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302.青い星を君へ4

「女が嫌いって、あんなにアミレス様にベタベタしておいて! どの口がそのような事を!!」

「お、おいシャンパージュの嬢ちゃん落ち着け!」


 今すぐにでも殴り掛かりそうな勢いのメイシアを、ディオリストラスが慌てて制止する。

 だがメイシアが行かぬのならと、イリオーデやアルベルト、更にはマクベスタやマリエルやナトラやシルフまでもが臨戦態勢に入っていた。


「女っつっても無条件に全部嫌いな訳じゃねぇよ。俺に好意を持つ女が嫌いなだけだ。だからその点ここは居心地がいいんだよなぁ、俺の事好きな女は一人もいないし」


 あとマクベスタがいるし。とカイルは零す。


「安心しろ、アイツは妹みたいなもんだと思ってるから、俺。いや〜、ずっと普通の弟妹が欲しかったんだよなあ」

「何が『安心しろ』だ。勝手に一人で完結すんじゃねーよクソが」

「シュヴァルツ口悪いなぁ……まあいいけどさ、皆が俺にだけ当たり強いの慣れて来たし」


 相変わらずの順応性の高さで、カイルはシュヴァルツを軽くあしらう。


「俺は恋愛なんて出来ないし、尚且つここだけの話……アミレスの事を妹分だと思ってる。そんな俺には、アイツを愛する事なんて出来ないんだよ。だからそれはお前等に任せたって事。おけ?」

「……兄妹のように思ってて、どうして愛する事が出来ないんだ? 兄は弟妹を愛するものじゃないのか?」


 弟をこよなく愛するアルベルトが、カイルの自論に異を唱える。しかしそれをカイルはぽかんとした顔で、


「え? 身内を愛するとか無理無理。家族愛とか一番いらんし。俺、そんなもの心底求めてないから」


 あっさりと一蹴した。


「だから安心してくれって言ったんだよ。俺がアイツの事を友達や仲間以上に好きになる日なんて来ないからさ。だからその代わりに、愛を込めた花束を贈るのはそっちで頼んだ」


 カイルはヘラヘラと笑う。しかしそれを聞いた面々の表情は不可解に歪められていた。


(ま〜〜た、めんどくせぇ感じの奴が出てきたなァ。アイツといいコイツといい、世界に干渉されてる奴等はどうも愛情を渇望してたり忌避してたりと、何かしら愛にまつわる面倒事を抱えてるのは何でなんだ?)


 背を曲げて、シュヴァルツは肺の空気が無くなりそうな程大きなため息を吐き出した。

 予想外の方向にカイルが面倒な考えを持っていて、シュヴァルツからは毒気が抜かれてゆく。この男相手に真面目に話してもこれは無駄だと、そう判断したようで。


「……言われなくてもそのつもりだよ。ぼく達で彼女を全力で愛する。彼女の価値観も普通も全部侵しつくして、ぼく達が彼女をめちゃくちゃにしてしまえばいいんだろ」

「そーゆーこと。よし、これで無事作戦会議も終わりだな」


 ぐぐぐっ、とカイルは背伸びをする。その最中「あ」と声を漏らして、カイルはシルフ達の方を向き、


「なあなあ、このままこっちで朝飯食ってもいい? 何か最近うちの兄貴がうるさくてさー」


 タイミング良く腹の虫を鳴らした。あんまりにも空気感を破壊する自由人カイルに、シュヴァルツだけでなくその場にいた全員までもが毒気を抜かれた。


「厚かましいぞ、カイル。なんで我等がお前の分まで朝食を用意してやらねばならんのじゃ」

「そーだそーだ。ハミルディーヒの王子に何で東宮の食料を無償で分け与えてやらないといけないんだよ。ここはアミィの家なんだけど?」

「いいじゃん別に。アイツ金持ちなんだし……俺は王子だけどそこそこ貧乏だから節約したいんですぅー。セコケチだって言われても仕方無いんですぅー」


 先程までの一触即発の空気は見る影もなくなり、すっかりいつも通りの緩い雰囲気へと戻った。

 それに肩を撫で下ろし、カイルが小さく微笑んだのは……きっと、気の所為ではない。


「シュヴァルツ。話が終わったならば、私は姫様にご挨拶してから邸宅に戻りたいのですが……仕事がありますので」

「あっ、わたしも……急にいなくなったからお父さん達が心配してるかもしれないので、家に帰らないと」

「そういう事なら俺も、朝からシフト入ってんだわ。早く戻らねぇとユーキとクラリスにどやされる」


 シュヴァルツによって強制的に東宮に呼び寄せられた面々が、シュヴァルツに帰してくれと頼む。それをシュヴァルツは「いいよぉ」と快諾し、ひとまずアミレスに挨拶だけしにいこうかという話になる。

