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346.ある転生者の追憶

カイルのトラウマ復活回です。三話ほどあります。

 あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜今すぐ帝国に行きてぇ。


 かれこれ数ヶ月、俺はずっとそう思い続けていた。

 兄貴が昏睡状態から回復した事もあり、俺が王太子になる未来は潰された。兄貴の回復を知った国民達は喜び、見込みは無いとすら噂されていた状態から見事復活した兄貴への支持率は以前の比ではない。

 これまでのいじめの腹いせに異母兄達の悪行の噂を街に流してやったからか、異母兄達の国民からの評判はそりゃもうさぁ〜〜いあく。元々カス程しか無かったもんが完全に地に落ちてった。

 街を歩けばひそひそと陰口を叩かれて嗤われる。かといって、城にいても使用人達からも軽蔑され嫌厭される。


 権力にものを言わせて当たり散らそうとしても、もはや今の異母兄達にそのような権力はなく、下手に暴れると奇跡の王太子として返り咲いた兄貴が異母兄達を処分するいい名分となる事だろう。

 馬鹿な異母兄達も流石にその程度の事を考える頭はあるらしく、数ヶ月近くずっと自室に引きこもっている。そんなのでも一応王族なので、世話をさせられる使用人達がとても可哀想ではあるが……俺としては清々してる。


 だってアイツ等には散々いじめられて来たからな。なんなら、俺が味わってきた痛みや苦しみの分だけ、お前等も苦しめてやろうかとすら考えたぐらいだ。

 復讐してもしなくてもいいなら、どう考えても復讐した方がスッキリするしね。

 なので俺は、喜んで二人の元を訪ねた。どうせ兄貴に引き留められてるから帝国にも行けねぇし、暇潰しに異母兄達の元を訪れては寄り添うように振る舞い、そしてたくさん慰めてやった。

 若干の鬱に陥る異母兄達相手に、俺は何一つとして酷い言葉など告げてない。俺は終始、正論だけを口にしていた。だが俺の慰めも虚しく、異母兄達は加速度的に鬱を酷くしていった。

 残念ながら俺は心のお医者さんじゃない。治し方とか知らんし、なんか俺に依存しつつある男共の相手をするのもそろそろ面倒になってきたので、それ以降は一切異母兄達の元を訪れなくなった。


 その後の異母兄達の様子を使用人から聞いたのだが、ベッドの上や部屋の隅で何かをぶつぶつと呟き、たまに縋るような声で虚空に向かって俺の名前を呼んでるらしい。

 くっそ気色悪ぃんだけど、マジで。

 それを聞いてからは益々異母兄達の元は訪れまいと強く決意した。


 クソ親父に関しては、兄貴を暗殺しようとした事が母さんにバレて事実上の離婚状態。美人な母さんに本気で睨まれて絶望したような顔してた。まあ、自業自得なんだけどな。

 更に、未だに母さんにお熱(笑)な事が側妃に知られてそっちからも大目玉を食らったらしい。

 なんでも、母さんに相手されない悲しみをその女で埋めてたんだが、その時『お前しかいない』『あの女はダメだ、男を立てるという事を知らん』とか母さんを下げるような発言をしていたらしいのだ。

 そんな事言っときながら結局は母さんのが大事だったんだから、そりゃあ側妃からすれば憤慨もの。なのでクソ親父は側妃からもしこたま責められて精神を病み、絶賛引きこもりときた。


 いやぁ、クズ親子揃って精神崩壊寸前の引きこもりとは! 世間に出ても人様の迷惑にしかならない、不利益と不愉快を振りまく存在には実にお似合いの結末だと俺も思うよ!!


