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330.竜達の涙

シュヴァルツ視点に変わります。

 正直、かなり驚いた。

 いやいやいや……アレは誰だって驚くだろ。

 ──何でただの人間が、黒の竜の殺意や威圧を前に平然と立ち上がれたんだ?

 ついさっきまであんだけ苦しんでた癖に、何で瞬く間にそんな事になってんだよ。


 黒の竜(クロノ)の攻撃はアイツに当たる事は無かった。アイツの出した氷の壁により阻まれたのだ。

 まァ、アイツがああしなくてもオレサマがなんとかしてやるつもりでいたが……まさか自力で何とかするとはな。

 その上でアイツが放った言葉。竜種相手なら怖いが、神々相手だと怖くないとか。意味不明にも程がある。

 もう、言葉も出なかった。多少は出たかもしれんがそれはそれとして。

 つい数分前までの苦しみようが嘘のように、アイツはクロノと対峙していた。精霊共が鍛えた魔剣を構え、クソどうでもいいような事の為に竜と戦う道を選んでいた。

 本当に──……アイツは見上げた馬鹿だな。生粋の偽善者とでも言うべきか。

 だが、そうだな。


「それでこそ、お前だ」


 ───あの蛮勇が癖になりそうだ。


「アミレス……!!」


 本当に黒の竜との戦闘を始めたアミレスを見て、ナトラが顔色を悪くしている。どうやら本気で、アイツの心配をしているらしい。

 まァ、オレサマとて心配してないワケでは無い。

 心配してなかったらそもそもここまで来てねぇし。手も貸してないし、密かに弱体化の呪いや認識阻害だって使わないっつの。

 弱体化の呪いと認識阻害はつい先程クロノにかけたものだ。

 こうでもしないとアミレスは即死する。だからクロノにオレサマの存在が気づかれる事も覚悟の上で、悪魔お手製の趣味のわるぅ〜〜い弱体化の呪いをかけてやった。それは時間が経てば経つ程、鼠算式に効果が増していく呪い。

 前にアイツには致死レベルの竜の呪いをかけられたからな。百年越しの報復だ、とくと味わえ!!


 そして認識阻害。これは……まあ、当然だろ。黒の竜が帝都のすぐ近くで暴れてるとか、大騒ぎ確定だからな。そうなっても面倒だし、オレサマ達以外には見えなくしたってワケだ。