 ここまでずっと口を閉ざしていたイリオーデが、これ幸いとばかりに黙って早足でアミレスの私室に向かったものだから、その後ろをアルベルトが「あ! 待てよ騎士君!」と言いながら追いかける。しかし、当のイリオーデはというと……振り向く事さえなく、「イリオーデだ」とだけ返して前を行く。

 その背を更にシルフとナトラとマクベスタが追いかけ、シュヴァルツ達も同様にその後ろに続く。やいのやいのと話しながら賑やかに廊下を歩く面々を見つめ、カイルは柔らかく目を細めた。


(一時は俺のガバからどうなる事かと思ったが…………これで、いいよな。アイツの異常性について思い悩むのは俺だけでいい。いくつもの手掛かりを頼りに、謎を解いて真実を見つけるのは俺がやればいい。皆はただ……純粋にひたむきに、よそ見なんてせず真っ直ぐにアイツを愛してくれたらいいんだ)


 ふぅ。と一息つくとカイルは一歩踏み出して、


「……──目指せ、ハッピーエンド!」


 アミレスの元に向かう楽しげな面々を追いかけるように、軽く走り出した。



♢♢



「ただいまぁ、おねぇちゃん!」


 寝台ベッドの上に寝転がり、セツの肉球をぷにぷにと触っていた時。扉を開け放ってはぞろぞろとお客様が。

 あれ、何でハイラとメイシアとディオがいるの? マクベスタとカイルはまあいつもいるからいいとして、三人がこんな朝からいるなんて珍しいわね。何かあったのかしら?

 セツを抱え、寝台ベッドから起き上がり皆の元まで歩いてゆくと、ハイラが優雅に一礼して挨拶を口にした。


「おはようございます、姫様。こうして朝から姫様にお会い出来ました事、光栄の至にございます」

「おはよう、ハイラ……機嫌がいいわね?」

「……その。可憐な姫様と愛らしい動物の相乗効果はやはり素晴らしいなと思いまして」


 何がどうして、そんな照れるように話すのかが分からないわ。


「確かに、アミレス様ともふもふな動物との相性は素晴らしいです! 可愛いと可愛いが合わさって凄く可愛いです!」

「メイシアまで……。そんなに褒めても何も出ないのに」


 と言いつつも、私は近くの引き出しから白紙の簡易小切手とペンを取り出した。さぁ、いくら欲しい? メイシアにならいくらでもお金あげちゃうわ。

 この流れるようなボケに、すかさずカイルが「いや出てんじゃねぇか」とシンプルなツッコミを入れてくれた。

 流石はカイルね、空気読みプロフェッショナル!


「ごほん。それより、皆どうしたの? そんな風にぞろぞろと。もしかして、私が忘れてるだけで今日ってここで何かあったかしら?」


 不安になって、私の仕事や予定を全て把握しているアルベルトに確認する。私の視線に気づいたアルベルトは首を横に振って、


「いえ、特にはございません。本日の主君のご予定は通常公務と帝都西部地区への視察のみです」


 スラスラと今日の予定を述べた。アルベルトは今や立派な執事となっている。誰がどう見ても完璧で、どこに出しても恥ずかしくない執事だ。


「あっ、だからディオがいるのね! もしかしてわざわざ迎えに来てくれたの?」


 合点がいったと手を合わせたのも束の間、それならメイシアとハイラは何でいるのだろう……と、疑問はふりだしに戻る。


「え? いや、俺は……」

「そうっ! そうみたいでさ! さっきぼく達が外に出た時偶然廊下で会ったんだ。ハイラとメイシアも似たような理由だってさ」


 何かを言おうとしたディオを押し退け、シュヴァルツが説明する。どうやらハイラとメイシアも似たような理由らしいのだ。

 そっか。確かにメイシアも貧民街大改造計画には関わってるし、ハイラだって同様に関係者だ。

 視察と言っても、こんなにも関係者が迎えに来てくれるようなものじゃないんだけどな。月イチで貧民街の様子を見に行くだけの、軽い観光みたいなものなんだけどな。


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