 ……そこまではよかった。実に爽快なスカッと復讐劇だったんだ。

 クソ親父が国王の責務を全う出来る精神状態じゃなくなり急遽兄貴の即位式と戴冠式を執り行う事になったので、兄貴の手伝いやら式典の準備やらで俺まで駆り出されてるのだ。

 忙しいったらありゃしない。俺にしては珍しく、かれこれ数ヶ月も帝国に遊びに行ってない程だ。だからマジで、切実に暇が欲しい。

 帝国に遊びに行ってマクベスタとか我が友アミレスに会いたい。あと雑談しつつ美味いお菓子を食べたい。東宮で出てくる茶菓子、どれもこれも美味いんだよな……。


 そんな事を考えていると、やはり少しは休まなければやってられないような気分になった。その為……何とか昼寝の権利をもぎ取るやいなや、寝室に瞬間転移して即座にベッドイン。俺は瞬く間にスヤァと眠りについた。

 やはり日頃の疲れが溜まっていたのだろう。

 別に鍛えていない訳では無いが、気分的に俺は運動が好きではない。だってあんなもの、なまじ人並み以上に出来てしまったら最後、周りから無駄に注目されるし女共は騒ぐしで利点が欠片もねぇじゃん。

 俺は帰宅部がいいっつってんのに、やれサッカー部に入れだのやれ陸上しろだの。お前の為を思ってとか善人ぶって言うけど結局はお前の自分勝手じゃん。って何回心の中で舌打ちした事か。


 だから嫌なんだよ、体動かすのって。

 それなのに前世よりも運動必須みたいな立場になってしまった。剣に弓に魔法に体術に馬術に……本当に色々学んだ。

 そのお陰か、同世代の男と比べても体は鍛えてる方だし、神に愛されたチートオブチートという設定故か身体能力は明らかに神がかっている。

 更に俺が瞬間転移を使える事は知られているので、力仕事要員としては確かに向いている。だけど、だからって──……俺はどっちかっていうと、デスクワークのが得意なインドア派なのに!

 なので、慣れない力仕事をさせられて疲れを蓄積した俺の体は、いとも容易くベッドの悪魔に包み込まれたのだ。


 それから何時間経ったのかは知らないけど、俺は目覚める前に金縛りのようなものに遭っていた。

 体が重い。謎のカチャカチャと聞こえる音はなんだ、妖怪の牙の音とか? いやこの世界でそれはないか。

 まあまあ幼い頃から現実逃避の為に漫画を読み耽っていてオタクだった事もあり、前世では幼少期から妖怪だの幽霊だの(そと)なる神だのの存在を信じてやまなかったのだが……残念ながら俺には霊感はなかった。

 妖怪を見る目も、幽霊を祓う力も、神を降臨させるような儀式をする能力もなかった。

 そんな俺からすれば、こういう霊的現象はかなり楽しいのだが……これほんとに金縛り?なんか悪寒もするからやっぱそうなんかな。


 なんだか少し楽しくなってきた。

 昔考えた必殺の除霊術とか、そういうのが役に立つ日が本当に来たというのか! いいな、やっぱ楽しいぜファンタジー世界!!


「……──って、あれ……なんか普通に目ぇ覚めたし」


 楽しさのあまり、俺はどうやら開眼してしまったらしい。視界には見慣れた天井があった。

 金縛りではなかった……だと……ッ!?

 いやまて。金縛りとて視覚は機能するパターンが多いらしいし、まだ金縛りキャンセルをキャンセルする事は可能────、


「あっ、カイルさま起きちゃったのね。せっかく無防備に寝てたから、そのうちに既成事実を作ろうと思ったのに」


 ……どころの話じゃなくなった。

 その声を聞いて、先程までの金縛り擬きと謎の金属音の正体を知って。体中が芯から冷えきっていくのを感じた。

 全身で鳥肌が立ってしまう程の嫌悪感と、今すぐにでも目の前の人間を殺してしまいたい程の吐き気。

 俺が世界で一番嫌いな人種(もの)が、目の前に在った。


「──お前、今自分が何しようとしてたか分かってんのか」


 カイルって、こんな低い声出せたんだな。そう呑気に考える余裕は、すぐに消えてしまった。


「っ! だ、だって……アタシは昔からずっとカイルさまの事だけが好きだったから……カイルさまに婚約者が出来るかもって聞いて、それが嫌で、アタシのお腹にカイルさまの子供が宿れば婚約者の話も無くなるかなって思ったの!」


 俺の足の上に跨るカイルの妹(・・・・・)は、なんともまあたまげた事を言い出した。

 懐かしいなぁ、この感じ。

 吐き気が徐々にせり上がってくる。女というものへの生理的嫌悪を思い出させてくる。朧気に思い出しつつあった俺の前世を、その記憶(トラウマ)を甦らせる。

 ああ、本当に────反吐が出る。


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