556.Main Story:Ameless
ミシェルちゃんとゆっくり話し合うべく、私達は先んじて攻略対象達を制圧する作戦を始めた。
アルベルトもユーキもシャルも、それぞれ上手くやってくれている。……何やらアルベルトとユーキは、相手を本気で殺そうとしているようにも窺えたが、まさかそんな、ね。
一抹の不安を抱えながらも、私も自分の役割──カイルの制圧に躍り出たのだが。なんと彼は本物のカイルであり、状況把握の為にミシェルちゃんの取り巻きを演じていたというのだ。
本当に、びっくりな話である…………。
♢
突如現れたセインカラッドが向けてくる殺意に、私とカイルはたじろいだ。
何せ心当たりがまったく無いのだ。彼はユーキと同じハーフエルフだから、奇跡力の影響だって受けてない筈なのに……どうしてこうも、理不尽に殺意を向けられなければならないのか。
「……ハミルディーヒ王国の第四王子殿。どうして貴殿が、その女の隣に立っているのですか? その女はハミルディーヒの宿敵たるフォーロイトの第一王女では?」
「サンカル卿、その情報はもう古いと言えるよ。今やハミルディーヒとフォーロイトは友誼を結ぶ仲。俺と彼女は、両国の親善の象徴と言うべき浅からぬ仲なんだ」
妙に誤解を招きそうな言い方だな。と思った傍から、
「……ああそうか。そうやって男を次々と誑し込むんだな。純朴そうに装っておきながら、とんだ毒婦だ」
鼻で笑うセインカラッドが、丁寧にフラグを回収してくれた。
それにしてもハーフエルフさん達はなんでそう、すぐに人を犯罪者呼ばわりするのかしら。私、人を誑かしてなんかいないのに……。
「聞き捨てならないな。その発言はハミルディーヒとフォーロイト、両国へ対する侮辱とも捉えられるが──国教会のいち信徒風情が、随分と大胆な事をしたものだ」
ゲームでも見た怒りの表情。カイルがそんな顔で緊迫感のある声を出すものだから、思わず喉を上下させた。
「庇うのか。──そのような、酷い悪女を」
「勿論。──彼女は、悪女ではないからな」
確かに悪女ではないけれど、悪役の王女であることには変わりないんだよね。カイルだってそれは知ってると思うんだけど……。
攻略対象達が火花を散らして言い争う。しかしその中心にいるのは、ヒロインではなく悪役王女だ。
「──おやおや。穢妖精探しをしていたら、見知った顔をこんなにも見かけるとは」
「聖人様……!」
上空から声が降ってきた。その声に引かれ、空を仰ぎ見たセインカラッドが目を細める。
天使のような純白の翼を羽ばたかせ、陽の光を背負う彼の神々しさたるや。誰もが放心して拝むこと請け合いだ。その隣では、日傘の下で欠伸をするアンヘルの姿もあった。彼もまた蝙蝠のような翼でゆるやかに滞空している。
ああ……最悪だ。絶望の淵とまではいかないが、四面楚歌とはこのことを言うのかと、切に考えてしまう。
「……──無駄だと思うけど、聞いてもいい?」
「残念ながら、あの二人は『記憶を改竄されている』と認識できる程度──つまり、奇跡力の影響を受けているよ」
「…………まだ何も聞いてないわよ」
君の考えはなんとなく分かるんだ。と、数手も先回りして答えたカイルは薄く笑う。
シュヴァルツ達の話どおり、天使の名組は軽い抵抗程度しか出来ないものと見て良さそうだ。
……一縷の望みも断たれてしまったわ。
「部屋を出られるぐらい元気になったのはいい事だが、高貴な方々に喧嘩を売るのは良くないよ、セインカラッド」
「…………」
「セインカラッド・サンカル」
「……っ」
優雅に降り立ったミカリアは麗しの微笑みで静かに圧をかける。人類最強の圧に押されたセインカラッドは、悔しげな表情で、隠し持っていた宝石を懐にしまいこんだ──のだが。
「輝け、無限に続く天への路──……螺旋光線」
彼は諦め悪く、ミカリアの目を盗んで光魔法を使用した。それは光速で私達の周囲に螺旋を描き、目を焼く程の光線を撃ち放とうとする。
「まずい……ッ!」
「セインカラッド!?」
カイルとミカリアが反応するが、間に合わない。そう諦めかけた時。
「アミレスッ! 反射しろ!!」
私の手を握り、ユーキが叫んだ。軽く七十メートルは離れてたのにいつの間にここまで──なんて考える暇はなく。私はとにかく、言われた通りに水を放出して全反射を発動した。
だがそれはいつもの全反射ではなく、水というよりは鏡のような強度を誇っている。まさに紙一重……全反射の障壁は、四方八方から飛来する光線をことごとく反射し、彼方へと飛ばす。
「……──おい。うちの姫に手出すなよ、セイン。僕が監督責任問われたらどうするんだ」
「ッ! ユーキ…………っ、どうして、オマエがその女を──!!」
豹のようになっていた脚を人間のものに戻しつつ、ユーキはセインカラッドを睨んだ。私を庇うように前に立つ彼を見て、セインカラッドは強く歯軋りする。
「アミレス、セインの事は僕に任せて。約四十年ぶりの親友との再会なんだ──水、差さないでくれるよね」
「……分かったわ。ロイは私達の方でなんとかする。貴方は彼をお願い」
「話が早いね。あんたのそういうところ、けっこう好きだよ」
真紅の宝石眼を細め、彼はニヤリと笑う。そして手を振りながら、悠々とセインカラッドに接近した。
「久しぶりだね、セイン。早速で悪いけど──……死か降伏、どっちがいい?」
「……ああ、そうだな。オレはこの数十年、ずっとオマエを取り戻す為に生きてきたんだ。もはや、どんな手段とて厭わない」
赤い瞳と桃色の瞳が鋭く光る。
そして、
「ふーん。じゃあ、決まりだ。──僕に親友殺しの大罪を犯させないでくれよ、セイン」
「オマエにかけられた鎖はオレが全て壊してやる。だからオレと一緒に帰ろう──ユーキ」
二人のハーフエルフは衝突した。




