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558.Main Story:Ameless3

「カイル! 無事!?」


 絶賛アンヘルと睨み合い中の彼に向けて叫ぶ。


「俺は無事だが、それより君は大丈夫なのか?」

「えぇ。リードさんが助けに来てくれたの」

「あの『ラスボス』が……それは頼もしいな」


 アンヘルに捕まらないように動き回りつつ、カイルの隣に辿り着く。その時アンヘルは、どうしてと言わんばかりに眉を顰めていた。


「ったく……ミカリアを抑えられる人間がいるとか聞いてねぇよ。あの服──ジスガランドの教皇だったか? なんであんなのがこの国にいるのやら……」


 日傘の下、後頭部を掻きながら何度もため息を零す。アンヘルはいつも通り気だるげに、だがどこか鋭い雰囲気を纏いこちらを一瞥した。


「ま、でも……おまえ等二人ぐらいなら、俺一人でもなんとかなるか」


 紅い瞳と目が合う。

 アンヘルは強い。ゲームでは、あのミカリアをしてそう言わしめた程……なのだが。ゲーム内でアンヘルが戦闘したのはほんの数える程度。しかも、そのほとんどが味方の支援や雑魚の相手とかで、彼の本気は私達ですら未知のものなのだ。


「援軍の見込みはあるか?」

「一応、シュヴァルツが近くにいるらしいけど……彼は制約やら契約やらであまり介入出来ないから、時期を見極めるとか」

「なるほど……あまり頼れないんだな」


 黙って首肯すると、カイルも困ったように小さく息を吐く。

 精霊さん達は妖精の相手で忙しく、竜種の面々はもしもの時用に東宮を守護中。だからこそ人間の相手は私達人間がする事になったのだが……作戦変更からの聖人&吸血鬼乱入は流石に誰も予想してなかったと思うなぁ!


「ごちゃごちゃ喋ってんじゃねぇ。今すぐ殺してやってもいいんだぞ」


 アンヘルが不機嫌になってきたところで、更なる悲劇が私達を襲う。


「──カイルじゃないか。こんな所で何を…………」

「──チッ、見たくもない顔を見る羽目になるとは」


 マクベスタとフリードルまでもがこの場に現れた。剣に変な色の血が付着しているので、おそらくは彼等も穢妖精(けがれ)退治をしていたのだろう。

 ……ただでさえ厄介な敵を前に打つ手なしだったのに、ここに来て更に敵が増えてしまった。それも、一騎当千クラスの攻略対象達が。


「……お前、は。っ…………!」

「アミレス・ヘル・フォーロイト──」


 私と目が合うなり、マクベスタは苦悶に顔を歪め、フリードルはこちら見下し蔑んできた。

 その時、刺すような痛みが心臓に生まれ、胸を押さえる。どうやら私は……まだ、彼等の異変を割り切れていないらしい。


「……アミレス。彼等と戦えるか?」

「……分かりきったこと聞かないで。無理よ」

「そうだろうと思った」


 眉尻を下げ、カイルは肩を竦めた。

 益々勝ち目が無くなった絶望的な状況。攻略対象のほとんどがミシェルちゃんに惹かれている今、悪役サブキャラの私が生存出来るルートなんて一つもないだろう。

 だがそれでも、生きることを諦めるつもりはない。だって──……私は死にたくないし、私が死ぬと悲しむ人達がいるから。

 私は、こんなところで死ぬつもりは毛頭ない。


「……──君は、本当に強いな」


 意を決して顔を上げると、カイルが感心したようにぽつりと呟いた。そして彼もまた覚悟を決めたようで、凛とした表情を作っては懐に手を突っ込む。彼がもぞもぞと取り出したのは、見覚えのある拳銃だった。

 銃は銃でも見覚えのない現代兵器の登場に、アンヘルをはじめとした攻略対象達の警戒が強まる。だがここで、カイルは思いがけない行動に出たのだ。


「さて。アミレスが勇気を出したのだから、俺も頑張らないとな」


 そう言いながら、カイルは引鉄に指をかけて銃を構える。だがその銃口が向かうのはアンヘル達のいずれかではなく──、


「なっ……何してるの、カイル?」


 彼自身(・・・)の頭(・・)だった。

 創作物なんかで見る拳銃自殺の姿勢。それを今、目の前でカイルが取っているのだ。


「大丈夫だよ、アミレス。理論上はね」


 強がりだ。カイルは軽く笑うが、その指は僅かに震えている。……怖いのに、一体何故、急にそんなことを? カイルはいったい何を企んでいるの?


「やめてよ、そんな……何で急に──」

「急じゃないんだよ、アミレス。もうずっと、数週間前から考えていた事だ。そりゃあ俺だって怖いけれど……今、ここでやるしかない」


 急展開に頭が混乱しているのか、攻略対象達も固まっている。だが覚悟を決めたカイルは、そんなのお構いなしにと銃口を頭に押し当てた。

 そして、彼は私の親友を思い出させる表情で笑い、その引鉄を引く。


「彼はなんと言っていたか──……そうだ、『諸君、狂いたまえ』だったか」


 パァンッ! と大きな発砲音が響く。

 その瞬間、カイルは糸の切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。


「カイル────────ッ!!!!」


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― 新着の感想 ―
[良い点] えぇ、銃で自分の頭をって、ペル〇ナですか!?笑 これで瑠夏が目覚める的な…だったらいいなぁ。
[良い点] こんばんは、今日も更新ありがとうございます! さて、えーお客様の中に読解力様、読解力様はいらっしゃいませんか。いらっしゃいましたら可及的速やかに画面の向こうの読者のもとまでお越しください…
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