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629.Main Story:Ameless2

「シルフ様、全然帰ってきませんね」

「そうだね……」


 時刻はもう夜の二十三時を過ぎた頃。私は、アルベルトやイリオーデ達と共に、食堂でシルフが現れるのを待っていた。

 しかし、待てども待てどもシルフは現れず。精霊界で何かトラブルがあったのかな、と一抹の不安を覚えたところで、ナトラがボヤく。


「あやつ……アミレスに『その日は絶対、こっちに来るようにするね』などとほざいておきながら、その約束を反故にするとは。信じられん奴じゃな」

「シルフにもきっと何か事情があるんだよ」


 頼むから、そうであってほしい。


「その事情とやらはアミレスとの約束を放棄する程のものなのか? そのような訳がなかろう。この世にアミレスより優先すべき物事など無いのじゃぞ」

「いや、そんなことは全然ないと思うけど……」


 だが、周りの人達──私の従者達と、東宮の侍女達は一様に頷いている。

 そ、そんなこともあるんだ……!?

 その光景に、ユーキが思わず「ほんとにやばいなこの宮殿……」と引き気味でこぼしたのだが、誠に遺憾である。


「とにかく、シルフの事情を聞かないことにはなんとも言えないよ」

「むぅ……お前は本当に、身内に甘いのぅ」

「私の為に怒ってくれてありがとう、ナトラ。嬉しかったよ」

「……ふ、ふん。我は当然の主張をしたまでじゃ!」


 空気が和んだところで、私はふと、寂しさに襲われた。実はシルフ達だけでなく、今はシュヴァルツも不在なのだ。数日前に慌てた様子で彼の部下がやってきて、シュヴァルツは魔界へと帰還。それ以来は一度も顔を見ていない。

 ユーキ達もいるし、よくマクベスタやカイルが遊びに来るから、賑やかであることに変わりはない……のだが。いつも見る顔がほんの少しでも見えなくなると、ちょっぴり寂しくなってしまう。

 ──こんなの、我儘だって言われてしまいそうだけど。


 キュッと締め付けられた胸に、添えるように手を当てる。そこで、突然食堂の扉が開いた。期待を込めてそちらをバッと見るも、そこに立っていたのはシルフではなくフリザセアさんで。

 彼は申し訳なさそうな表情でこちらを見遣り、そして重々しく口を開いた。


「……──申し訳ない、姫。今現在、シルフ様はどうしても精霊界を離れられない状況にある為、人間界には来られない。そして……その旨の報告がここまで遅れてしまったことも、ここで謝罪する。本当にすまなかった」


 フリザセアさんが青銀の長髪を揺らして謝罪すると、ナトラがムッとした様子で食いかかった。


「それはアミレスとの約束よりも大事なことなのか」

「そんな訳がないだろう、緑の竜よ。だが、どうしようもなかった。我々には──拒否権などなかったんだ。姫との約束を放棄する事があの方の本意ではないのだと、どうか理解してほしい」

「言い訳ばかり並べおって。結局は保身の為ではないか。謝罪も弁明も部下を遣わして済ますなど、アミレスを舐め腐っているとしか思えん。アミレスがどれ程に『約束』という言葉を尊重し、アミレスがどれ程にシルフの帰りを待っていたことか……!」

「…………。返す、言葉もない」


 勢いよく立ち上がり、ナトラはまた、私の代わりに怒ってくれた。


「ナトラ、もういいよ。やっぱり何か訳があったみたいだし……とりあえず理由を──」

「訳があれば許すのか? あやつはお前との約束を破ったのじゃぞ! そうやって『訳があるなら』とお前が許すと分かっているから、シルフはその精霊を寄越したのじゃ。そうすれば、アミレスが己を許すと確信しているから!!」

「な、ナトラ……?」


 どうしたの、という言葉を紡げなかった。握り締めた拳を震えさせ、見たことがないくらいナトラが激怒していて。私は、思わず声を飲み込んでしまったのだ。


「我は絶対に許さない。あやつがアミレスとの約束を破り、我の宝を裏切ったことを──何があっても許さん!!」

「っ、ナトラ!?」


 怒りの咆哮を残し、ナトラはフリザセアさんの横を通り過ぎて食堂を飛び出した。そんなナトラを追いかけるわけでもなく、クロノは独り言のように呟く。


「…………僕達は、一万年の記憶の中で数え切れない程の裏切りに遭っている。何度も何度も信じたのに、この世界に生きる者共はみんな、何度も僕達を裏切った」


 クロノは語る。竜種と人類との確執を。


「そのことに最も傷ついていたのは──他でもない、あの子だった。僕達の誰よりもこの世界の生命を愛していたからこそ、裏切られた時にはあの子が一番傷ついていた。……だから、(ナトラ)にとって『裏切り』という行為は、最も忌むべきものなんだよ」


 そうか。だからナトラはあんなにも怒っていたんだ。──シルフが私の信頼を裏切ったと、そう思ったから。


「……本当にすまない。俺達が姫との約束を放棄してしまったことで、緑の竜を怒らせてしまった。重ね重ね迷惑をかけてしまい、忸怩たる思いだ」

「フリザセアさん……とりあえず、理由を話してくれませんか? とにかく理由を聞かないことには、判断のしようがないので」

「だが、緑の竜の言う通り、姫は訳を聞けば俺達を許してしまう。シルフ様を許してくれるだろう。……それは、あってはならないことだ」

「……許すか許さないかは私が決めます。だから、教えてください。どのような理由があって、シルフが私との約束を破ったのかを」

「──分かった。事の仔細、ここに全て話そう」


 渋い顔のフリザセアさんから、今現在精霊界で起きている事件について聞き終えるやいなや。私は、「シルフに『お誕生日おめでとう』って伝えておいてください」とケーキをフリザセアさんに託して、ナトラを捜しに食堂を飛び出た。


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― 新着の感想 ―
[良い点] こんばんは~、今日も更新ありがとうございます! さて、今回はどれだけナトラがアミレスのことを好きかよくわかる話でしたね……アミレスが愛されてて本当に読んでてニコニコでした! でも、同時に…
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