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353.冷酷なる血筋2

 そんな保管庫に迷わず入り、一年前にミカリアから貰った魔導兵器(アーティファクト)の箱を取り出す。

 ミカリアからの手紙には、この魔導兵器(アーティファクト)の能力は小規模な重力操作と書いてあったが……カイル曰くこれは相当精巧に作られたものらしく、魔力を込めれば込める程効果や威力を増すものだと。

 ならば、私達の魔力をぐわーっと込めてこの魔導兵器(アーティファクト)を使用すれば宮殿の一つや二つ、持ち上げて移動させる事だって出来るだろう。

 例えば……この魔導兵器(アーティファクト)で宮殿を持ち上げて、風とか水圧とかで動かすとか。実際に動かす方法は後で考えるとして、宮殿を持ち上げる事が出来ればフリードルとて文句はなかろうよ。


「……──と、いう感じで。この魔導兵器(アーティファクト)で宮殿移動を実現させようと思うのだけど、二人はどう思う? やっぱり無謀かしら」


 保管庫から出て、歩きながら私の考えを伝える。するとイリオーデとアルベルトは二人揃ってうーん……と唸っていて。


「王女殿下の魔力量については我々もよく知るところではございますが、宮殿を一つ持ち上げ移動させるのは流石に難しいかと愚考します。我々の魔力をも使用したところで、やはり雪花宮のような大きな宮殿の移動なんてものは……難航を極めるでしょう」


 イリオーデが真剣に意見を述べてくれた。その意見にまあそうよね。と考えさせられていると、


「確か、国中の魔導師が招集されるんでしたよね。純粋な魔力量という点においては充分に集まるかと思いますが、やはり宮殿の移動手段が問題点ですね。何か良い解決方法はないのでしょうか」


 アルベルトも同じ様に意見を口にした。

 三人で頭を抱えつつ、とりあえずこの魔導兵器(アーティファクト)を持って王城にあるフリードルの執務室に向かった。こんな所来たくなかったのだけど、我がオニーサマは皇太子でそれはもうお忙しい方だからね。なのでこうして、私から出向いてやらねばならないのだ。

 そして、フリードルの執務室のある階層に辿り着くと、私は思わず自分の目を疑った。


「……ここはティーパーティーの会場か何かなの?」


 階段を登ってすぐの広間に何故か集まる令嬢達に眉を顰めつつ、げんなりしながらボソリと呟くと、


「皇太子妃選定が失敗に終わりまだ誰もその座についていない事をいい事に、各家門の年頃の令嬢は皇太子殿下の目に留まろうと、こぞってこのように王城に来てはアピール合戦を繰り広げているようです」


