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271.必要悪の動機3

《余剰魔力の回収を開始。大戦兵器化(モード・ワルキューレ)は継続しますか?》

「そうだな……今から突入するんだし、とりあえず小型化だけしておくか」

《『変』及び『空』の魔力を使用。小型化を実行します》


 サベイランスちゃんは小型化し、一般的な狙撃銃程度の大きさになる。それを片手に持ち、カイルは数歩踏み出してからくるりと振り向いた。


「行くぞー、お前等。何ぼーっとしてんだよー」


 抜け道などの侵入経路なんて最早不要。どデカい道をカイルが切り開いたので、そこから堂々と侵入すればいい。

 先陣を切ったカイルの背中を呆然と見つめながら、スコーピオンの面々は心の中で叫ぶ。


 ……──何、あの化け物?! と。



♢♢



「ごめんね、セツ。この部屋で大人しく待っててくれるかな」

「……ゥワンッ!」

「ありがとう。後で必ず迎えに来るからね」


 この件には巻き込まないよう、自室にセツを残して私も動き出す。

 計画決行までもう時間が無い。『準備も大変でしょうから、少し休みませんか?』と談話室にローズを誘いだし、談話室には私とローズとイリオーデとアルベルトの四人だけになった。

 城の侍女も即位式の準備に忙しいようで、今日は運良くローズが一人きりの日だったのだ。

 お陰で彼女に話を持ち掛けやすいわ。


「ねぇ、ローズ。お願いがあるの」

「改まってどうしたの? アミレスちゃんのお願いなら何でも聞くよ」


 窓の外からは、『余所者を大公妃にするなど断じて認めん!』『即位反対ーー!』『伝統を蔑ろにするな!』『セレアード・サー・テンディジェル、いい加減目を覚ませー!!』と民衆の声が微かに聞こえて来る。

 もうじき一つの計画が潰され一つの計画が決行される。ティーカップをソーサーに置いて、緊張から逸る鼓動を落ち着かせて私は切り出した。


「……──私達(・・)に、攫われてくれる?」

「え……」


 ローズが困惑の声を漏らした瞬間。タイミングを見計らったかのように、耳を劈く轟音が辺りに響いた。

 それと同時に、多くの悲鳴と建物が倒壊する音が遠くから聞こえて来る。


「て……敵襲──ッ!!」

「城内に侵入者! 城門諸共、外壁を破壊されました!」

「城の一部も同様に破壊されております!!」


 兵士が敵襲を告げる。


「な、何が起きて……っ」

「大丈夫よローズ。貴女には傷一つ負わせないから」

「……アミレスちゃん、何か知ってるの……?」


 怯えるローズに寄り添い、私は酷な願いをした。


「その事も含め、後で全部話すわ。だからお願い……今はどうか、貴女の力を貸して欲しいの。貴女とレオを守る為には、こうするしかないから」


 彼女の紫色の瞳を見つめ、真摯に頼み込む。

 一瞬ローズの瞳は戸惑いに揺れたが、私を信じてくれたのか、その戸惑いはなりを潜めて。


「…………分かった。何が何だかまだ分からないけれど、アミレスちゃんの言う通りにする」


 ローズは強かに微笑んだ。

 ひとまず私がやるべき最大の仕事はこれで完了した。後はカイルの到着を待つだけ。カイルが到着してからが本番と言っても過言ではないけど。

 轟音から数分。何故かあれからも度々破壊音が聞こえて来る。これは……カイルの奴、暴れまくってるわねー……。


「お、やーっと辿り着いたわ。城破壊しすぎてちょっと迷っちまったぜ」


 噂をすればなんとやら。扉を開いて現れたのはカイルだった。覆面と変装の所為で顔は全く見えないが、声がカイルだからギリギリ判別可能だわ。


「貴方ねぇ、絶対ノリノリで魔法ぶっぱなしてたでしょう。音凄かったわよ? 耳壊れるかと思ったわ」

「ハハッ、そりゃすまねぇな。普段、こんなに思い切り魔法を使える機会とか滅多に無いからさ。それはともかく……今すぐ演出しねぇと。何人か兵士がこっちに向かって来てんだよ」


