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400.国際交流舞踏会2

「……──帝国が太陽、氷城(ひょうじょう)が主、エリドル・ヘル・フォーロイト皇帝陛下及び、新たなる太陽、雪原の次期主、フリードル・ヘル・フォーロイト皇太子殿下……そして若き光、冬を告げる者、アミレス・ヘル・フォーロイト王女殿下のご入場です!!」


 そんな中、ついに入場を告げる言葉が会場に響く。これには盛り上がっていた会場も一度静まり返り、誰もが会場奥側の二階を見上げていた。

 いくつ歳を重ねても老いる事を知らないエリドルと、彼そっくりなフリードルを見てその美形っぷりに会場の女性達は思わず熱い息を吐く。

 それと同時に、何故かヴェールを被って入場したアミレスに事情を知らぬ者達は首を傾げ、いらぬ憶測を飛び交わす。


「聞け、各国の代表者達よ。此度は世界各地で雪景色も深まる中、我が帝国のような生粋の雪国まで良くぞ足を運んだ。フォーロイト帝国ならではのやり方で、貴殿等をもてなそう──……エリドル・ヘル・フォーロイトの名において、ここに国際交流舞踏会の開会を宣言する」


 淡々と、されど演説かのようにエリドルは舞踏会の開幕を告げた。

 さっさと終わらせて退場したい──。

 その一心で、招待客達との交流の為にエリドルとフリードルが先陣を切って階段を降りて行き、アミレスもその後を追う。

 後ろからひょっこり現れたケイリオルが、ヴェールで少し視界の悪い彼女をエスコートしようと手を差し出す。

 その厚意に甘え、ケイリオルと共にゆっくりと階段を降りたアミレスに簡単に近寄れる者は……ほとんどいなかった。


 それには二つの理由があった。

 まず一つ、アミレスが何故かヴェールを被り顔を隠していたから。

 そしてもう一つ、どちらかと言えばこちらの方が声をかけづらい要因の大半を占めているのだが……アミレスの隣に、皇帝の側近(ケイリオル)がいたから。

 だから誰も、軽率に近寄れなかった。チラチラと視線は送っているものの、ケイリオルの発するこっち来んなオーラにあっさりと跳ね返される。


 ケイリオルは考えた。このように顔を隠すような羽目になってしまったのだから、彼女の交流はせめてヴェールを脱いでから……と。

 どうせ、エリドルは主要な招待客達とある程度言葉を交わせば会場からいなくなる。ここで無理に全員と話さずとも、この国際交流舞踏会開催期間中にいくらでも交流する機会はあるのだから。

 なのでエリドルが会場からいなくなったらアミレスのヴェールを取り、好きなだけ交流させてあげよう。そう、彼は画策してこのように番犬を務めているのだ。

 だがそんな計画を全く知らないアミレスは、何故かずっと傍にいるケイリオルを不思議に思ったようで。


「ケイリオル卿、ずっと私の傍にいても大丈夫なのですか?」

「勿論大丈夫ですよ。彼等からも頼まれてますし、まだ暫くは王女殿下の傍に置いて下さると幸いです」


 彼等? とアミレスが疑問符を浮かべると、ケイリオルは上品に笑った。


「ふふっ、彼等は本当に王女殿下思いですよね。ランディグランジュ侯爵に頼み込まれて会場内の警備に回っているイリオーデ卿といい、どうしても会場に入りたいからと給仕の助っ人になったルティといい……自分が傍にいられない分、可能な限り(わたし)に王女殿下をお守りするよう頼んできましたからね」

「それは……うちの子達がたいへんご迷惑を……」

「いえいえ。元より(わたし)もこうして王女殿下のお傍にいようと思ってましたので、いい口実が出来て幸運でした」


 そうやって穏やかに時は過ぎる。

 程なくして、人と話す事に飽きたエリドルが早々に会場を後にした。それにより、ようやくアミレスはヴェールを取れるようになった。

 すると、宣言通りさっさと退場したエリドルを見て、ケイリオルは小さく呆れの息を吐き出して。


「陛下にはもう少し会場にいて欲しかったのですが、彼女がいない中あれ程会場に滞在していただけでも成長したと思うべきなのか……」

「ふふ。ケイリオル卿は相変わらずですね。では、そろそろヴェールを外してもよろしいでしょうか?」

「はい、構いませんよ。ご不便をおかけしてしまい申し訳ございません」

「こうして私も皇族の一人として表舞台に立たせていただけるのですから、これぐらいやって当然の事ですよ」


 当然、と……その言葉がアミレスの口から飛び出したからか、ケイリオルは思わず固まってしまった。


(…………彼女にこんな言葉を言わせてしまったのは、他ならない(わたし)達なのに。どうして(わたし)は、被害者かのように傷ついているんだ。全部、全部……何も出来なかった(わたし)の所為なのに───)


 煌びやかなシャンデリアに照らされ、ケイリオルに射す影がより濃くなる。

 成長し、変化していくアミレスを見る度に彼は数少ない後悔から何度も古傷を抉り自身を追い詰めていく。

 彼がマクベスタの精神状況を知って最善策で対応出来た理由は、自身もまた似たような覚えがあったからだった。


「あ……目眩が……」

「王女殿下!」


 目眩と呟きふらりと揺れたアミレスの体を、ケイリオルは慌てて受け止めて支えた。

 何度か「大丈夫ですか王女殿下!?」と声をかけていると、アミレスは「───ん、大丈夫……です」と小さく答えながらふらふらと体を起こしたので、ケイリオルは心底ほっとしたように胸を撫で下ろした。


「えっと……もう、これ外してもいいんですよね?」

「そんな事より、体調の方は大丈夫ですか? 具合が悪いのなら本日はもうお帰りになられても…………」

「全然元気ですよ。ご心配をおかけしてしまいましたね」


 なんでもないように明るく話すアミレスに、ケイリオルは違和感を覚えた。

 何かは分からないが、今日の彼女は何かが違う。そんな漠然とした違和感の答えが分からないまま、彼は外交の為にアミレスの傍を離れる事に。

 荷物になるだろうから、と言ってアミレスからヴェールを受け取り、軽く一礼してケイリオルは仕事に向かったのだ。

 ヴェールを脱いだアミレスの姿に、会場の男性達──いや、女性達すらも目を奪われていた。まだ十四歳の少女とは思えぬ女性的な体つきに、亡き皇后と瓜二つの可憐で美麗な容姿。

 このような会場で一人になったにも関わらず、堂々としたその立ち姿に……誰も、目を逸らせなかった。


「あれが帝国唯一の王女……噂に聞く美しさは誠だったのだな……」

「是非とも我が息子の妃に──いや、余の側室に!」

「あんなにも可憐な容姿だというのに、何故顔を隠す必要が……?」


 大人数が寄って集ってじろじろと不躾に少女を観察しては、思い思いに騒ぎ出す。

 そんな中で一人の少年が人集りを抜けて彼女の元に向かった。

 祖国の紋様があしらわれたマントを羽織り、いつもと違い髪を下ろした状態でセットした少年を見て、アミレスはこの舞踏会が始まってからはじめて(・・・・)表情を明るくした。


なんとこれで400話です。

いつもお読みくださり、まことにありがとうございます。

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