599.Main Story:Ameless2
ラヴィーロが発動した領域、宝石界域。その主たる男の追加攻撃を、オーバーリアクションで阻止(?)する事に成功したカイル。
しかし不憫の星の元に生まれた彼は、
「先程から少し五月蝿いぞ、カイル」
「黙れ塵芥」
「王女殿下の御耳が壊れたらどうするつもりだ」
男性陣の理不尽な批判に晒されてしまうのであった。
「俺への風当たり今日も強いなァ……。アミレスぅ、慰めて〜〜」
「思わぬ飛び火。今そんな事をしてる場合じゃないんだけど……?」
天使の概念付与の時といい、今といい。今日はやけに塩対応に晒されているからだろうか、カイルが人の温もりを欲している。
ここで私まで冷たくして、カイルが拗ねたりしたらどうしよう。彼程の重要戦力をそんなしょうもない理由で失う訳にはいかない……!
「しょうがないなぁ。はい、抱擁。ストレス軽減効果があるんでしょ、これって」
「み゜ッッッ」
カイルに抱き着き、ぎゅ〜〜〜〜っとしてみる。するとどうだろう、カイルの喉から今際の蝉みたいな音が聞こえた。
……あ。そういえば、この人女嫌いだったわね。申し訳ないことしたかも。
静かに彼から離れ、つつつっと距離を取ってみる。「命がいくつあっても足んねぇよ……」なんて呟きが聞こえた瞬間、
「……──あの妖精の次は貴様だ、カイル・ディ・ハミル」
修羅のような様相のフリードルが、血走った眼でカイルを睨んで謎の宣言をした。
「ダイナミック殺害予告ェ…………」
「殺しはしないが、何かと羨ましいから後で死合おうか」
「ダイレクト怨恨!!」
「マクベスタ王子。そちら、私も参加して宜しいか?」
「殺人幇助!?」
「…………」
「怖いから何か言えよ! 黒髪執事に睨まれるとか今日びシチュボでも中々見ねぇって!!」
割と危機的状況なのに、どうして私の目の前ではコントが繰り広げられているんだろうか。軌道修正を図り「カイル、落ち着いて」と声をかけると、
「──それで、アイツの弱点だが……」
「うわぁ急に落ち着かないで!?」
カイルは何事も無かったようにラヴィーロについての考察を繰り広げた。
「アイツの侵蝕能力は“手が触れた時”“宝石化した剣が触れた時”の状況下でのみ発動してることから……接触する事が発動条件と見てよさそうだ」
「つまりは接触さえしなければ良い、ということか」
「単純に言うけどなぁ……イリオーデさんや、それならどうやって戦うつもり──」
「当然、魔法だが」
長剣を抜いたイリオーデは、その刀身に風を纏わせた。竜巻を携えた剣を構え、イリオーデはいの一番に突撃する。
ギィンッ! と、竜巻の剣とダイヤモンドの剣がぶつかり合う。天地開闢する風の矛の猛攻を受けてもなお、その金剛石が砕ける様子はなく。
瞬きつつも、イリオーデは攻撃の手を休めない。
「そうか、その戦法があったか…………ゼース。汝は神成り、其の怒りは雷槌なり──」
今ゼースって言わなかった? と耳を疑った瞬間、マクベスタが消えた。──正確には、マクベスタが電光石火のように移動し、瞬く間にイリオーデと合流していたのだ。
純白の雷を撒き散らす黒い剣と、竜巻を操る長剣。もはや自然災害に等しき二つの魔法──とそれを纏う剣が、ラヴィーロをいたずらに襲う。
「騎士君にばっかり活躍させてられるか……!」
「兄ちゃん、動機が不純だよ……」
続いてアルベルトとサラが影を凝縮した武器をそれぞれ作り、駆け出した。暗黒の双剣と暗黒の薙刀。ベンタブラック並の黒を誇る武器を手に、彼等も参戦する。
「──そこの執事。貴様、今私を狙わなかったか?」
「はは、そんなまさかー」
「邪魔だ、ルティの弟。お前ごと斬るぞ」
「仕方ないじゃないですか! こんな混戦状態だと配慮し合うしかないですって!」
先行した四人が混戦を繰り広げるなか。大人しくその場に留まっていた氷結の貴公子様が不機嫌ですと書かれた顔でくるりと振り返り、こちらに一歩踏み込んで来た。
じっと見下ろしてきたかと思えば、空いた手を取ってきて、
「……──愛しの我が妹よ。宝石よりも美しい銀世界を、お前に魅せてやる」
「!?」
微笑みと共に、手の甲にそっと触れるだけの口付けを落とした。私が反論するよりも早く、奴はくるりと踵を返してマントを翻して行く。
「此処が貴様の世界だと? 調子に乗るならば、場所と相手を選べ」
地に浮かぶ白藍の魔法陣の上で、氷のピアノが象られてゆく。思わぬ人物の突飛な行動に誰もが彼を注視するなか、フリードルは悠々と座し、鍵盤の上に手を掲げる。
「これより此処は僕の世界だ。──氷上の楼閣」
深海のごとき瞳がラヴィーロのそれと交わった瞬間、フリードルは演奏を始めた。その演奏は、奏者の人格からは想像もつかない程美しく洗練されたものであった。
彼の旋律に合わせて、氷晶が舞い踊る。鍵盤が押される度に魔法の軌跡が輝く様は、おとぎ話の魔法のよう。
──夢でも見ているのだろうか。世界を塗り替えた宝石の煌めきを、音に誘われた壮麗な氷が上書きしてしまった。
「フリードル、ピアノ弾けたのかよ……」
「……思い出した」
フリードルがどうして、氷結の貴公子だなんて洒落た肩書きを持つのか。その理由を。
「あの男がピアノを弾く姿と、その音色の麗しさから──誰かが、『氷結の貴公子』と呼び始めたらしいの。たった一度の演奏で聞いた人を虜にする程、フリードルのピアノの腕は確かなものよ」
「何その裏設定」
ゲームにも無かった設定に、カイルは目を白黒させた。
昔、ハイラから聞いた話では……フリードルが人前でピアノを弾いたのは幼少期に一度きりとのこと。にもかかわらず、生涯付き纏うような肩書きが誕生したのも納得の演奏だ。
フリードルの宣言通り──目が潰れそうなぐらい輝く宝石の世界は、一面の銀世界へと変貌した。