485.バイオレンスクイーン8
避難場所はメイシアに任せ、人の波に逆らい幕舎へと戻る。
レオとローズにも折を見て避難するよう伝え、森から出て来た参加者達にも緊急事態だと説明をする。そうやって、半数近い参加者達の避難を終えた頃。
流石にこれだけ大胆に動いていれば、あちらさんも黙ってはいない。
ついに、テロリスト達が姿を見せたのだ。
「────氷結の聖女ォッッ! なんでテメェが普通に歩き回ってやがる!!」
私を地下室まで運んだテロリストのリーダーが、怒り心頭の様子で森から飛び出してきた。
「仲間を殺ったのもテメェだろ! 絶ッ対に許さねぇ……ッ!!」
どうやらあの男は地下室帰りらしい。
その足で私を探していたようで、男は私を見つけるなり血走った目でこちらを強く睨んできた。
「あんた達が杜撰な計画に私を巻き込んだから、あんたの仲間は死んだのよ。今考えても本当に穴だらけの計画で笑っちゃうわ!」
私が喧嘩腰で返事したところ、男は火が出そうな程に顔を真っ赤にしてプルプルと体を震えさせ、男の取り巻き──もとい仲間と思しき男達もまた、怒りを抑えられない様子で顔を歪ませる。
さてどうしたものかと考えあぐねていると、シュヴァルツがこっそりと耳打ちしてきた。
「魔導兵器と地中の魔法陣摘出の算段がついたぞ。発動まで少しばかり時間が必要だが、どうする?」
暫くシルフとああだこうだと言い合っていたようなのだが、なんと二体は無理難題への回答を用意できたというのだ。
これには思わず気が昂り、自然と表情が明るくなってしまいそうだったのだが──……それをテロリストに悟られないよう、平静を装い軽く頷いた。
「時間は私達が稼ぐから、思いっきりやっちゃって」
横目でシュヴァルツを見上げ、小声で呟く。
すると彼はニヤリと笑い、「りょーかい」と言ってシルフの元へと向かった。
「足引っ張んなよ、精霊の」
「その言葉、そっくりそのまま返すよ」
二体は並んで立ち、魔法発動までの準備に入った。
それと同時に、テロリストは目を点にして慌てた様子を見せる。
「っリーダー! なんかアイツ等、魔法使おうとしてますよ!!」
「避難までされて……これじゃあ計画が……!」
「クソッ! 無情の皇帝もおびき出せていないのに!!」
「とにかくあの魔導師共を止めるぞ! ──本能が言ってやがる。あれは、発動させたら駄目だ!!」
中々に勘が鋭い。
魔法の準備の為身動きが取れなくなったシルフとシュヴァルツに、テロリストの意識が向いてしまった。
農民兼地方兵だったか……普通の兵士よりも鍛えているらしく、想像以上の速さでテロリストはシルフとシュヴァルツに迫る。
さて。ならば私は、宣言通り時間稼ぎをしよう。
「ルティ、狩りは得意かしら?」
「はい。ご期待に応えてご覧にいれましょう」
名前を呼ぶやいなや忍者のように現れたアルベルトに、私は時間稼ぎの為の狩りを命じる。
「あいつ等全員、生け捕りにするわよ」
「御意のままに──我が主君」
黒い燕尾服を風に靡かせ、その番犬は駆け出した。
颯爽とテロリストの前に立ちはだかり、アルベルトは影から取り出した槍を構える。只者ではないオーラを纏う執事を前にテロリストは脂汗を滲ませ立ち止まった。
しかし、
「何してやがる! そんな男一人さっさと潰せ!!」
とリーダーが腹を絞って声を出す。するとテロリストは気を持ち直して連携の取れた動きに出た。
どうやら元兵士という事もあり、集団戦の心得があるらしい。
流石のアルベルトでも、これは苦戦を強いられるやもしれない。──その事実がどちらだとしても、私も戦えばいいだけの事だが。
なので白夜を抜き、私もアルベルトと共に戦闘態勢に入る。
「氷結の聖女を狙え! 今ここで殺せば軌道修正出来る!!」
「「「「おうッ!」」」」
狙いは私に変わったらしい。
相手を殺してはならない戦いって苦手なんだけど……やるしかないか。
「すべては、我が民の安全の為に」
雄叫びを上げながら攻撃してくる男達。それをアルベルトと共に対応する。
剣で、魔法で、時には武術で。
あの手この手で私を殺そうとしてくるも、その全てがアルベルトによって阻止される。勿論、私自身死なないように立ち回っているから、彼にばかり負担をかけている訳ではないと、自己弁護しておく。
「死ね! 怪物の娘────────ッ!!」
突如、モーセに割られた海のように開ける人集り。
その直線上──我が視線の先で煌めくは砲口。
小型ではあるものの、それは一目見て魔導兵器と分かるものであった。
蓄えられた魔力を収束し、超火力で放つ。そういった魔導兵器があると、以前カイルが言っていたが……まさかここでお目にかかるとは!
あんな切り札を隠し持っていたなんて、食えない奴ね。直情的で単純だったとしても、一応はリベロリア王国の人間という事かしら。
「主君!」
魔導兵器による砲撃に気づいたアルベルトが、いつぞやの戦いでも見た影の壁を出現させた。
だが、咄嗟の事だったからかその壁が形成されるよりも早く、砲撃は放たれようとする。
────問題ない。
小さく口角を釣り上げる。
何故ならあの魔導具オタクがあれこれと語る際、魔導具や魔導兵器の強制停止方法をも力説していたから。
つもるところ……私は知っているのだ。
この状況の、打開策を。
「絶対零度!!」
カイル曰く。
魔導兵器は心臓となる魔石を必要とし、動力となる魔力が必要である。
つまり──心臓さえ破壊してしまえば、魔導兵器は死ぬ。
ただそれだけの事。だがしかし、これは一撃で、刹那のうちに魔石を破壊出来る能力を持つ事が前提とされている。
そりゃあ、製作者だってそれなりの破壊対策をしている。ちょっとでも失敗すればその場でドカン!! ……みたいな、ありきたりなシステムを組んでいる場合もままあるらしい。
だから、カイルはこうも言っていた。
『──心臓を潰す自信がなけりゃ、心臓を止めればいい。な、簡単だろ?』
それのどこが簡単なのか、再三問いただしたいところではあるが……この雑談があったからこそ、私は絶対零度という手段を選べた。
魔導兵器に水を纏わせてその温度を変えただけなのだが、この状況においては最善手とも言えよう。
カイルには本当に頭が上がらない。……本人に言ったら調子に乗るから絶対直接には言わないけど。
砲撃を放つような魔導兵器の魔石の事だ。きっと、かなりの熱を宿していることだろう。
ならば、それを急激に冷やせばどうなるか。
答えは簡単──……
「なんで発動しな────ッ!?」
あっという間にひび割れて壊れる!!
パキンッ! と甲高い音が聞こえたかと思えば、一拍置いて魔導兵器は爆発した。
あれ程の魔力が放たれる寸前で行き場を失ったのだ。当然、爆発の一つや二つは起きてしまうだろう。