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57.眠れる炎の美女2

「見て、あの男性とてもかっこいいのになんだかとても可愛らしく見えるわ……!」

「あれは異国の服かしら、背の高い彼にとてもお似合いね!」

「ああっ……あの無邪気な笑顔を向けられたい…っ」

「あんなにも美しい男性がこの世界にいるなんて……」

「何でだろう、あの男を見てると色々と教えてやりたい気分になるんだが……」

「おおう、色々と、な……」


 道行く女性達がエンヴィーさんを見て、頬を染めてきゃあきゃあと騒いでいる。しまいには男性でさえもエンヴィーさんに目を奪われているようだった。

 そんな状況でエンヴィーさんの連れの私達はと言うと……。


「ねぇあそこの金髪の少年もとても……」

「それなら私は隣の可愛らしい少年の方が好みだわ」

「激しく同意しますわ」

「あの可愛らしいお顔なら大人に弄ばれてしまいそう……」

「泣き顔がきっと似合うわ」

「激しく同意しますわ!!」


 エンヴィーさん同様、黄色い声と熱烈な視線に晒される事に。と言うか、割と恐ろしい事を言ってるわよ……街の淑女レディ達……中々にいい癖してるじゃあないか……。


「……師匠、そろそろ行かないか?」

「あっ、悪ぃ悪ぃ。こっちの世界には滅多に来ないから、何もかもが真新しくて……ちょっとはしゃぎ過ぎたか」

「師匠……」


 マクベスタがエンヴィーさんの手を引いて、そう促す。エンヴィーさんは恥ずかしそうに目を逸らしながら謝った。それにマクベスタが困り顔を作る。

 エンヴィーさんは私の為にシルフが精霊界から連れて来てくれた精霊さんだ。人間界に来ても皇宮で私達に剣を教えるだけで、私同様城の外に出た事は無かったらしい。

 だからこそ、初めての外と言う事ではしゃいでいるようで……なんだか数日前の自分を見ている気分になる。


「ねぇ、マクベスタも帝都はあんまり見て回った事ないんだよね?」

「ん? まぁそうだな……」

「私も帝都に出るのはまだ数回目だし、エンヴィーさんだって初めてなんだから。この際だからちょっとだけ見て回ろうよ!」

「姫さん……!」


 私の提案にエンヴィーさんが嬉しそうに頬を綻ばせた。……本当に可愛い人だなぁ。この精霊さん。

 そんなエンヴィーさんの表情を見て、マクベスタは観念したように瞳を伏せた。


「……お前がいいのなら、オレも構わんが」


 マクベスタの了承を得て私とエンヴィーさんはハイタッチをして喜んだ。

 そして少しだけ道を外れ、私達は通りの店を見て回った。花屋に服屋に装飾品店に飲食店……次々に色んな店に入っては三人で満喫していた。


「なんでそんなに花に詳しいの?」

「……うちの城の近くに色んな花が咲く草原があってな、昔から母や兄と共に行っては色々と教え込まれていたんだ」


 と柔らかい表情で語るマクベスタが花屋で次々に花の解説をしてくれた。


「やっぱり、マクベスタはこの色が…いやでもこっちの大人しめなのも……」

「……師匠、オレの服は別にいらないんだが」

「エンヴィーさんはもしかしてお洒落さんなのかな」

「違うんすよ姫さん。人には合った色があるんだから、その人に合った色の服を着てないとめっちゃ怒る知り合いがいて……その所為で服を選ぶってなると妙に気合いが入るんです。適当にやってあいつに怒鳴られるかもと思うと……」


 と真剣な面持ちで様々な服を見比べるエンヴィーさんが紳士向けの服屋でマクベスタに服を選んで、知り合いとやらの話をして遠い目になった。


「アミ……スミレ、これとかお前に似合いそうだ」

「姫さんなら正直何でも似合うんだが、やっぱり寒色系がいいな……」

「二人共楽しそうだね」


 と装飾品店で次々にアクセサリーを手に取って見せてくる二人に、私はため息をついていた。


「ん〜っ、このお肉美味しい……!」

「口の中で広がる旨味がかなりの満足感を与えてくれるな……」

「ハハ、二人が楽しそうで何よりだ」


 と貴族御用達らしい飲食店で美味しい肉料理を堪能する私達を、エンヴィーさんが暖かく見守る。

 私達は店イチオシの肉料理を頼んだが、エンヴィーさんは何も注文しなかった。


「俺達にとって食事ってのは娯楽なんですよ。何せ俺達は魔力さえあれば生きていけるんでね。まぁ、中にはシルフさんみたいに好んで食事を取ったりする奴もいるんすけど」


 だから俺はいらないんすよ、とエンヴィーさんは語った。それに私達はなるほどと納得していた。

 シルフが食事を好むのはこの前の紅茶の件で知っている。だがそれはシルフだからであり、精霊さんが誰しもそうである訳では無いらしい。

 私が会った事のある精霊さんはシルフとエンヴィーさんだけだけど……いつかもっと色んな精霊さんに会えたらいいな。

 食事を終えた私達はようやく伯爵邸に向かう事になった。その道中でメイシアの話題になった。


「今から会いに行く子って火の魔力なんすよね、いやぁ楽しみだ」

「エンヴィーさんもきっと気に入ると思うよ、メイシアはすっごいいい子だからね!」

「姫さんがそこまで言うなら……っと、そうだ姫さん。頼みがあるんすけど」


 後ろを歩くエンヴィーさんがピタリと足を止めて、突然そう言い出した。

 それに合わせて私達も足を止め、エンヴィーさんの顔を見上げる。


「……数年前からずっと言いたかったんすけど、俺の事をエンヴィーさんってさん付けで呼ぶのやめてくれませんかね? ほら、シルフさんは呼び捨てなのに俺にはさん付けで……なんと言うか、シルフさんからの圧が……」