 そう言って、カイルは演出(・・)の為に私とイリオーデとアルベルトに細工を施す。

 簡単に言えば、私達三人がカイル一人にボコボコにされたように演出するのだ。イリオーデ達はこれが若干不満のようだけど、計画の為だからと渋々了承してくれた。

 ボコボコにされた私達三人と歌姫たるローズを、謎の襲撃者達が誘拐する事こそがこの計画の根幹。

 皇族とその従者達に加え領地の歌姫まで攫われたら……内乱だなんだと騒ぐ暇なんて皆無になる。それどころか、これから対立しようとしていた人達が協力せざるを得なくなる。

 そこで意見が分かれた領民達を統率し、次期大公の座を奪い取る指導者になる──という大役を、レオに任せる。

 レオには勿論何も話していない。ただ彼ならば、ローズが攫われたとあればその才能を発揮して対立する民衆を統率してくれると。

 そうだ、これは賭けだ。よりにもよってこの計画の要が運要素になってしまって、ヘブン達には呆れられたけど……それでもこればかりは仕方の無い事なのだ。

 内乱を阻止し、かつこれからも起こらないようにするとなれば、最早レオに大公になってもらうしか道は無い。

 レオの妹への愛情を信じて、この計画を実行する事にしたのだ。


「ま、こんなもんだろ。水と色の魔力を兼用して血糊を作り、変の魔力で服をボロボロに。ついでに色の魔力で痣や傷口を描くと。うむ、我ながら天才的だな」


 やり切った面持ちで胸を張るカイルは、最終段階とばかりに私達を床に倒れさせ、そこにも血糊をばら撒いていた。

 その後、おもちゃのドッキリナイフみたいな物を「えい」とイリオーデの背中に置いて、そこにも一層濃くした血糊を以下略。

 カイル曰く、ボロボロになった服は変の魔力で元通りに出来るとの事なので自由にさせているが……相当私兵団の団服が気に入っているのか、団服をボロボロにされ汚された事にイリオーデはもの凄く不機嫌になっている。

 加えて、アルベルトとイリオーデは私まで床に倒れなくてはならない事にもご立腹のようだった。

 動くなと言われているので二人共動きこそしないが、先程から狩りをする猛禽類かのような鋭い眼光でカイルを睨んでいるもの。

 普段なら絶対こんな事出来ないし、私としては楽しいから全然OKなんだけどな……。


「あ、丁度いいタイミングで兵士も来たらしい。それじゃあちょっと失礼するよ、歌姫さん」

「えっ……きゃあ!」


 カイルはローズの腕を引き寄せ、これまたおもちゃのナイフを手にローズを人質にとる。

 バタバタバタと近づいてくる足音。力強く開け放たれた扉から、若い兵士達が何人も入って来た。

 私達三人は謎の襲撃者に倒された風を装うべく、息を潜める。


「ローズニカ様! ご無事ですか──ッ!? ローズニカ様! 王女殿下!!」

「おっと……それ以上近づけば歌姫の大事な喉が潰れちまうぜ?」

「ッ人質など卑怯だぞ侵入者ァ!!」


 兵士達の顔が怒りからか真っ赤になる。


「卑怯だなんだと言われても困るなァ。我々は我々の仕事をしているだけなんでな。この歌姫と……そうだな、こっちの王女もついでに貰っていくか。洗脳でもすれば我が社の戦力になるだろう!」


 まさに悪党と言うべき台詞をベラベラと喋り、カイルは私達全員が入る程の大きさの白い魔法陣を展開する。

 そして大きく息を吸い、


「──我々は秘密結社ヘル・スー・ベニア! 我が社の信念に従い仕事をする闇社会の支配者! 万物を癒すという歌姫の力に興味があると社長(トップ)が仰せなのでな。故に歌姫は我々が戴く! ふははは、ふはははははははははははは!!」


