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347.ある転生者の追憶2

「……──お前等っていつもそうだよな。被害者ぶれば何でも何とかなるとでも思ってんの? 世の中舐めすぎだろ。泣いて許されるのは赤ん坊までなんだよ。勘違いすんなクソが」


 プツンと俺の中で何かが切れた音がした。それと同時に、思い出された嫌悪が堰を切ったように溢れ出す。


「えっ? か、カイルさま……?」

「勝手に勘違いして思い込んで、その結果自分の思い通りの結果にならなかったら『こっちの気持ちも考えてよ!』とか『騙したの!?』って騒いでさぁ……俺がいつ、どこでお前等の相手をするって言った? お前等に興味あるって言った? 言ってねぇよな? 俺は当然の主張をしたまでなのに、何で俺が責められないといけないんだ?」


 霧のかかった記憶の森が徐々に晴れてゆく。

 思い出されるのは、群れてギャーギャーと騒ぐ女共の耳障りな声。

 告白について真剣に考えろと偉そうに言ってくる女共に、真剣に『お前に興味無い』と告げると決まって何故か俺が責められた。俺は何も悪くない。真剣に考えろと言われたから真剣に考えて、興味無いと言った。

 それなのに何故、俺が叩かれないといけないんだ。本当は、心底気持ち悪いって言いたいところをぐっと我慢して興味無いって伝えてやったのに。

 なんで毎回……被害者の俺が悪者扱いされなきゃならなかったんだよ。


 他にも色々と、思い出したくないものを思い出した。

 家の中では四六時中気持ち悪い声が響き渡っていた。何度換気しても、何度消臭しても決して消える事の無い噎せ返る程の性の臭い。

 砂糖に群がる虫のように、甘い蜜をいくらでも与えてくれるうちの女共に群がる男達。ソイツ等は母や姉のお気に入りになるべく、俺に取り入ってきた。

 俺が好きだから、とゲーム機や電子機器、漫画全巻とかグッズの山を賄賂として貢いできた。どれも確かに欲しいものだったけれど、あんなクソ女共に求愛するような男達から貰う賄賂なんて、一瞬たりとも触れたくなかった。

 それなのに、男達は相変わらず俺に取り入ろうとしていた。どれだけ俺が悪態をつこうとも、母と姉が俺の事を愛して(・・・)いたから。


 求められるがままに性欲(アイ)を振り撒く母と姉が、唯一自発的に愛を与えようとする相手が、俺だったから。

 男達は俺に羨望の眼差しを向け、そのおこぼれに預かろうとする。

 アイツ等には分かんねぇんだろうな。実の母と実の姉に、小さい頃からこの顔と体だけを愛されて来た俺の気持ちなんて。

 だから羨ましいなんて言えるんだ。だからこんな地獄が天国だなんて言えるんだ。


 ──そうだ。俺は、あの日々の何もかもが嫌だった。

 俺はただ俺らしく生きたかっただけなのに。結局裏切られ、俺という存在を踏み躙られ、毎度の如く悪として後ろ指を指されていた。

 だから、その原因とも言える女共が。

 俺の尊厳も、意思も、初恋も、全てを踏み躙り利用しようとした女共が。


「俺は……──お前等みたいな雌の顔した女が世界で一番大ッ嫌いなんだよ!!!!」


 感情が抑えられない。それは間違いなく、『俺』の感情がカイルの感情を上回った瞬間だった。


「どうせお前も俺の顔と体目当てなんだろ? お前等が欲しいのは俺というイケメン(アクセサリー)傍に置く(手に入れる)優越感だ。そこに俺の意思なんて介入の余地すらねぇ……いつ思い出しても、本当に自己中心的で胸糞悪い話だよな」


 誰も、俺の意思なんて考えてなかった。

 俺を恋人にした事による周囲からの羨望とそれによる優越感に浸り、あわよくば抱かれ(愛され)たいという魂胆が見え見え。

 厄介な事にその未来が女共の中では決まっているようで、思い通りにならなかったらすぐこちらを悪者に仕立て上げ、被害者面で泣き喚く。

 告白を断れば、『勇気出して告白したのに、こっちの気持ち考えてよ!』とか女共は言うけどよ、じゃあお前等は俺の気持ち考えた事あんのかよ? ねぇだろ?

 女なんて嫌いだって何回も言ってたのに、それでも『私が女嫌いを克服させてあげる』とか見当違いの上から目線で近寄ってきて……挙句の果てに、必要無いって突き放すと女共はすぐ俺を悪者に仕立て上げた。


