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501.Main Story:Ameless2

 そう。なんとクラリスはつい先週、待望の第一子を出産した。

 記念すべき子供はディリアスという名前の女の子で、バドールの茶髪とクラリスの桃色の瞳を受け継いだ可愛らしい赤ちゃんだ。

 私兵団の面々からいたく可愛がられているらしく、先日仕事の合間に様子を見に来た時に『俺達は娘を叱れそうにない……わがままな子に育ってしまったらどうしよう』と、バドールから早くもお悩み相談されてしまったぐらいだ。


 そしてどうやら、そんな生後間もないディリアスをメアリーに預けてクラリスは飛び出してしまったらしい。

 いくらなんでもアクティブすぎる。

 責任感が強いのはクラリスのいいところだけど……こんな事なら強引に育休取得させておけばよかった……ッ!


「それで、メアリーがディリアスのお守りで残ってるって訳ね?」

「うん。そしたらさっき、ジェジ兄が『ちょっとやばいかもーーっ!』って言う為だけに帰ってきて、また飛んでいったの」

「だから私に救援要請したんだ」

「ごめんね……すっごいお洒落してるんだから、姫はきっとこれから大事な用事があったんだよね。デートとか。アタシ達が弱いせいで……ごめん……」


 メアリーが子犬のようにしゅんと項垂れた。


「デートではないけど……予定があったのは事実よ。でもね、メアリー」


 そんな彼女の手を取って、柔らかく微笑みかける。


「私の個人的な予定よりも貴女達を優先するに決まってるじゃない。私は皆の上司なんだから、何かあったらどこへだってすぐに駆けつけるわ」

「うぅ……姫ぇ〜〜っ! すき〜〜〜〜!!」

「私も皆の事が好きよ」


 涙目で抱き着いてきたメアリーを受け止め、「こわかったよぉ……っ」と鼻をすする彼女の頭を、頑張ったね。と撫でてあげる。

 正直、こんな事をしてる場合ではないと思うんだけど、メアリーもこんな状況で一人で留守番と子守りをする事になり、心寂しかったのだろう。


 だから少しでも甘えさせてあげよう。今は眠ってくれているようだが、私兵団ではほぼ末っ子の彼女が生後間もない赤ちゃんの面倒を一人で見るのだって、だいぶ負担だった筈。

 得体の知れない敵が近くにいるという恐怖から張り詰めていた緊張の糸が、私の登場で解れたのだろう。

 そもそも……ここにもし敵が現れれば、メアリーただ一人でディリアスを守らなくてはならない。それは──まだ十八歳の彼女が背負うには、あまりにも大きくて重たい責任だ。


「メアリー。もう大丈夫よ、私達が来たんだから」

「ぐすっ……うん。姫がいるなら、きっとなんとかなるよね」


 赤い目をこすりながらメアリーはふにゃりと破顔した。


「……シュヴァルツ。今すぐクラリスとバドールを連れ戻してきてくれる? まだ本調子じゃないであろうクラリスを得体の知れない魔物と戦わせる訳にはいかないし、このままメアリーを一人にはしておけないから」

「りょーかーい」


 気だるげな瞳を伏せ、シュヴァルツは姿を消した。

 その後はイリオーデと二人でメアリーに何度も大丈夫だよと伝え、異変を察知したのか目を覚まし泣き声をあげるディリアスを必死にあやしたりもした。

 これに関してはイリオーデがかなりのやり手で、私とメアリーでは全然駄目だった(なんなら私が触ろうとするとギャン泣きされた。つらい……)のに、イリオーデはあっという間にディリアスを寝かしつけてみせたのだ。

 それを見た私とメアリーがすごいすごい! と小声で絶賛すると、


「……王女殿下がたまに泣かれていた際にも、私がこうして寝かしつけをさせていただいておりましたので……その経験が生きているようです」


 照れた様子で彼はぽつりと零した。

 そういえばイリオーデってアミレスが二歳になるぐらいまで東宮にいたんだっけ。赤ちゃんの頃のアミレスの世話を住み込みでしていたとか……。


「イリオーデ。非常時にこんな事を聞くのもどうかと思うけど、一ついい?」

「なんなりと」

「──世話してたなら、私の体、見たんじゃないの?」


 排泄に関わる世話とか、着替えとか。

 怒っているわけじゃないよ。ただ、ちょっと恥ずかしいだけで。

 だがこの質問は、忠誠心が強いイリオーデにクリティカルヒットしたらしく……彼は目を点にして石のように固まってしまった。


「〜〜〜〜っいいえ! けけッ、決してそのような事は!! 王女殿下の湯浴みもその他身体に関わる世話は全てクレア様がしておりましたので! 私はそのような無体は働いておりませんッ!!」

「そうなの? ならいいけど……」

「はいっ! 誓ってそのような事は!!」


 ここまで焦るイリオーデなんて初めて見たかもしれない。顔を赤く、青く、白く、様々な色に変えながら、彼は舌の根も乾かぬうちに弁明する。

 ところで──……クレア? って、なんかどこかで聞いた事があるような……。

 そう、確か、はじめて城の外に出た日に──。


「……いやいや。まさかそんな」


 きっと同じ名前ってだけの別人だろう。クレアなんて、この辺りの国ではそんなに珍しくない名前だ。

 そんな奇跡みたいな偶然がある筈がない。


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