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321.ある男達の晩酌

私兵団サイドの話+αの小話が2話程続きます。

「高級な酒ってのはやっぱ美味いモンなんだなぁ!」

「あはははっ、こんなの馬鹿みたいに飲んでさぁ、安酒で満足出来なくなったらどうしようかぁ〜〜っ」

「らいよーふら。ほれわろんなはへれもまんろくれきりゅ」

「……はぁ。酔いすぎだぞ、シャル」


 結婚式が終わり、その日の夜。

 ディオリストラス達は夜更けまで酒を飲んでいた。

 披露宴ではアミレスの指示で明らかに多い量の酒が用意されていて。それはアミレスが、皆がどれ程に酒を飲むか分からなかった為、多めに用意していたからなのだが……思ったよりも披露宴で酒が消費され、残るは数本というところまで行った。

 なので、結婚祝いにと残りの酒はバドールとクラリスに贈られた。勿論、それらはシャンパー商会の扱う高級酒であった。

 なのでバドールとクラリスは、せっかくなら皆で飲みたいと言って、その日のうちに飲み会を開き、飲み干してしまおうと考えたのだ。

 その為急遽行われているこの、バドールとクラリスの結婚式二次会・宅飲みパーリナイ──それはもう、盛り上がっていた。


 私兵団の面々では、唯一ルーシアンのみが成人しておらず、酒を飲む事も出来ないのだが……ルーシアンに合わせてメアリードも酒を飲まないようにしている為、二人はこの飲み会にジュースで参加していた。

 普段は滅多に飲まないユーキとエリニティも、今日ばかりは皆と一緒に酒を煽っていた。

 どれだけ飲んでも顔色一つ変えない私兵団一の酒豪、ユーキの傍では私兵団一の下戸のジェジが、尻尾と耳を揺らしてスヤスヤと眠っている。


 ジェジ程ではないがエリニティも酒には強くなくて、彼も二杯程飲んで限界が来たようだ。自作の赤い抱き枕を抱えて、「むふふ……メイシアちゃん……結婚して……」と寝言を呟いては幸せそうに眠っていた。

 バドールも酒が回ったのか顔を赤くして、口数が更に減っている。左手の薬指にはめた指輪を後生大事に撫でては、頬をだらしなく弛めていた。

 その隣では「おいしゃるぅ! あんらねぇ、いっつもばらなこといってぇ、あざとかわいいとでもおもっれんのぉ?」と、同じく左手の薬指に指輪をはめたクラリスが、シャルルギルに向かって意味不明な説教を始めた。これは完全に酔っている。

 それに対して、「おれはかわいいが?」と赤い顔でシャルルギルは返した。昔からとにかくラークに可愛がられていた為、この天然馬鹿は自己肯定感が異様に高く育っていた。


 そしてその原因とも呼べるラークはというと……今日はもういいや! と羽目を外し、酒をがぶがぶと飲んで楽しそうに笑っていた。その隣では、ディオリストラスが絶え間なくグラスに酒を注ぎ、高級酒に舌鼓を打つ。

 もう、収拾がつかなくなりつつある。

 この状況で全員が泥酔してはならないと唯一セーブしていたイリオーデが、ため息をつきながら眠るジェジとエリニティにタオル掛けてやると、


「むにゃ……イリにぃといっしょに寝るんら……」


 寝ぼけている割に強く、ジェジがその腕を掴んでイリオーデを引き止めようとする。今夜は久々にイリオーデが泊まっていくという事で、ジェジはここぞとばかりにイリオーデに甘えようとしていた。


「……まったく、お前はいくつになっても子供みたいだな」


 やれやれ。と眉尻を下げて、イリオーデは目を細めた。

 アミレスと再会し、彼女の騎士となってからというもの……イリオーデは貧民街を離れてずっと東宮にいた。なので、表には出さなかったが彼等も相当寂しかったのだ。

 だが、イリオーデがアミレスの騎士となる為に全てを捨てて生きて来た事を彼等は知っていた。

 だからこそ、ようやくイリオーデの願望が叶ったというのに、自分達の寂しいという感情で、イリオーデの幸福に水を差してはならない……と、彼等なりに遠慮して来た。

 しかし今日、アミレスの計らいでイリオーデが久々にディオリストラスの家に泊まっていく事になった。

 久々にイリオーデと長時間共にいられるからか、特に彼に懐いていたジェジなんかはそれはもう大はしゃぎ。

 非常に弱いのに、ジェジは酒を一気に飲んで一瞬で撃沈した。


(たまにはいいか。王女殿下より暇を出されてしまった今の私は、王女殿下の騎士ではなく──幸運にも彼等と家族(なかま)になれた、ただのイリオーデなのだから)


 ジェジに掴まれた腕を振りほどく事もなく、イリオーデはそこに腰を据えた。

 ゆるやかで、賑やかで。別段この空気が得意という訳ではないイリオーデだが……どうしてだろうか。この空間は、やはり心地よいものなのだろう。

 彼にとっての第二の家族達。それは間違いなく、彼の中では特別な立ち位置にあった。

 生きる意味とも言うべきアミレスとはまた違う意味で、とても、とても──……特別な存在だったのだ。


「あー! イリ兄が笑ってる!」

「ほんとだ。姫の前でもないのに、イリ兄が笑ってるなんて珍しいね」


 泥酔した者達の介抱をしていたメアリードとルーシアンが、目敏くイリオーデの微笑に気づいた。


「……私だって笑う時は笑うさ」

「でもイリ兄、姫と会うまで、アタシ達の前ではほとんど笑った事無かったし。こうやってイリ兄がアタシ達の前でも笑ってくれてうれしーな!」

「僕も嬉しいよ。イリ兄がようやく僕達にも心を開いてくれたみたいで」

「別に心を閉ざしていたという訳では……」

「でも似たようなものだったじゃん」

「ね、メアリ姉」

「ねー?」


 メアリードとルーシアンは顔を見合わせて笑った。


(そんなに、私は笑ってこなかったのか? それなりに笑っていたつもりだったんだが…………)


 そして、こちらは密かにショックを受けていた。イリオーデなりにこれまでの人生でも笑ってきたつもりだったのだが、それはまったくの無意味だったらしい。

 元々無口無表情な方だから、仕方の無い事なのかもしれない……。


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