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573.Main Story:Ameless

「な──……なんで、皆が……?」


 話しをしよう。と告げたところ、ミシェルちゃんは唇を震えさせた。

 その視線は右へ左へと泳いでおり、私の背後に立つ攻略対象の面々へ向けられていた。つい先程まで自分を愛していた男達の急変っぷりに、混乱しているようだ。


「っおまえら……! ミシェルを裏切ったのか!? なんとか言えよ、なあっ! セイン!!」

「……裏切ったという訳ではない。ただ……どうやら彼女が、ミシェルと話したいそうなんだ」


 ロイの激昂に、セインカラッドも困った様子で応対する。

 ミシェルちゃんを守るように前に立つ姿は、まさにゲームの彼そのものだ。彼がキッと眉を吊り上げたところで、ミシェルちゃんが「あたし、あの人と話すよ」と言って、前に出る。


「……アミレス・ヘル・フォーロイト、様。あたしと話したいこと、ってなんですか?」


 ミシェルちゃんが大人しく話し合いに応じてくれたので、これ幸いと私は切り出す。


「ねぇ、ミシェルちゃん。貴女は──私と同じ(・・・・)でしょう?」

「──っ!!」


 彼女の空色の瞳が、ぐらりと揺れた。


「おな、じ……じゃあ、まさか……あなたも……?」

「ええそうよ、私は貴女と同じ。だから分かるの。今、皆が貴女を愛することは異常なんだって」

「あ────っ」


 きっと、その違和感から目を背けてきたのだろう。酷く落ち込んだ様子で、彼女は固まってしまった。


「あのね、ミシェルちゃん。皆が貴女を愛したのは、貴女が彼等の心を奪ったのではなく、妖精の──」

「聞きたくない!!」

「っ!?」

「いやだ、いやだ……! あたしは愛されたいの! 普通の、温かくて痛くない愛情が欲しいの!! 愛されてないだなんて、そんなのっ、絶対に聞きたくないっっっ!!」


 まるで、何かに追い詰められているかのようだった。どこかヒステリックに聞こえるその叫びは、何故か、私の心にも深く突き刺さる。

 本当に──……彼女と私は、同じ(・・)だったみたい。

 あの子も、『私』も。ただ、普通に愛されてみたかっただけなのだ。


「…………皆に愛されたいって言うけれど。貴女が求める愛って、どんなものなの?」

「だから……痛くない普通の愛、で……」

「“万人に愛されること”が普通だと、本当に思う?」

「っ! でも、あたしは……ミシェル・ローゼラ、だから……!」

「確かに貴女がミシェル・ローゼラである以上、それは可能かもしれない。だけどそれはあくまでもあの物語の中だけの話。ここは物語の中でもなんでもない、現実だから」


 ぴしゃりと告げると、彼女の顔は引き攣った。

 皆に愛されるヒロイン。それが『アンディザ』というゲームにおけるミシェル・ローゼラだから。

 彼女もその事実だけを頼りにしてきたのだろう。希望が打ち砕かれたように、その表情が曇ってゆく。


「そもそも、紛い物の私達が彼女達のように生きるのがまず不可能であって。ましてや、彼女のように万人に愛されるのは、より不可能だって……貴女も本当は分かっているんでしょう?」

「ぁ……いや、いや……っ! そんなの聞きたくない…………っ!!」

「目を逸らさないで。そうやって夢ばかりを追いかけていないで、すぐ傍のものに目を向けて!」


 耳を塞ぎ、目をぎゅっと閉じて、髪を振り乱すミシェルちゃんに向けて、刃のような言葉を捲し立てる。

 彼女を傷つけているだろうが、こうでもしないと彼女は理解してくれないだろうから。心を鬼にして、何度も告げる。


「私も、貴女と同じようにずっと夢を見ていた。家族に愛されたいって。人並みに幸せになってみたいって! そうやって、勝手に美化して憧れていた(もの)にばかり執着して、身近にあるもの──……とっても平凡で、だけど私が思い描いていたものより遥かに尊い愛情を、とっくの昔から皆に貰っていた事に、最近ようやく気づけたの!!」


 思い返せば。私はものすごく、『愛されていた』。

 それは物語のようにキラキラとしていて、華やかなものではなかったけれど。皆が私を心配する気持ちや、共に笑ってくれる時間、私と一緒にいてくれる優しさのその全ては──間違いなく、私への『愛情』から来たものだと、自惚れている。

 そうだ。皆はずっと、私を愛してくれていたのだ。

 それなのに……私が馬鹿の一つ覚えみたいに、偶像化した愛情を求めていたから。全然、皆の愛情に気づけなかった。


「貴女だって同じよ。そうやって、“皆に愛される”事にばかり執着して、すぐ傍にあるひたむきな愛情に気づけていないだけ」

「なに、を言って…………っ」


 ミシェルちゃんではない、『彼女』の願いが本当に『皆に愛されたい』というものであるのなら。

 色々と特殊な私や天使組、高位存在である人外組を除いて唯一の、奇跡を(・・・)起こした(・・・・)存在(・・)が、彼女の傍にはいる。


「──貴女は既に愛されているわ。貴女だけの、王子様に」


 ヒロインの幼馴染というポジションを与えられた、とても健気な恋する少年。──それが、ロイという攻略対象だった。

 彼のルートにはこんな台詞がある。


『おれ……ミシェルの王子様に、なれたかな?』


 その台詞は、幼い頃からずっとミシェルちゃんに恋をし続けていた彼が、ようやくその恋を成就させた後に放ったもの。

 まだ愛を知らず、切ない恋心だけを抱えていた少年らしい、拙い愛の言葉。

 だからロイは、いくつもの困難を乗り越えてその恋が叶うまで、愛が何か分からなかった。世界中の何よりも大好きなミシェルちゃんを、愛してはいなかったのだ。


 そんな彼が、奇跡力を回避出来たということは──恋が成就していないにもかかわらず、ロイがミシェルちゃんを愛するようになっていたということ。

 すなわち、乙女ゲームのヒロインですら成せなかった事を、『彼女』が成し遂げていたということだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] こんばんは、夜中の三時半にすみません…。 さて、ミシェルとアミレスって細々としたことを取っ払ってしまえば「ただ普通の愛を欲しがった子供」ですもんね。アミレスは、ミシェルの気持ちが痛い程良…
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