551.Main Story:Ameless
「……──彼女は、妖精に利用されているのでは?」
五分強、皆でしっかりと話し合っていた時のこと。奇跡力の回避の為に目を閉ざし続けるアルベルトの口が開かれ、全員の注目が集まる。
「本当に彼女に悪意がないのなら、彼女は知らぬ間に妖精に奇跡力を譲渡され、計画に利用されているだけの……何も知らない被害者なのかもしれません。だから、穢妖精を倒して人々を守ろうとしている……とか」
「ミシェルちゃんが何も知らない被害者──だと、すれば」
誘拐して、彼女の精神を支配して、奇跡を撤回させて……それで済む話ではない。だって彼女は──奇跡力を使用し、莫大な奇跡を起こしている自覚がないのだから。
あくまでも本人の意思で撤回させなければならないのに、そもそもとして、彼女にその自覚がないかもしれないなんて!?
「クソッ! 早速詰みかよ……!!」
同じ結論に辿り着いたのだろう。ユーキが口の端を歪めた。
「ど、どういうことだ……?」
「俺達の作戦では、彼女を攫い精神支配にて奇跡の撤回を命じ、彼女の意思のもとでそれを撤回させる予定だった。だけど……彼女がもし、何も知らないのなら──『奇跡』そのものを本人が認識出来ないから、それを撤回させる事がほとんど不可能になるんだ」
「な──、なる、ほど…………!?」
アルベルトの説明で理解出来たのだろう。シャルも迫真の表情で慄いている。
例えば……特定の花を摘んでくれと頼んでも、相手がその花を知らなければ、目当ての花を摘むことは当然出来ない。ましてや奇跡だなんて不明瞭なもの、本人にその自覚がなければ、撤回させるのはほぼ不可能だ。
「うーん……それなら、教えてあげたらいいんじゃないか?」
「「「え?」」」
作戦の頓挫に直面し、重くなってきた雰囲気を壊したのは、シャルだった。
「『お前は今、奇跡力という力で望んだ通りの奇跡を起こしているんだぞ』──って。知らないなら、知ればいいだけの話だろう?」
私達三人は絶句した。……完全に、盲点だった。知らないのならば教えてあげればいい。一から十まで説明すればいい。確かにその通りだ! どうしてそんな初歩的なことに気づかなかったんだ、私は!
「〜〜っシャル! 貴方、本当に天才よ!!」
「わっ! ど、どうしたんだ王女様……俺はむしろ、バカだアホだと言われる方が多いんだが……」
「そんなことないわ! 少なくとも、今の貴方は──私達の誰よりも天才だった!! 本当にすごい! えらいっ!!」
「天才……えらい……この俺が…………ふふ、こんな風に褒められたのは、はじめてだ」
勢いのままシャルを抱き締め、ふわりとした頭をわしゃわしゃと撫でてみる。すると彼は子供のようなあどけない笑顔を浮かべた。
「うわー。うちのシャル兄まで誑し込まないでよ、この生き物たらし」
「誑し込む?! そんな、人を犯罪者みたいに言わないでよ!」
「え? 無自覚……?」
ユーキがぎょっと瞬き、呆れたように息を吐く。
その時背後からは──アルベルトのものと思わしき、チクチクと刺さる視線を感じていた。
♢♢♢♢
「それじゃあ俺が先陣を切りますので。後で、絶対に、褒めてください」
「わ、わかったから…………」
目を閉じている為距離感が狂ったアルベルトは、目と鼻の先まで顔を近づけてきては圧をかけてくる。
あの後、私達は臨機応変に作戦を組み立て直し、その結果──ミシェルちゃんと話し合いをすることに決めた。
でもおそらく……奇跡の影響を受けている攻略対象達は、警戒対象になったと思われる私が彼女と話すことを良しとしない。
ならば、前もって攻略対象達を倒してからゆっくりと彼女と話せばいい! ──とまあ、発案者・アルベルト&ユーキの脳筋案が採用されてしまったのだ。
どぷんと影に潜ったアルベルトは、二分程経ってから、勢いよく現世に戻ってきた。彼が建物の影から飛び出す直前、一つの人影が飛び出たことから……アルベルトの読みは確かに当たっていたようだ。
「──こうやって戦うのは初めてだね、サラ」
「……出来れば戦いたくなかったよ、ルティ」
影から弾き出されたのは、白と金の祭服を身に纏う黒髪の男。地面に足を擦らせて勢いを殺し、彼はなんとか、建物にぶつかる直前で制止した。
そして、血の繋がりを感じさせるそっくりの顔が、鏡写しのように向き合った瞬間。──目を閉じる兄は穏やかに笑い、目を見開く弟は唇をきゅっと結んだ。
作戦会議中、アルベルトはミシェルちゃんの近くにサラが潜んでいると確信していた。その為、後の杞憂を取り除くべく、彼が先陣を切ってサラを制圧する事になったのだ。
──そして。
「ッなんだ急に!」
「サラ──!?」
「あいつ、あの時の…………っ!!」
サラとアルベルトの戦いが始まると同時に、私達三人で残りの攻略対象を制圧する!
突然の事に驚愕するミシェルちゃん達の元へ、私達は一斉に駆け出す。ユーキがロイを、私がカイルを、シャルがミシェルちゃんを。シャルには、ミシェルちゃんが彼等の支援に回れないように注意を引いてくれと頼んである。
「っ、邪魔だ! どけ!!」
「年長者への言葉の使い方がなってないね。ガキが──……舐めてると殺すぞ」
ロイとユーキが殺意を撒き散らして対峙する。
「すまないが、俺と少し追いかけっこをしてもらうぞ」
「えっ? 追いかけっこ? って、そもそも誰ですか!?」
「俺はシャルルギルだ。よろしく」
「ど、どうも……?」
シャルとミシェルちゃんが、絶妙な距離感で向かい合う。
「……──久しぶりね、ダーリン。とりあえずぶん殴ってもいいかしら?」
「……──お手柔らかに頼むよ、ハニー」
ミシェルちゃんの元に向かおうとするカイルの真正面に立ち塞がる。
さあ────ヒロイン改心大作戦、開始だ!