 もう、どうしたって俺が悪くなるんだ。

 アイツ等が勝手に盛り上がって、勝手に玉砕しただけなのに。別に期待させるような態度も取ってなければ、女嫌いと公言していたのに。

 それでも女共は──、俺の顔と体(ブランド力)に執着した。

 イケメン天才外科医だとか呼ばれていた元父と、街を歩けばスカウトされる歳の割に美人な母。そんな二人のいい所だけを受け継いでそれはもう目を引く顔になってしまった。

 長身の母に似たのか背はそれなりに伸びて、昔父に色々習わされてたからか体もそれなり鍛えられていた。

 自分で言うのもなんだが、俺は頭も良かった。頭がいい事以外は何一つとして利点を感じなかった人生だったけどな。


 そんな、傍から見ればまあまあの優良物件な俺に目をつける女は大勢いた。中にはカイルの妹のように逆レ……襲ってくるような奴までいた。

 毎日気色悪い声で擦り寄って来て、頼んでもない手作り弁当やら菓子やらを持って来て、痴女みたいに肌を出したり押し付けたりして来た。

 母や姉のような雌の顔した女ばかりで、俺はあまりの気持ち悪さに何度も学校のトイレで吐いた。

 鼻を貫く香水の匂いも、無駄に甘ったるいシャンプーだかの匂いも、俺の顔に向けられるあの視線も、運命だ何だと騒ぎ立てる高い声も……全部が全部気持ち悪かった。


「女は自分の気持ちを察しろとか偉そうな口叩く癖に、お前等は他人の気持ちを察するなんて殊勝な真似出来ねぇじゃん。何で自分に出来ないような事を他人に強要すんだよ、分を弁えろよ。何でちゃんと口にしてる俺のクソ迷惑だって気持ちが分からないくせに、被害者面して泣き喚くだけの奴の気持ちが俺に分かると思ったんだよ」


 カイルの妹を押し退けて、俺はベッドから降りた。突然俺の態度や雰囲気が豹変したからか、カイルの妹は困惑した面持ちでこちらを呆然と見上げる。

 一般的に見れば可愛い部類に入るのだろうが、生憎と俺は全く可愛いとは感じない。半分とはいえ血の繋がる兄に言い寄るような異母妹なんて、ただ気色悪くて仕方無い。


 だからこそ、俺はアミレスの事を普通の妹(ファンタジー)として認識したがってるんだろうな。そうでもしないとアイツまで嫌悪の対象になってしまいそうで、それが本当に嫌だった。

 せっかく出来た普通の友達なのに。趣味や嗜好を分かち合える数少ない同志なのに。ただ性別が違うというだけで、その関係が崩れる可能性が芽生えた事が酷く恐ろしい。

 また、仲間を失ってしまうかもしれない事が恐ろしいのだ。


「……何でお前等は俺の事をそんな風にしか見てくれないんだよ。何で俺自身を見てくれないんだよ。嘘でも俺の事が好きだとか言うなら、俺の気持ちを少しは考えてくれよ」


 何も難しい事は言ってない。ただ、少しだけでも俺自身を見て俺の気持ちも考えて欲しい。それだけしかお前等には望んでないのに…………それすらも、女共は聞き届けてくれないのだ。

 アイツ等にとって大事なのは俺の心や気持ちじゃなくて、俺の体だから。俺がどう思っていようと、女共からすればどうでもいい事。

 俺という人間を傍に置き、俺の恋人として周囲の羨望を独り占めし、あわよくば抱かれる事に価値を見出すような連中だから。

 性行為なんて所詮ただの性欲の発散に過ぎない。相手への好意の有無なんて、その行為を成り立たせる条件にも満たない。


 何だってそうだ。女は夢見がちすぎるんだよ。何でキスもセックスも何もかもが互いへの好意があって初めて成り立つものと思ってるのやら。

 だから、もし男が女を愛してなくても、女は自分が好きな男に抱かれてるだけで幸せや愛されているという錯覚を得られる。

 便利な話だよなぁ。俺もそれぐらい馬鹿だったら、もっと生きやすかったのかな。


 まあでも……仮に互いへの好意が無かったとして。男が性欲を発散したくて、女が愛されている錯覚に溺れたいのなら、利害の一致だとは思うがな。

 でも俺は生粋のハッピーエンド厨なので、両想いとかそういうの意外ぶっちゃけ嫌なんだよ。片想いも、いずれ確実に結ばれる前提じゃなきゃ嫌だ。

 だからこそ──自分さえ幸せならそれでいい。って考えばっかりな女共の、自分勝手で独り善がりな暴走が大嫌いだった。


「結局、お前が欲しいのは自分の性欲(アイ)を満たしてくれる相手でしかなくて、それは俺じゃなくてもいい筈だ。だってお前、俺の事なんにも知らないだろ? お前が好きだって思い込んでるのは俺の顔で、俺自身じゃない。俺と同じかそれ以上の美形がお前の前に現れて、ソイツがお前が望むままにその性欲(アイ)を満たしてくれるような男だったら、すぐそっちに靡くだろうよ」


 カイルの妹の顔が硬直する。図星だったのか?


「っそんな……! ひどい! アタシは、本当に昔からカイルさまの事が好きだったのに!!」

「あっそ。俺は嫌いだけど、お前の事。実の兄の寝込みを襲ってくる発情期の獣畜生みたいな妹の事、心底軽蔑しない方がおかしいだろ」

「──っ!!」


 個人的ド正論をぶちかましてやる。すると妹の顔がどんどんしわくちゃになり、その目からはぶわっと汚く涙が溢れ出した。


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