表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

622/852

551,5.Interlude Story:Elemental

(──五体、か)


 高台から街を見下ろし、美しい長髪を風に靡かせながら、精霊王は鎌首をもたげて短く息を吐く。

 五体。それは、妖精との全面戦争で使える駒──すなわち制約の影響下である人間界にて、全力で(・・・)戦わせる事が可能な精霊の数である。

 質を落とせば数は増やせるだろう。だが、妖精の発動する奇跡を強引に掻い潜って、その身に牙を突き立てる事が出来るのは、神々から与えられた権能を身に宿す最上位精霊ぐらいなものだ。


 それにより、量を捨てて質を選ぶ選択肢しか彼にはなく。

 権能による人間界への影響及び被害を最小限にすべく、精霊王もまた権能の行使が求められる。──よって、五体。

 それが、彼に残された選択だった。


(……いいや、五体じゃないな。一体はボクのもとに残しておくから、実際に動けるのは四体か)


 制約に縛られる彼は、大規模な戦闘行為を禁じられている。自衛程度は可能なのだが──今回は権能を使用する必要がある為、その自衛すらも叶わないのである。


「ちなみに聞くけど。この中でボクの護衛やりたい奴、いる?」


 くるりと振り返り、シルフは選抜した最上位精霊達に問う。あっち向いてホイッ! と騒いでいた彼等は慌てて姿勢を正し、返事を考える。

 四名が真剣に悩む中、ただ一体(ひとり)、凄まじい速さで挙手した男がいた。


「王よ、俺が貴方をお守りします」

「フィンか……でもお前強いからなぁ、可能なら妖精殲滅に回ってほし──」

「俺が貴方をお守りします」

「いや、(おわり)の権能とかこの中で一番妖精に有効なんだから、お前は妖精を──」

「俺が! 王を! お守りします!!」

「今日どうしたのお前!?」


 フィンの頑固な勢いに、シルフは狼狽する。


(王のお役に立ちたい。王の力になりたい。王の剣になりたい。王の──……)

(相変わらず、フィンは表情が読めないな。何考えてるんだ、コイツは……?)


 何度も同一存在として生と死を繰り返しているのに、シルフは知らなかった。──フィンが、実は自分のことが大大大好きだということを!


「フィンさん、最近すげー楽しそうだな……」

「へーかのために働けて、フィンおじさま、毎日活き活きしてるの。元気すぎてきもちわるい」

「…………そう言ってやるな、エレノラ。彼の王愛(ラブ・パワー)は常に異彩を放っているだろう」


 エンヴィーが引き気味にボソリと零す。するとそれに反応するかのようにエレノラが毒を吐き、ゲランディオールがさして効果のないフォローを行う。

 フィンの異常性を知る彼等は慣れた様子でそれを眺めつつ、「まー、我が王の護衛はあのヒトでいいっしょ」「ノラ達がやったら、妖精より先にこっちが殺される」「異議なし」と話を進める。

 そこでエンヴィーは、念の為にと最後の一体にも確認した。


「つーわけでっ、お前も妖精殲滅隊でいいよな? フリザセア」

「ああ」

「……あのさ、もっと話し合いに参加しろよなー。てかもっと喋れ」

「面倒だ。喋るのは」

「マジで、弾丸会話(ハノルメ)美容話(ベルズ)無限世間話(ミュゼリカ)と一緒の部屋に閉じ込めてみてーよ。お前のこと」

「──拷問か?」


 エンヴィーの冗談交じりの言葉に、フリザセアは顔色一つ変えずに軽く返す。だがその目は真剣で、『本当にそれだけはやめろ』と物語っていた。


 フリザセアは他者と関わる事を好まない。基本的には無口無表情であり、氷の最上位精霊であることから、ちょっと怖い冷酷な男として遠巻きにされているし、彼自身もそれを受け入れ有意義な一人時間を享受している。

 ちなみに──フリザセアとエンヴィーは親友(マブダチ)である。彼の希少な友の一体(ひとり)が、最上位精霊屈指のコミュ強、エンヴィーなのだ。


(……姫さんの話によると、フリザセアが笑顔かつ饒舌に喋っていたらしいんだが……やっぱり信じられねーな。いや姫さんの言葉を疑ってる訳じゃなくて、コイツが?! って戸惑っちまうんだよな……)


 アミレスが目覚めてから、フリザセアは彼女と話す機会に恵まれなかった。アミレスは人気者故か引っ張りだこで、おじいちゃんムーブに興じる暇すらなかったのである。

 悲しきかな。エンヴィーをはじめとした精霊達は、フリザセアの初孫フィーバーを誰も信じていないのであった。


「……──ローズニカ様。精霊とは、かくも個性豊かな方々だったのですね」

「えぇ。私も……初めて見た時は本当に驚きましたわ…………」


 精霊達による妖精殲滅隊。それに同行するローズニカと、その護衛モルス。二人は個性豊かな精霊達のやり取りを見て、心のどこかにあった幻想が崩れ去るのを感じたとか、感じなかったとか……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] こんばんは~!最近二話更新多くて凄く嬉しいです!ありがとうございます! さて、もうなんか一気に状況が動き出して忙しないですね。あっちもこっちも気になって、すんごく楽しいです! シャル~…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