600.Main Story:Ameless3
「この一時の間、花形はくれてやる。僕の世界で暴れる事を特別に許してやろう」
言って、フリードルは演奏を続けた。その言葉に背を押され、マクベスタ達は総攻撃を再開する。
相変わらず協調性が欠片もない四人だが、それ故に、彼等の攻撃はラヴィーロの困惑を呼ぶ。普通に共闘していれば当然連携の必要が出てくるが、しかし彼等は我こそが奴を倒さん、と他者を慮ることもなく、四人がそれぞれ単独で戦っているのだ。
その為、連携における隙が無く。さしものラヴィーロと言えど彼等の攻撃を読むことが叶わないのだろう。
「……私には、成さねばならない事がある。何としてでも、この場にあの星を────」
たった一体で四人の猛攻を防ぐラヴィーロ。その目付きがギロリと変わったかと思えば、氷の世界に目まぐるしく変化が見られた。──氷の一部が、またもや宝石のように明滅しているのだ。
「あの男、領域の出力を上げやがったな……!? このままだとフリードルの領域が押し負けて、アイツの領域に呑まれちまう!」
急に活き活きと実況解説し始めたわね、この男。
「呑まれたらどうなるの?」
「今度こそアイツの独壇場になるってところだろうな。今はなんとかフリードルが領域上書きバトルで優勢に立ってるが……もしフリードルが負けたら、主導権を握られデッドエンドまっしぐらだ」
私の腕を掴むカイルの手が僅かに震えた。
危機感を煽るくせに、この男は私を戦わせまいとしている。アマテラスを持つ手を握られ、常に一歩前に立たれては……私は動くに動けない。
「──カイル」
「駄目だ。お前はここにいろ」
「……まだ何も言ってないわよ」
「お前、分かりやすいんだよ。駄目なモンは駄目。これでも今すぐにでもハミルディーヒに避難させたいところを、お前の性格を考慮してぐっと堪えてんだ。これ以上我儘言うな」
そう脅されては食い下がれない。瞬間転移でどこかに飛ばされたら、私にはどうする事も出来ないからだ。
いざという時はカイルを振り切り飛び出そうと我慢した、その時。一瞬ラヴィーロと目が合った気がした。
「────」
宝石の指でこちらを指し、彼はふっと微笑む。
それと同時に私の足に激痛が走った。丁寧に体を砕かれたような痛みが、両足に襲いかかる。
「〜〜ッぅ……?!」
「アミレス!?」
思わず呻き、足元を見て私は絶望した。
──地面が局所的に宝石へと変貌していたのだ。そして、私の足。正確には足だったもの。これもまた、光を放つ宝石と化している。
「っ!! 急いで地面から離れるぞ!!」
血相を変え、カイルは私を抱えて翼の魔力で飛び上がった。
「やっぱりハミルディーヒに連れて行くべきだった! クソッ……!! その可能性も十分に考えられたのに留意してなかった俺の所為だ……っ!!」
悔しげな瞳が見つめるは、亀裂の入った宝石の足。先程の激痛は、どうやらこの──宝石化した足に入った亀裂によるもののようだ。
カイルの語る“可能性”。それは、ラヴィーロの侵蝕能力の発動条件に関するものだろう。これまでは彼の手または剣が触れた時のみ、と予想していたのだが……どうやらそれは早計で。
宝石が接触した場合でも、その侵蝕能力は発動可能らしい。それも、任意で。
宝石の上に立っていても無事だったから、その可能性に気が付かなかった。カイル含め、誰も気付けなかった──!
「とにかくシルフの所に行って、治し……」
「兄様! マクベスタ! イリオーデ! ルティ! サラ! 宝石には絶対触れちゃ駄目!! 周囲の宝石全てがその妖精の手足のようなものよ!!」
「ちょっ、アミレスさぁん!? アンタの足が壊れかねんから暴れないでくれます!?」
この声が届いたのか、マクベスタは黒翼で、イリオーデは風の翼で、アルベルトとサラは影の軍靴で、フリードルは氷の床で。それぞれ地面を離れる事に成功したようだ。
しかし安心は出来ない。相手は奇跡を起こす存在。何が起きても不思議ではないのだ。
ラヴィーロを最大限警戒した上で、カイルに連れられシルフの元に向かう。
「──見つけた」
が、それは阻止された。
翼の魔力で空を飛ぶカイルの足に、茨のようなものが巻きつく。カイルが息を呑んだその瞬間、ぐんっと引っ張られて私達は地面に叩きつけられた。
「ッ……! 大丈夫かアミレス……?」
「うん。貴方のお陰で、なんとか。そういうカイルは無事なの?」
「はは、刑事告訴出来そうなレベルだわ」
「…………ごめんなさい、庇わせてしまって」
「気にするなよ。俺達はどっちも被害者だぜ」
墜落した割に、私は多少の衝撃を感じただけで済んだ。それはひとえに、宝石化した足を含め、カイルが身を呈して守ってくれたからに他ならない。
しかも謎の液体が宝石化した部分を覆っていて、宝石が壊れた様子は無い。……あの一瞬でそこまで判断して行動出来るなんて、底が知れないわ。
「アンタが、アンタ達がユーミスを殺したの? そうでしょ、絶対そうだッ! 許さない……っ、絶対に殺してやる────!!」
「お前……さっきの妖精か。このタイミングで復讐とか、間が悪過ぎるだろ」
生首を抱える女の子が、血走った目でカイルを睨む。もう一度私を抱えてふらふらと立ち上がり、カイルは冷や汗を流した。
「……あの子供、魔法への耐性がめちゃくちゃ高いみたいなんだ。叶うなら物理で戦いたいところだが……お前を守る事が最優先だ。魔法戦でどうにか隙を作って、シルフの所に行くぞ」
先程の墜落の影響か、カイルの顔色は悪く、足を引き摺っている様子だ。こんな状態で私を庇いながら戦うなんて、無茶にも程がある。
……でも。私の足は、動かせなくなってしまった。足が突然宝石になった影響か、体内の魔力循環が狂い、思うように魔法まで使えなくなった。
正真正銘、今の私はお荷物ということだ。
「せめてシャルルギルがいてくれたら、お前のことも任せられたのによ。他のペアはまだ合流出来てねぇし、俺が頑張るしかないよなぁ」
不安を打ち消すかのように多くなる口数に、罪悪感がチクチクと募る。
件のシャルは何か用事があるとかで、妖精討伐後から別行動を取っているそうなのだ。なのでイリオーデ達とは合流出来たものの、彼は何処にいるか分からない。
カイルも、師匠も、マクベスタ達も、フリードルも、懸命に最善を尽くしている。……なのに、私はこの局面で足でまといになった。
人様に、皆に、迷惑をかけている。ああ──……私は、なんて無価値なんだろうか。