612.Main Story:Ameless4
ミシェルちゃんとしては、どうやらロイの猛アタックも満更でもないらしい。
このままいけば、ミシェルちゃんとロイが結ばれるのは時間の問題だろう。それすなわち、ロイのルートに進むことをも意味する。
そもそも、私とカイルは可能な限りゲームから外れた道を行こうと決めていた。私達にしか作れないハッピーエンドを編み出すことが現状の目標であり、その為にはゲーム通りに動く訳にはいかない。
図らずとも、ゲームとは違った展開や事件が発生したおかげで、私達の目標には近づいているのだが……このまま彼女がロイのルートに進んだ場合、この世界はどのように展開するのだろうか。
①、物語の強制力のようなもので、帝国に居るもののロイのルートで起きた展開がきちんと発生する説。
──妖精の森の大火災、カイルのお兄さんの事故、オセロマイト王国の滅亡、赤髪連続殺人事件、大公領の内乱、少し早まったが魔物の行進も。ゲームの本編シナリオ前に発生する事件は、全て発生してしまった。幾つかの事件は、最悪の結末を避けられたものと思いたいが……ゲームで定められた通りに物語が進んでいたことは紛れもない事実だ。故に、無いとは言い切れない。
②、ロイのルートではあるが、帝国に居るということで帝国組いずれかのルートを乗っ取って話が進む説。
──可能性は限りなく低いとは思うが……私自身、ここ数年で幾度となく攻略対象とのイベントを乗っ取る……というか、体験してしまったものだから。どうにも否定しきれなくて、この可能性も留意しておくべきだと思ったのだ。
③、ロイのルートも帝国組のルートも無関係の未知の展開になる説。
──これこそが、私とカイルが望むルート。ミシェルちゃんに帝国に来てもらった上で、発生しうる全てのイベントを潰し新たなルート開拓をしようとしている以上、この展開が一番望ましい。妖精との戦いのような、大規模なイレギュラーは流石にもう御免こうむりたいけれども。
個人的には③を推したいが……これまで私は、最善こそ尽くしたものの最良の結末を掴み取れた事は一度も無い。
オセロマイトの民を半数近く救えなかった。ナトラをもっと早く助けてあげたかった。赤髪連続殺人事件を阻止出来なかった。アルベルトに人を殺めさせてしまった。ディジェル領の人達を何人も死なせてしまった。レオとローズに迷惑をかけてしまった。起こると分かっていたのに、魔物の行進の被害を抑えられなかった。震える足で共に戦ってくれた兵士達を守れなかった。
私が作り出せる最善の結果には出来たが、それは考えうる限りの最良の結果ではない。
だから、怖いのだ。未来を知っていたにもかかわらず、最良の結果すら掴み取れなかった私が、何も分からない未来を選び進んだとして──どんな結末を迎えるのか。
私達の身勝手な行動が、ゲームよりも酷い悲劇へと繋がってしまわないかと……最悪の結末ばかりを想像してしまい、不安で仕方ない。
……──こんなことなら、独りのままがよかった。宝物がなければ。大好きな人達がいなければ……私は迷わず、自分だけが幸せになれる道を選べたのに。
皆を好きになってしまったから。どうしても、切り捨てられなくなってしまった。どうしようもなく、幸せな未来を思い描いてしまった。
誰も犠牲にならないハッピーエンドがいい。死にたくない。生きていたい。幸せになりたい。これから先もずっと……ずっと、皆と一緒にいたい。
本当に──……馬鹿だなあ、私。
怖くて怖くてしょうがないのに、もはや、その道を選ぶしかないなんて。死にたくないのに、何があるかも分からない危険な未来を選ぶだなんて。本当に、信じ難い愚か者だ。
……でも、しょうがないよね。
『君の人生はまだまだ続くんだから、これから生きたいように生きればいいさ』
私の幸せな未来には──皆の存在が必要不可欠なんだから。
我儘になろう。自分勝手になろう。怖いし、不安だって消えやしないけど……もう迷わない。私含め誰も犠牲にならない、私達だけのハッピーエンドを掴み取るんだ!
「……──カイル。ミシェルちゃん。お願いがあるの」
「ん?」
「お願いって?」
私のハッピーエンドには彼等の協力が不可欠だ。
「私は、死にたくないし、誰も犠牲にしたくない。どんな手段を用いてでも最良のハッピーエンドを迎えたい。だから二人の力を貸してほしいの。──この世界の結末を、私達で書き換えたいから。私の我儘に……どうか、付き合ってほしい」
ごくり、と生唾を呑み込んで、二人は気合いたっぷりに答えた。
「──オーケイ親友。その言葉を、お前の口から放たれる我儘を、俺ァずっと待ってたんだ」
「あたしに出来る事なら、なんだって協力するよ! アミレスさん達には凄く迷惑かけちゃったし、大事なことに気付かせてくれた恩人! でもあるので!」
「カイル……ミシェルちゃんも……。ありがとう、二人共」
二人とそれぞれ握手をし、これからの協力と共闘に乾杯する。勿論、未成年である私とミシェルちゃんはただのジュースだ。
随分と寄り道と遠回りを繰り返してしまったが……私達は今、ようやくスタート地点に立てた。
ゲームシナリオを崩し私達が新たなシナリオを描く。そして、望んだままの最良のハッピーエンドを迎えてみせよう。
「……──今ここに。目指せハッピーエンド同盟、再結成だ!!」
「「おー!」」
カイルの音頭に合わせ、グラスをコンッと鳴かせる。
私はもう何も諦めない。欲しいものも、守りたいものも、何もかも全て手に入れ守り抜いてやるんだ。
全ては──皆との幸せな未来の為に!