どーいたしまして」
ミカリアより言いつけられた、まるで遠足のしおりのような持ち物リストの内容を思い浮かべながら、持ち物チェックをしていたところ。共に祭りに向かうロイが、持ち物リストをそらで読んだ。
あくまであたし達は親善の為の使節。祭り期間とはいえ、他国で問題を起こすわけにはいかない。なので問題の種になりそうな行動をしないよう心がける必要がある……と、ミカリアに釘を刺されたのだ。
「……よしっ。準備出来た! そろそろ行こっか、ロイ」
「うん」
ロイはにこりと笑い、自然と手を繋ぎ指を絡めてきた。それに分かりやすくドキドキしながら、あたし達は外に出る。
そこで偶然、丁度馬車に乗り込む場面のセインを目にし、その時何かがあたしの脳裏を駆け抜けた。それはいわゆる“ひらめき”というもので。
咄嗟の判断で柱の影に隠れると、ロイも困惑した様子であたしに続いた。
「──そういえば、セインって最近よく一人で出かけてるよね」
「? そうだね。……まさかミシェル、あの馬車に相乗りさせてもらおうとしてる? おれヤダよ。ミシェルと二人きりがいい」
「違うの。あたしが思うに──セインには、誰かしら密会相手がいると思うんだ!」
「密会相手?」
「そう。密会相手。あたし達に何も言わず、一人で毎日のように出かけるのは流石に変だと思う。だから考えたの……セインには、あたし達には言えないような密会相手がいるって」
「……………………うん、いるかもね!」
はじめはぽかんとした様子だったが、やがてどこか諦めを感じる瞳で彼は笑い、肯定した。
「祭りもいいけど……セインの密会相手の方がずっと気になるわ。祭りはまた明日行けばいいし、今日はセインの密会相手を突き止めよう!」
「えっ。おれとのデートは?」
「これっていわゆる尾行ってやつなのかな? 刑事ドラマみたいでわくわくする〜〜っ! 刑事ドラマ、ほとんど見せてもらったことないけど」
「デート…………」
きゃっきゃっと騒いでいるうちにセインの乗った馬車が走り出したので、あたし達はもう一つ手配されていた馬車に駆け込み乗車し、御者に向けて叫ぶ。
「前の馬車を追ってください!」
「は、はあ。分かりました……?」
きゃー! まさかこの言葉を言える日が来るなんて! まさに尾行って感じだぁ!!
「……ミシェル、なんか、すごく楽しそうだね」
「えへへ。もうすっごいたのしい!」
「……そっか。ミシェルが楽しそうで、おれも嬉しいよ」
言って、揺れる馬車の中で、隣に座るロイは、何故か肩をすぼめてため息をこぼした。
♢♢♢♢
セインを尾行すること、一時間。
帝都に入る前には彼も馬車を降りたので、あたし達も徒歩での追跡となった。群衆の間を縫って進み、ロイと二人で懸命に彼を追いかけていると、やがてあたし達は、既に馴染みのある西部地区へと辿り着いていた。
そこでセインは道行く多くの人に聞き込みを行っている。どうやら何かを捜しているらしい。
「怪しい……!」
「多分今何よりも怪しいのはおれ達だと思うよ」
「ほら、周りの人達もセインのこと訝しんでる!」
「セインよりおれ達の方が街の人達に訝しまれてるけどね」
「あ! セインと女の子が取っ組み合いになった! なんで!?」
「それはホントになんでだろう」
ロイと共に物陰から実況する。
あたし達の視線の先では、地雷系? のような様相の女の子とセインが修羅の形相で取っ組み合いの喧嘩を繰り広げていた。
セインはあれで紳士的な一面もある。女の子相手に暴力なんて──
「あ。セインのボディーブローが入ったね。すっごく綺麗に」
「女の子相手に容赦なく格闘してる?!」
ふ、振るえてしまうらしい。
セインのボディーブローが相当綺麗に入ったようで、相手の女の子は白目を向いて吹っ飛んだ。
「でも気絶した女が地面に落ちる前にキャッチして、地面に下ろしてやってるね。なにあいつ、情緒不安定なのかな」
「とっ、とりあえず止めに入らないと!!」
「触らぬ神になんとやらってよく聞くけど……」
「でもでもっ、なんでかわかんないけど、次から次へと女の子がセインに向かって行ってるよ!? 百人組手みたいに!!」
「わあほんとだ。セインの奴、何をやらかしたんだろ」
なんて軽く言うロイの手を引っ張り、闘争の渦中に飛び込むべく走り出す。
次から次へと襲いかかってくる女の子達をちぎっては投げ、ちぎっては投げ。セインは持ち前の戦闘能力で、鮮やかに女の子達をいなしていく。
ううむ……傍から見てた第三者には事情などまったくわからないのだが、セインの美しさは罪、ということなのだろうか。
「と、とりあえずなんとかなれ────!」
鎮静効果のある治癒魔法を豪快に使用する。
それにより、金色の魔法陣が街中で大胆に煌めいた……。