 アルベルトが耳打ちして補足してくれた。

 ああ、そういう事……と遠い目で目前の光景を眺める。確かに、誰も彼もかなり気合いの入った格好だし、笑顔だがかなりピリピリしている。

 ここを通らないとあいつの所にいけないのかあ……めんどくさいなあ。

 深くため息を吐いた時。令嬢達が私達に気づいてしまった。その目は猛禽類かのような鋭さで、とても、ギラギラしていた。

 その視線の先にはイリオーデとアルベルトが。


 私が仕事の度に二人を連れ回しているからか、イリオーデとアルベルトの知名度はそこそこのものになりつつある。

 帝国の四大侯爵家ランディグランジュ出身という事で出自も確かであり、若くして帝国騎士団団長クラスの実力と神童と呼ばれた過去を持つ美丈夫の騎士、イリオーデ。

 個人情報が一切不明のミステリアスな有能完璧執事(パーフェクトバトラー)であり、氷結の聖女自ら見出した程の逸材と言われているらしい色白の美男子、アルベルト。

 そりゃあ、まあ、有名になるわよね。凄いでしょうちの子達! と当初はドヤ顔で二人を連れ回していたのだが、近頃はもう面倒で面倒で。

 何が面倒って? そりゃあ勿論──、


「ランディグランジュ卿! 今日も大変お美しいですわ!」

「執事さま、今日こそは是非良いお返事を!!」

「ちょっとあなた退いてくださる!?」

「アナタこそ押さないでくださいましっ!」


 これだよ。

 醜いな、煩いな。今日も今日とてうちの子達に群がる女の子達が喚いているわ。

 これを完璧にアウトオブ眼中出来る二人の能力が本当に羨ましいわ。私にはまだそこまでの能力がないから、これを無視する事が出来ない。

 というか、仮にも帝国貴族ならお飾りの王女でも敬意を払う素振りぐらい見せなさいよ。何で貴女達までアウトオブ眼中スキル持ってるのよ、羨ましい。


「はぁ。二人共、相手はご令嬢よ。その手を止めなさい」

「……はっ」

「……仰せのままに」


 令嬢達が私を無視して二人に群がるものだから、主至上主義過激派の本人達はこれが鼻についたようで。イリオーデは腰の愛剣に手をかけ、アルベルトはいつでも袖から短剣を取り出せるよう微かに構えていた。

 背後での出来事だったが、気配で何となくそれを察知したので二人を制止する。少し不服そうな声音で、彼等は武器にかけた手を下ろした。

 このやり取りを不審に思った令嬢達が、邪魔するなよとばかりにギロリと視線を向けて来る。それに私は、仕方無く笑顔で応対した。


「ごきげんよう、皆様。せっかくお会い出来たのに誰も挨拶してくださらなくて……(わたくし)、とても悲しいですわ」


 我が演技力が迫真の傷ついた表情を作り出す。

 社交界のマナーでは、目上の者に声をかけてはならない事になっているものの、ここは正式な社交界ではない。ただの日常生活においては、目上の者に対して礼儀を尽くす事が普通に常識なのである。

 それなのに、彼女達は私を無視して二人に群がった。つまり彼女達はかなり非常識な行動を取ったのだ。それに気づいた令嬢達は慌てて腰を曲げ、「ご、ご機嫌麗しゅうございます、王女殿下」と適当な挨拶を述べてくれた。

 挨拶云々については多目に見てやろう。その代わり、さっさと退いて欲しい。そう言った旨の言葉を告げようとしたのだが、


「王女殿下は相変わらずいいご身分ですわね。そうやって見目の麗しい男性を侍らせ、まだ良い縁の無い私達に見せつけてさぞ気分がいい事でしょう。噂ですとマクベスタ・オセロマイト王子ともたいへん仲がよろしいとか? 氷結の聖女と呼ばれる程の御方が、なんとはしたないのでしょう」


 ここで思いもよらぬ事態に発展した。

 いかにも悪役令嬢って感じのボス令嬢が、取り巻きっぽいのを従えて私の前に歩み寄って来た。彼女達はボス令嬢の言葉にクスクスと笑って同調し、この私を真正面から馬鹿にしているらしい。

 何これ面白い〜! こんな勇気ある人今までいなかったから超新鮮だわ! 今までずっと社交界ではこんな風に言われてたんだろうなあ、陰口しか叩けない連中の中にもこんな子がいたなんて。

 そんな風に私はこれを楽しもうとしていたのだが、後ろの二人が怖い。ステイ、番犬達よ、ステイ。


「あら、何も言い返せないのですか? 聖女だのと持て囃され、シャンパージュの魔女を従えていい気になっているようですけれど、やっぱり貴女自身は何も出来ないのですね。ああ、シャンパージュの魔女と言えば……御二方とも母親殺しの化け物同士で、とてもお似合いと思いますわ」


 令嬢達がキャハハハ! と笑う。

 楽しもうと思っていたのだが、ところがどっこい。こんなにも早く、ぷつんと何かが私の中で切れたような気がした。

 イリオーデもアルベルトも、私が貶されたからか今度こそ本気で剣を抜こうとしていた。だけど、私はそれを制止する余裕が無かった。


「──イリオーデ、ルティ。お願い、私を止めて(・・・・・)


 震える声で呟くと、二人は困惑しながらも行動に出た。


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