 あと、ついでに帝都に対魔結界を張った。それもめちゃくちゃ強力なやつ。

 魔法に精通した奴等なら間違いなく気づくであろう、かなり大規模で強力な結界だ。それこそ、竜種の侵入をある程度防げるレベルの、な。

 後で犯人探しが行われて実に面倒だろうが、アミレスが被害を抑えたいなどと無茶な事をほざくものだから。


 ……今のオレサマにはこれぐらいしか出来ねェ。

 真名を明かした上でここが魔界だったら、クロノの相手も余裕なんだが……真名が明かせず、更にここは制約の影響下(にんげんかい)ときた。

 今のオレサマがクロノと戦っても、良くて相討ち最悪惨敗だろうよ。

 オレサマでさえ勝ち目が少ねェんだ。アミレスとて勝ち目が皆無な事ぐらい分かってるだろうに…………それでもナトラの為に立ち向かうとか。


「しゃあねぇーなァ、とびっきりのプレゼントでもしてやろうか」


 呆れる程に馬鹿なあの女が、死なないように。

 死を恐れる癖に、自ら死の概念とも呼ぶべき災害に立ち向かうイカれた人間に──悪魔(オレサマ)から与えてやれるもの。


「……──全員、本能のままに狂人(バカ)になれ」


 指と指を弾いて音を鳴らす。

 魔法の対象は、マクベスタとイリオーデとルティ。マクベスタは当然として、他の二人もこの魔法の適正があった。

 ただ一つの目的、ただ一つの願いの為に狂える、頭のおかしい人間。

 アミレスの為に迷わず命を懸けられるアイツ等なら、この魔法だって上手く機能するだろう。


「──っ!!」

「なん、だ…………ッ!?」

「あ……」


 早速だがマクベスタとイリオーデとルティ、それぞれに反応が見られた。

 のたうち回ってた三人の体を赤黒い靄が包んだ直後、三人は心臓を押さえて、声も無く痛みに喘ぐ。

 個人的な興味は勿論マクベスタだ。全殺剣を会得し、聖剣を所持するバーサーカーがどんな風に変化するのか……見物だなァ。

 ニヤニヤと様子を見ていた時。ナトラが突然襟元を掴んで詰め寄ってきた。


「おいシュヴァルツ! お前、あやつ等に何をしたのじゃ!」

「え? 最初から言ってたように、後方支援(・・・・)だけど」

「はぁ?! あれが後方支援じゃと? あれはどう見ても──……魔人化じゃろうが!!」


 ふむ。オレサマの事には気づかずとも、流石にナトラもアレには気がつくか。

 その通り、アイツ等にかけた魔法は人間を魔族へと変える魔人化の魔法だ。つっても一時的なもので、数時間後には勝手に戻るだろうがな。

 魔人化すれば大抵の恐怖やら……いわゆる理性が消え去るから、アイツ等もクロノと戦える事だろう。更に身体能力は跳ね上がり、魔力量も増え、五感すらも強化される。

 この状況にはうってつけの魔法だと思ったのだ。


「おまっ……お前ぇえええええ!! アミレスの下僕共を勝手に人でなくすなど! 後でアミレスに何を言われるか分かったものじゃ……!?」

「下僕って。そもそも、その『後』があるかどうか分かんないから、その後の為にこうしてグレーな手段取ってんでしょ」

「ぐっ…………ぬぬ、そう、じゃな。後でアミレスから大目玉を食らっても我は知らんからの!」

「ハイハイ」


 魔人化の事も含め相変わらず不安なようで、ナトラは今にも泣き出しそうな顔でアミレスとクロノの戦いを見ていた。

 アミレスは元々狂ってるからか、クロノの威圧やらは最早堪えていないようだ。精霊共との特訓の影響か、クロノの攻撃や魔法は当たらない事の方が多かった。

 しかし、アミレスの攻撃もまたクロノには当たらない。とにかくこのままではアミレスが不利だった。

 アミレスは何も出来ないというのに、クロノは着実にアミレスに攻撃を当てている。寧ろ、まだアミレスが戦えている事がおかしいぐらいなのだ。

 竜種への恐怖で倒れ込んでいたあの男達を守るようにアミレスは器用に立ち回り、それなりに負傷している。


 オレサマは戦えず、ナトラは未だにクロノと戦う事に抵抗を見せる。精霊共は精霊界で何かあったらしく、アミレスからの呼び出しが無い限りここ暫くは人間界にも来ない。

 流石にアイツが死にかけたりすれば、精霊のが飛んで来るだろうが……それまでは来ない可能性が高い。精霊界の厄介事はマジで厄介だからな。

 もしもの時が来たならば制約も無視して意地でもアイツを助けるつもりだが、それはもしもの時だ。

 だからアイツ等を──アミレスの為に狂える奴等を狂わせる事にした。どう考えても、これがこの状況では最善の方法だと思ったんでな。


「お、魔人化も無事出来たみてェだな」


 いつの間にかあの三人は立ち上がっており、体を覆っていた赤黒い靄は霧散した。

 一時的に人間を魔族へと変える魔法なだけあって、適正のある人間と波長の合う系統の魔族へと変貌するんだが……想像以上にとんでもない事になったな。

 マクベスタは、反転した黒い肌に純黒なる天使の翼を持つ、堕天族(ルシフェル)

 イリオーデは、首から上で青い炎が燃え盛る顔の無い一族、妖魔騎士族(デュラハン)

 ルティは、黒い山羊の角と悪魔の羽が生える黒山羊と悪魔の混血、黒山羊族(バフォメット)

 いやはや……魔界でもかなり希少かつ凶暴な種族へと変貌しやがったぞ、アイツ等! やったのオレサマだけどな!!


「……──お前を死なせたりはしない。絶対に」

「……──私は、あの御方を守るのだ!」

「……──ああっ! 主君っ、主君!!」


 ほぼ同時に魔人化を完了した三人が、一人で黒の竜と戦うアミレスの姿を見て、本能のままに動き出した。

 マクベスタは雷を纏う聖剣を取り出し、翼を羽ばたかせてクロノへと襲いかかった。聖剣ゼースと雷の魔力と堕天族(ルシフェル)の力故か、なんとその一撃はクロノの翼に大きな傷をつけた。

 イリオーデはクロノの攻撃からアミレスを守るように前に出て、青炎を盾にした。妖魔騎士族(デュラハン)の青炎は守護の炎。何かを守る時にその真価を発揮する。

 そしてルティは……恍惚とした表情でアミレスの傍に行ったかと思えば、「後でたくさん褒めてくださいね!」と嗤い、闇で象った大鎌でクロノの鱗に深い傷を作った。


「……アイツ等、想像以上に強くね?」


 まさかオレサマの口からこんな言葉が零れ落ちる日が来るとは。

 アミレスの助けになればいいなぐらいの気持ちで、アイツ等を魔人化したが……何か思ってたより強くなっちまった。何だこれ、面白くねェな。


『な、何だよ君達は……!?』

「そっ、そうよ! ちょっと、何その姿?! 一体何があったの?!?!」


 クロノもアミレスも、マクベスタ達の変貌っぷりにかなり動揺している。

 それもその筈。さっきまで恐怖から身動き取れなかった奴等が、急に人間辞めて暴れ出したら誰だって驚愕するよなァ。


「さあ。オレも知らないよ」

「えっとぉ……何でさり気なく手を触るの……?」

「お前の無事を確認したくて」

「ひゃっ!? な、舐め……っ?!」


 アミレスの手を取ると、マクベスタは血が流れ出るアイツの腕を舐めた。確かに堕天族(ルシフェル)の体液にはある種の治癒効果があるが……それを無言で、唐突に、無意識でやるとは。

 普段のアイツからは考えられないな。理性ぶっ壊れてるだけあるわァ。


「王女殿下、大丈夫ですか? こんなにもお怪我を……っ」

「え? いや、これぐらいは別に……というか貴方その顔、大丈夫なの? 熱くないの?」

「顔? いえ、特には」

「マジか…………」


 マクベスタの行動に戸惑いつつも、イリオーデの顔の炎が気になって仕方無い様子のアミレス。口元だけ僅かに見えるが全体的に青炎に包まれていて……そんなイリオーデの頭部に視線が集中していた。

 青炎はまるでイリオーデの髪のように長くゆらりと後方でも燃えている。それが不思議で、気もそぞろなようだ。

 でも気にならないモンなのかね、あの炎。


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