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496,5.Interlude Story:Others

(……──ミシェル・ローゼラ。アミレスやカイル王子のように何も視えない人間…………もう少し探る必要がありそうだな)


 親善使節を乗せ、雪花宮行きの馬車が走り出した後のこと。

 ケイリオルは神々の愛し子(ミシェル・ローゼラ)を要注意人物と捉え、行動する。


ファースト(・・・・・)、いますか」

「──はいよ。あんたからの呼び出しなんて珍しいじゃないか。しかも本名でだなんて照れちまうよ」

「実は野暮用がありまして。確か()は神殿都市での潜入任務から帰都していましたよね。引き続き、帝都でも神々の愛し子の監視任務につかせなさい」

「久々の休暇を与えたばかりなんだが……若いからって酷使しすぎだぜ、旦那」


 音もなく現れた諜報部部署長偽名(コードネーム)ヌル──もといファーストは、第二次性徴期の少年のような姿で肩を竦めた。


帝国(ウチ)の役人になってまともに休暇があると考える方が間違いでは?」

「極悪な国だなおい。そんなんだからダルステンくんに嫁が出来ないんだぞぅ」

「それは彼が選り好みしているからですよ。──さて、冗談はこの辺りで……彼には後で今回のぶんもまとめて休暇を取らせればいいでしょう。とにかく、この親善交流の期間中にあの少女を調べ上げなくては」


 この場にいない司法部部署長ダルステンが、『休暇を寄越せ!! あと僕は選り好みなんてしていない!!』と叫ぶ幻聴が聞こえるようだ。


「ほぅ? 旦那がそこまでするってことは、あの嬢ちゃんにはまだ何かあるのか」

「そうですね。どうも嫌な予感がするのです」

「……あんたのそれはよく当たるからな。分かった、あいつには悪いが休暇を返上してもらおう。旦那の命令とあらば、俺に拒否権なんてないさ」

「後は任せましたよ、ファースト。個人的な(・・・・)頼み(・・)なので、どうか内密に」


 踵を返して王城へと戻るケイリオルの背中に向け、ファーストは恭しく背を曲げた。

 そして彼は満足気に笑う。


「御意のままに──我が双星(マイ・ロード)


 そしてファーストは変の魔力で自身の姿を変え、鳥となり空を羽ばたく。

 向かう先は帝都西部地区。その中でも特に目立つ時計台に、彼のお目当てはいた。


「この気配……もしかしてボス?」


 頭上で羽ばたく鳥を見上げ、黒髪の青年は灰色の瞳を丸くする。

 その鳥が背後で音もなく人に姿を変えたのだが、青年は動じることなく振り向き、少年のような上司を見つめる。


「よお、サラ。こんな所で道草食って……仲間に会いに行くんじゃなかったのか?」

「そのつもりだったんですけど、あれからもう何年も経ってるから忘れられてるかも、って思って」

「それで踏ん切りがつかなかったって訳か」

「……その通りです」


 顔を半分覆う前髪を触りながら、サラは煮え切らない態度で喋る。その顔には彼らしくない不安がありありと浮かんでいた。


諜報部(ウチ)の若きエースがそんなしょうもない事で…………まあ都合がいいか。朗報だ、悩める青少年」

「朗報?」


 サラは言葉を繰り返した。


「極秘の仕事だ。引き続き加護属性(ギフト)所持者を監視しろとの命令が下りた」

「……──了解。任務受諾致しました」


 仕事と命令という言葉を聞いた瞬間、サラの顔から表情が抜け落ちる。彼の中に死神が舞い降りたかのように、纏う空気がガラリと変わる。

 先程、不安からもじもじとしていた男とは思えない変貌っぷり。それを直に見たファーストはサラの肩に手を置き、


「まあそう肩肘張らんでいいさ。陛下の勅命は解除されたが──……帝都滞在中の対象を今まで通り監視し、報告を続けてくれればいい。それが終われば今度こそ長期休暇を取らせてやる」


 彼の顔を見上げて軽薄な笑みを浮かべた。

 それを受けサラも少し肩の力を抜いたようで、


「……分かりました。程々に力を抜いて、引き続き監視任務にあたります」

「おう。いい感じに頑張りたまえ」


 柔らかな表情で軽く頷き、影の中にどぷんと落ちる。

 どうやら早速任務に向かったらしい。


「…………はぁ。それじゃあ俺も働くか」


 若者が休暇を返上してまで働き通しだというのに、いい歳した大人が何もせずにいられるか。

 諜報部部署長偽名(コードネーム)ヌルとして。彼もまた、動き出すのであった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] こんばんは~!1日に2話も更新ありがとうございます! さて、 うふふふふふふ~!ニタニタが止まりません!美味しすぎます! 愛する人への愛をねじ曲げられそうになって、抗い苦しむイケメンっ…
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