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528.Main Story:Ameless2

「何言ってるの!? こんなに酷い顔色で大丈夫な訳ないだろ!」

「シルフ様の仰る通りです! このままでは主君のお身体が……ッ!!」


 ふたりが心配してくれている。

 でも、


「──まだ、心が生きてる。頭が生きてる。私は……まだ、生きてるから。だから、今度こそ最後まで役目を果たさなきゃいけないの」


 立ち止まる(・・・・・)理由がない(・・・・・)

 曜日感覚が狂った訳でもない。時間感覚が失われた訳でもない。思考出来なくなった訳でもない。感情がいなくなった訳でもない。喋り方が分からなくなった訳でもない。手足の動かし方を忘れた訳でもない。

 私はまだ生きている。ならば、私に与えられた役目を果たさなければ。


「私はこの国の王女だから! 私は……っ、民を守りたい!!」


 自身に喝を入れる。たとえこの身が壊れようとも、私は最後まで絶対に諦めない。


「だからお願い! このまま戦わせて!」

「アミィ…………」

「主君──」


 浮き足立った様子の二人がこちらをじっと見つめてきたかと思えば、シルフが思い詰めたような表情で膝を折り目線を合わせてくる。

 そして彼は、躊躇いがちに口火を切った。


「……アミィ。ボクは君のやりたい事を──その一度限りの人生のすべてを応援したい。だからこそ、一つ……ボクの質問に答えてほしいんだ」


 星空の中にあるひし形の瞳孔が、真っ直ぐと私を捉える。


「君は──どうしてそこまで、立場(・・)に執着(・・・)するの(・・・)?」

「………………え?」


 脳天を鈍器で殴られたようだった。ぐるぐると渦巻いていた焦心と不安すらも巻き込んで、頭が真っ白になる。


「そうやって王女だからって言って君が無茶するのを、ボクはこれまで何度も見てきた。正義感が強いからなのかなって、君が極度のお人好しだからなのかなって……ずっと、そう思ってた」


 やめて、それ以上何も言わないで。


「でも、違うよね。君はどうして、与えられた役割を必死に演じ続けているの?」

「────っ!!」


 こんな虚ろな本性を知られたくない。人間の成り損ないであることを知られたくない。


『───■■■。さあ、御役目のお時間です』

『───ありがとうございます! ありがとうございます! ■■■のお陰で私は幸福になれました!』

『───あなたさまの存在一つで、我が一族はこれ程に繁栄したのです。流石は■■■ですわ!』


 こんな、こんな──……人間になろうと必死に足掻く醜い本性を、皆には知られたくない!!


「……何がおかしいの? 世の為人の為にこの身を費やすことの何がおかしいの? だって、それが普通じゃない」

「アミィ、君はもう少し自分の為に生きていいんだ。他人の為にと君が自分を犠牲にする必要は一切ない!」

「私は自分の為に生きてるよ。だからこうして役目(じぶん)の為に必死に頑張って──」

「これのどこが自分の為だって言うんだ!!」


 シルフの突然の大声に、肩が跳ねる。


「当然のように自分を犠牲にして、死ぬ直前まで無茶を繰り返して! 何で君はそれを自分の為の行為だと思うんだ? 誰がどう見ても、君のそれは強迫観念に近い何かから来る自己犠牲だろ!」

「違う、ちがう……っ」

「じゃあ君の言う自分の為の行為ってなんなの? 君が自分の為に生きてる証拠はどこにあるの?」


 喉が塞がれたように苦しくて、何度も口をパクパクと動かした。

 誰にも見られたくない汚泥が心の奥底から溢れかえる。忘れていた醜い私が、ゆっくりと這い上がってくるのだ。


「……──私も、普通の人間になりたかった。だから必死に役割を演じてきた。私は私の為に必死に自分の存在価値を示してきたの。だってそうすることでしか、私はちゃんとした人に成れないから」


 役目を果たせない私に価値はない。だから、全てを忘れていても人一倍たくさん努力してきた。

 私は自身が一人前の人間になれるよう────ずっと……自分の為にと(・・・・・・)他人の為に(・・・・・)生きてきた(・・・・・)

 誰かの役に立つこと。誰かの助けとなること。誰かの導きとなること。誰かの癒しとなること。それこそが最も手っ取り早い存在証明になると思って。

 …………ううん、違うな。──私は、この生き方しか知らないんだ。


「私は……自分が一人の人間であり続ける為に『王女』という立場に縋ってる。『アミレス・ヘル・フォーロイト』という役割を全うする事こそが、私が自分の為に生きている証左なの」

「どういう意味──……」


 知られたくなかった。見られたくなかった。こんな私、きっと嫌われちゃうから。

 ごめんね、アミレス。せっかく皆と仲良くなれたのに。皆と楽しく過ごせていたのに。……私の演技、下手くそだったんだろうな。だから、前世でも結局……。

 ──あーあ。また、しくじっちゃったなぁ。


「ごめん、シルフ。私、先に行くね」

「っ……!? 待って、アミィ!!」

「主君!」


 自身を水に溶かし、その場から離脱する。

 誰かと一緒にいると辛くなる。本当の私は皆と一緒にいる資格なんてない人の成り損ないなのだと、現実を突きつけられるのだ。その事実に醜い自分が余計惨めに思えて……涙が、溢れそうになる。


 ……でも、そんなことをしている暇はない。

 私には『アミレス・ヘル・フォーロイト』として『王女』らしく、民を守り救う義務がある。それこそが私の役目。私の存在意義そのもの。


「……だからどうか、証明させて。私だって、人として生きていてもいいんだって」


 アマテラスを抜刀する。

 どうか、私に力を貸して下さい。──神様。

 地面を強く蹴り、穢妖精(けがれ)へと特攻する。それと同時に強い酸性雨を降らせ、隙をついて太陽顕現で穢妖精(けがれ)を消滅させる。

 手間はかかるが、魔力消費を抑えられる。これならば、一人でもある程度は役目を果たせるだろう。


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