 エンヴィーさんは冷や汗を頬に滲ませて頼み込むように頭を下げていた。

 でもどうして今更? と思っていると、心を読まれたかと思うぐらいタイミング良くエンヴィーさんが訳を話したのだ。


「…………今まで姫さんの傍にはずっとシルフさんがいたじゃないすか。そんな状況でシルフさんからの圧がどうこうなんて話をすれば、俺、後であの人に絞られんの確定なんで……」

「……だから奇跡的にシルフがいない今、その話をしたって事?」

「そうなりますね」


 精霊さんの上下関係って結構シビアなのかな。なんて考えながら、私は顎に手を当てて空想しては小さく笑いをこぼす。猫シルフがエンヴィーさんに向けて説教をする姿が、妙にしっくり来てしまったのだ。

 エンヴィーさんにもう頭を上げてと言い、更に私は尋ねた。


「前から思ってたんだけど、シルフって凄いヒトなの?」

「いや、そりゃ凄いも何もあのヒトは…………って、あー、やっぱ忘れてください。凄いヒトだって事だけ覚えておいて貰えれば」

「えー! そこまで言ったなら最後まで言ってよ気になるじゃない!」

「これ以上はちょっと……またシルフさんに怒られる……と言うか俺の呼び方! これのが大事っすよ!」


 強引に話題を逸らすエンヴィーさんが、なんて呼んでくれるんすか? とそればかり繰り返す。

 まぁ確かに今後エンヴィーさんを何と呼ぶかはそれなりに重要な問題だ。だから私は……仕方なく、今は大人しく、エンヴィーさんの事情に付き合ってあげる事にした。


「……じゃあ、マクベスタと同じように『師匠』で。隠し事をするヒトを名前では呼んであげません」

「え…………マジっすか……?」

「全然大マジですけど、師匠」

「……マジかぁ……でもさん付けよかマシ……」


 自分で招いた事態なのに妙にしょんぼりとしているエンヴィーさん改め師匠の肩を、マクベスタが優しくポンっと叩く。

 やめてよ、何か私が悪いみたいじゃないこれ。

 とにかくこの空気が嫌だったので、私はマクベスタと師匠の腕を引いて歩き出す。目指すはシャンパージュ伯爵邸、気分転換にも愛しのメイシアで癒されるぞ!!


「アミレス様!」

「連絡も無しにごめんなさい、元気にしてた?」

「はいっ! アミレス様だったらいつ来てもらっても全然大丈夫です」

「流石に、突然来て迷惑だったんじゃあ……」


 伯爵邸に着いて早々、キラキラと輝く可愛い笑顔でメイシアがお出迎えしてくれた。するとその後ろから伯爵邸の執事長の方が現れて、


「お嬢様の仰る通り、アミレス王女殿下が足を運んで下さった際はいつであろうと最上級のもてなしをする準備をしております故、いつでもお越しくださいませ」


 と丁寧に言いながら一礼した。

 どうやら、私はこの家にとても歓迎されているらしい。メイシアの友達かつシャンパー商会の太客だからかしら? なんであろうとありがたい事には変わりないわね。


「ところでアミレス様、その格好は……?」

「変装がてら男装してみてるの。どう? かっこいいだろう?」

「どんなお姿でもアミレス様は世界で一番素敵です」


 私の姿が気になったらしいメイシアが、私の金髪(カツラ)をチラチラと見ていた。

 我ながら上手くいったこの男装を褒めて貰いたくて、私は少し自慢げに男っぽく言ってみた。

 メイシアはそれに頬をぽっと赤くしてはにかんで答えてくれた。

 うーん、百点満点の回答だわ! 流石は私のメイシアね! そうやってメイシアと二人でいちゃいちゃ出来てとても癒されていたその時、


「ほーう、延焼の魔眼か……」


 師匠がメイシアの方を見てボソリと呟いた。

 その言葉にメイシアと執事長が肩を跳ねさせ、緊張した面持ちとなる。

 師匠はメイシアの目が魔眼である事を一目で見抜いた。だがそれは師匠が精霊だからであり、私ですらゲームの知識があるから知っているような事……つまり、普通の人は知らない事なのだ。

 それを突然言い当てたのだから、当人達が驚くのも当然だ。

 執事長が師匠の顔をキツく睨みながら、私に確認してくる。


「──アミレス王女殿下、そちらの方は?」

「あっ、このヒトはですね……」


 なんて答えようかと迷っていると、私の頭にポンっと手を置いて、師匠が私の代わりとばかりに口を開いた。


「俺は知り合いに頼まれて姫さんとマクベスタに剣を教えてる、どこにでもいるような普通の火の精霊さんだ。あんたが持ってるその魔力も、その魔眼も、元を正せば俺のものだったんだ。それなら……一目見て分かってもおかしくはねぇだろ?」


 師匠はサラッと己の正体を明かした。その火の精霊だと言う発言にメイシアと執事長がぽかーんとしている。

 その時、私は事の重大さから非常に焦りを覚えた。


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