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♦620.Chapter2 Prologue【かくして氷は蕩ける】

突然ですがChapter2です。

 妖精族による帝都侵略事件。その被害を最も受けたのは西部地区であり、俺達の見慣れた街並みは無惨なものとなっていた。

 とは言っても、多くの人達の協力と尽力があり、目まぐるしく復旧は進んでいる。このまま順調に事が運べば、ギリギリ、建国祭の期間中には帝都の復旧が終えられるかもしれない……らしい。

 それはとてもいいことだ。俺達平民としちゃあ、そんなにも早く生活圏が復旧するとか願ったり叶ったり、なんだが。


「「「「「「「………………」」」」」」」


 俺の家は絶賛地獄のような空気であった。

 あまりにも重苦しく沈殿した空間に、まだ赤ん坊のディリアスですら空気を読んで黙り込む程。──これは俺達が勝手にそう思ってるだけだ。だがそうとしか思えないくらい、ディリアスは、俺達がこうなってから全然泣かなくなっちまった。

 生後間もない赤ん坊がずっと、真顔で黙々とエリニティの服やら髪やらを()んでいる姿は異常でしかない。


「……シャル……俺が悪かったよ……だから帰ってきて…………」


 机に突っ伏しているラークが細々と呻くと、


「うぅ……ユーキ兄に会いたい……」


 今度はメアリードが三角座りのまま呟いた。更に、


「あのバカ犬……バカでアホだから他の奴のことばかり優先して、飢え死にとかしてないでしょうね」


 クラリスが、腕を組み不安げな表情で唇を尖らせる。

 ここ暫く俺達は頭を抱えていた。何故なら──家族(なかま)であるシャルルギル、ユーキ、ジェジの三名が少し前から家出中(・・・)なのだ。

 理由は分からない…………いや。責任転嫁はよそう。アイツ等がいなくなった理由も、本当は分かっている。


 それは、数週間前。ある日のことだ。

 国教会のお偉いさんがわざわざこんな街にまで来たモンだから、俺達は出歯亀根性で見物に行った。その時から、なにか(・・・)が噛み合わなくなったんだ。何かがおかしくなり、何かが歪んだ。その結果俺達は……。


『───ディオ、どうしたんだ?』

『な、なあ。どうして返事をしてくれないんだ?』

『俺の声が、聞こえないのか……?』

『俺は、なにか、お前を怒らせるようなことをしたのか? なんでもいいから返事をしてくれ、ディオ……』


 シャルルギルの顔が悲痛に歪む。だけど俺は何も答えられなかった。俺達は何も応えられなかった。

 何故かは分からない。言い訳でしかないが……体が動かなかった。気がつけば、縛りつけられたように国教会のガキを見つめていたのだ。


『ぅ……イヤ、だ……っ!!』

『ジェジ!? どうしたんだ、ジェジ!』


 俺達が身動きを取れなくなっている間に、ジェジが大きな尻尾をぶわっと逆立たせて、真っ青な顔で獣化した。

 ジェジ自身があれ程に恐れていた獣化をしただけでなく、まるで理性を失ったかのように暴れはじめたというのに……俺達の体は相変わらず木のようで。ジェジを守らないと、と頭が訴えかけるのに、心が無理やり『彼女の元へ』と意味不明な感情で体をその場に繋ぎ止める。俺は……結局、何も出来なかった。


『っ……ジェジ、ごめん!』

『!!』


 怪我を恐れず暴れるジェジにしがみついて、シャルルギルはジェジを魔法で眠らせた。そして、酷く傷ついた様子でこちらを振り返り、アイツはジェジを抱えて走り去る。

 その背中を追うことすら、あの時のなにかがおかしい俺には──出来なかった。


 その後暫くしてからハッと我に返り、メアリード達と急いで家に帰れば、シャルルギルとジェジとユーキの姿がどこにも見当たらなくなっていた。

 あの時のシャルルギルの表情が頭から離れなくて、ジェジの安否が心配で。とにかく全員で手分けして街中を探し回ったが……結局、三人は見つからず。

 それから数日後。途方に暮れていた俺達の元に届いた一通の手紙。そこには──『しばらく家出する。捜さなくていいよ』と、ユーキの字で書かれていた。


 何かの事件に巻き込まれたとか、誘拐されたとか……死んでしまったとか。そういう訳ではなく。三人の意思で帰って来ないのだと分かって、俺達は安心する一方、際限のない不安と後悔に襲われる。

 サラの時のように、何も出来ないまま、ただアイツ等の帰りを待つことしか──……俺達には、許されないのだろうか。


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― 新着の感想 ―
[良い点] こんばんは~!今日も更新ありがとうございます! さて、あ…そうですよね。読者目線だと普通にユーキが大暴れしてたし、シャルも追いかけっこしてましたからね…強いて言えばジェジが大丈夫かな~ぐ…
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