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584.Main Story:Others

 女王近衛隊が第六部隊《トランクィロ》部隊長、恐怖を甘受する妖精シシェディアは、七体居る部隊長の中でも最も残酷な妖精として、有名であった。

 美しい女の(かお)肢体(からだ)を持つ一方で、その頭部に在る鹿角(ろっかく)や耳の位置に在る猫のものに近しい耳、まるで獅子のように細長い尾を持つ、不思議な妖精である。


 彼女はとても穏やかな性格の持ち主だった。他者を慈しみ、善なるものを良しとし、守ろうとする。

 類稀なる包容力から、部隊長一の博愛主義者と呼び声高き一方で、彼女はこうも呼ばれていた。

 ──“慈愛に満ちた愉悦者”と。


「くっ……!! 殺すならさっさと殺せ……!」

「あらあらまぁまぁ。妖精(わたしたち)の縁者だと言うのに、なんと粗野なのかしら」

「このような悪趣味極まりない戦い方をする者に言われたくはない!!」


 穏やかに微笑む淑女に向け、青筋を浮かべてくわっと叫ぶのは、セインカラッド・サンカル。彼は四肢を拘束され、身動きを取れない状態で足の裏を絶え間なく羊に舐められていた。

 まんまと拘束された無様さと、言い様のない気持ち悪さとで彼の顔は真っ赤に染まり、その体はわなわなと震えている。

 警戒心が人一倍強くプライドもそこそこ高いハーフエルフにとって、この状況はまさに恥辱の極み。現在進行形で生き恥を晒されているセインカラッドが、復讐に燃えていた頃並に憤怒するのも、やむなしというものだ。


「がんばれー、セインー」

「っユーキ!? どうして助けてくれないんだ!?」

「見てて面白いから……」

「この状況でそれを言うか?!」


 ケラケラと笑いながら声援を飛ばし、ユーキ・デュロアスはすっとぼける。ひとしきり笑って満足したのか、ユーキは真剣な表情で「そもそも」と切り出す。


「見ての通り僕も捕まってるんだから。どうしようもないよね」


 軽く言うが、確かにユーキも拘束されている。もっとも、ユーキの場合は胎児のような体勢で各首に枷を嵌められ、固定されているだけなのだが。

 見た目の無様さで言えば、ユーキの方が上かもしれない。


「ッ……! っ、……!!!!」

「その顔、どういう感情なの?」

「オマエがこんな簡単に捕まる筈がないと思っていたし、今も尚思っているから現実を受け入れたくない。という感情だ」

「おまえ、そんな面倒くさい性格してたっけ?」

「オレのユーキは最強なんだ……っ!」


 イリ兄が増えたんだけど。と、ユーキは呆れの表情で息を吐く。


「うふ。貴方達は女王様の行く手を阻む“悪い子”だけれど……その顔は、とても綺麗で好きよ。貴方達が“善い子”だったらよかったのにね」


 シシェディアが恍惚した表情で鋭く笑う。

 その笑顔に背筋を凍らせ、ハーフエルフ達は硬直する──


「何言ってんのあのおばさん……僕達、めちゃくちゃ良い子でしょ」

「そうなのか?」

「アミレスはよくそうやって褒めてくる」

「そうなのか……」


 なんてことはなく。

 自信家ユーキの発言に、セインカラッドは困惑気味に思考を止めた。

 数年間、事ある毎に人を褒めるアミレスと接し続けた為、私兵団の面々はびっくりする程に自己肯定感が高まっているのだ。

 話は戻るが──。ユーキの中学生男児のような発言を真に受けた者が、一名いた。


「……──おばさん? 私が? まぁ、まぁまぁまぁまぁ……そんなことを言われたの、数百年ぶりだわ」


 勿論、シシェディアである。なんとか微笑みを絶やさず、穏やかな風貌だけは保っているものの……目元からは笑みが消え、その頬はぴくぴくと動いていた。


「おいユーキ。どうやら怒らせてしまったようだぞ」

「僕、事実しか言ってないんだけど」


 事実陳列罪である。

 っと、ふざけている場合ではない。シシェディアの顔が鬼の如くどんどん険しくなってゆくではないか。


「お・ね・え・さ・ん、とぉっても傷ついたわぁ」


 穏やかさとは程遠い暗黒微笑で、シシェディアは固有奇跡を発動した。彼女が占有する奇跡──晩嗜虐餐サディスティックライヴは、対象の恐怖を引き出し己の養分とする為に、絶望的な苦痛を与える代物。

 故に。セインカラッドとユーキは──……更なる拷問(・・)に襲われる事となった。


「っ今度は何だ……?!」

「いてて……体中痺れてるんだけど……」


 拘束から解放されたかと思えば、彼等の真後ろには二つの鋼鉄の(はこ)が出現する。片や針山の如き観音開きの(はこ)。片や、螺子式の扉を持つ片開きの(はこ)

 その内側から鞭のような紐が伸び、彼等の体を捕らえて絶望の中へと引き摺り込まんとする。


「クソッ! 馬鹿力過ぎるだろう……!!」


 抵抗も虚しくズルズルと引き摺られ、セインカラッドは鋼鉄の(はこ)に放り込まれてしまった。程なくして、視界が暗くなる。扉が閉ざされようとしているのだ。

 だが、


「……セイン。宝石の準備(・・・・・)しておけよ(・・・・・)

「!!」


 時を同じくして、観音開きの針山に放り込まれたユーキから、そんな言葉が聞こえてきて。


(ああ、分かった)


 そう、返事をする間もなく。彼等は二つの棺──鋼鉄の少女(アイアン・ヴァージン)圧し潰す鉄柩(リッサ・コフィン)に閉じ込められてしまった……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] こんばんは~!今日も更新ありがとうございます! さて、おやぁ…元ネタは全然知らないんですけど、すごく聞き馴染みのあるセリフが…しかも言ってんのがセインなだけ面白さ倍増ですね。 アミレス…
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