 あまりの熱演っぷりに、若干引き気味になる。ちなみに秘密結社ヘル・スー・ベニアはカイルが勝手に考えた設定で、翻訳すると冥土の土産とかそんなニュアンスになるらしい。

 カイルは高笑いしながら瞬間転移を発動させ、私達全員をその場から転移させた。行先はディジェル領中心街から二時間程歩けば辿り着ける平原……そのど真ん中に今しがた出来上がった要塞。

 転移してすぐ私が氷の要塞を造り、カイルがそれを石やら鋼やら変やらの魔力で頑丈な素材に作り替えて、出来たものである。

 その中に入り、私達はそれぞれ別室で着替え始めた。

 必要な道具は全てアルベルトがきちんと持っていてくれたので、何かが足りないという事もない。私達も魔法薬を飲んで髪の色を変えて、別働隊と同じ覆面と変装を身に纏う。

 その着替えの最中、ながらでローズに詳しい事情を説明した。

 何が起きようとしていたのか、そもそも何が原因なのか、何故私達がこのような暴挙に出たのか……一つ一つ説明していくと、ローズは驚愕半分納得半分のような複雑な表情をしていた。


「……ごめんね、アミレスちゃん」


 全てを話した後、暫し黙り込んでいたローズがついに口を開いたかと思えば、彼女は何故か謝罪の言葉を口にした。

 謝るべきなのは私達なのに……これから、領地も領民もめちゃくちゃにするんだもの。

 それなのにどうしてローズが謝るの?


「私達の問題に、アミレスちゃんを巻き込んでごめんなさい。本当は私達が解決しなきゃいけない事なのに、貴女に押し付けてしまってごめんなさい」


 鈍色の髪を揺らし、彼女は深々と頭を下げた。その声からは、彼女の誠意というものが強く感じられた。

 ローズもテンディジェル家の人だから、きっとレオ程でなくとも頭がいいのだろう。

 全てを理解した上でのこの謝罪なのだと思えば、納得も出来る。だけど私は、この謝罪を受け入れられなかった。

 少なくとも、今はまだ……何も成せていない今の私には、彼女の誠意ある謝罪を受け入れる資格など無いから。


「大事な友達を守るのは、当然の事でしょう?」


 だから私はこう告げた。大事な友達の為だったら、死ぬ事以外は何だって出来る。そんな自信が私の中にはあるのだ。


「アミレスちゃん……っ」

「だから私達の行動を負担に思わないで。こんなの、私達が勝手にやってる事なんだから」

「ありがとう、私達を守ってくれてありがとう……!」


 頬に涙を伝わせるローズを抱き締めて、その背中を摩ってあげる。……感謝の言葉なんていらないのに。私は私のエゴでやってるだけなんだから。

 大義とか名誉とか関係無い。ただ、貴女達兄妹が不幸になる結末など見たくなかったから……だから私はこの計画を決行した。

 かつて大好きだったキャラクター達の幸せの為に。今、二度目の時の中で仲良くなった友達の未来の為に。

 結局のところ、私の行動理由なんていつもそんなものだ。

 相棒(マクベスタ)の帰る家を守りたかった。殺人鬼(アルベルト)の願いを叶えてあげたかった。新しい友達(レオとローズ)に幸せになって欲しかった。

 そんな、他の誰かからすれば取るに足らないような理由ばかりが私の動機だった。

 死にたくないし、何を犠牲にしてでも、生き伸びて幸せになりたいと思う反面…………今の私は、皆に幸せになって欲しいと強く願うようになっていた。

 大好きな皆が幸せになってくれたら、きっと私も幸せになれるから。

 幸せが何か分からない私には、それぐらいしか幸せというものが思いつかないから───。


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― 新着の感想 ―
[一言] アミレスに断言できる幸せが出来て本当に良かった。きっとこれから先アミレスを大好きになる人は増え続けるでしょうし、この幸せ意外にも、アミレスが幸せだと感じられるようになれたらいいなぁ
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