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236.有能執事、爆誕4

「……いかがでしょうか、主君。俺は主君のご期待に添えましたか?」


 不安げに眉根を寄せて、アルベルトは私に言葉を求めて来た。

 やめろ、そんな顔をするな。イケメン執事にそんな顔されてオタクが平静を保てると思わないでくれ。


「すぅっっっっっっっっっっごく、似合ってる」


 親指を立てて、私はなんとか返事をする。我が心にて暴れ狂うオタクを必死に抑えて、ごくごく普通の返事をした。

 するとメイシアの使用人が、凄く溜めましたね……。と言いたげな表情をこちらに向けて来た。

 何よ、溜める事の何が悪いのよ(被害妄想)。オタク全開で高速詠唱しなかっただけ褒めて欲しいぐらいなんだけど!


「本当ですか? 良かったです」


 ……なんだ、この男。かっこいいのにかわいい!

 あまりの破壊力に呻き声をあげそうになったのだが、下唇を噛む事で何とかギリギリ耐えた。


「あ、ルティ。ちょっとこっち来てちょうだい」


 ぴこーんと、頭の上で豆電球が光る。

 アルベルトが大人しくこちらに来てくれたので、私は続けて少し屈むように伝えた。これまた素直に屈んだアルベルトの頭に触れて、彼の髪の毛をいじる。


「っ!?」

「せっかくだから髪型もそれっぽくした方がいいと思ったの。よし、こんなもんかな」


 驚いたのか、ピタリと石のように彼は固まっていた。その隙にと私は彼の前髪を少しだけいじり、耳にかけさせる。やっぱり耳かけのヘアスタイルはいいわね、単純だけどスマートに見えるわ。

 アルベルトは艶のある黒髪だから、こういう髪型が本当によく似合う。きっとオールバックなども似合う事だろう。

 水で鏡もどきを作って「どうかしら?」と彼自身にも見せてあげる。アルベルトはぼーっと鏡もどきに映る自分の顔を眺めていた。

 そしておもむろに顔を上げて、彼は照れ臭そうに顔を隠した。


「……これから毎日、この髪型で過ごす事にします」


 どうやら彼もあの髪型が気に入ったらしい。貴方がそれでいいのなら全然いいと思うわ。と伝えると、アルベルトは小さくはにかんで静かに後ろに控えた。

 なんでも、「お客様との時間を邪魔してしまったようですので」との事。アルベルトなりに色々と考えてくれたようだ。

 その後一時間程紅茶片手に雑談をして、夜に家族で食事をする予定があるというメイシアを見送った。

 そして、自室で結界を張ってアルベルトからの報告を聞く。


「待たせてごめんなさい。報告を聞かせてもらおうかしら?」

「はっ。三週間に渡りディジェル領の各地に潜入し調査をした結果、内乱計画の実在及びその詳細を突き止める事に成功しました」

「流石ね、アルベルト。それで……内乱は誰が何の為に起こすの?」


 実のところ、領民の誇りと尊厳を懸けた内乱が起きた──という事実をレオナードが語った事しか覚えていないので、その詳細は全くと言っていい程知らないのだ。


動機りゆうは次期大公の妻、次期大公妃が外部の人間である事。これまでの歴史上、外部の人間……ディジェル領の民ではない者がその座についた事はなく、それが領民達の尊厳を傷つけたのだそうです。ただでさえ、余所者が次期大公の妻になっただけでも伝統を尊ぶ領民の反感を買っていたというのに、更に大公妃の位にまでのし上がろうとしている為、領民達はついに怒りを声高らかに叫ぶ事にしたようです」


 アルベルトは懐からメモのようなものを取り出して、それを淡々と読み上げていく。

 しかし……そんな事情があったなんて。レオナードのお母さんがディジェル領の民じゃない人だから、あの閉塞的な地で生きている人達は怒ってるのか。

 そういう場所は、決まって伝統を重んじる傾向にあるからな…………でもそれで内乱を起こすなら、どうしてレオナードの妹を死なせたの? ディジェルの伝統を守る為の戦いで、どうしてそのディジェル領の姫君が死ぬような事になったの?

 まだまだ分からない事だらけだ。続きを聞こうと、私はアルベルトに視線を送って促した。


「ディジェル領の民の目的としましては、内乱を起こす事により『次期大公妃を領民は認めていない』事実から目を逸らし続けている次期大公にその現実を受け入れさせ、今一度伝統について考えさせる事。まず始めに大公位継承についての抗議運動を行い、それでも次期大公が何もしないと言うのであれば……やむを得ず実力行使(クーデター)に出ると」


 ──つまり、ゲームの世界では次期大公……レオナードのお父さんが領民による伝統と誇りの為の進言から目を逸らし、我を通してしまった結果、内乱へと発展した訳ね。

 そこで妹を失ったレオナードは悲しみに暮れ、その半年後とかに王城からの召喚状を受け取ってしまい、フリードルの側近になるべく半ば無理やり登城させられた。

 思い返せば……ゲームでレオナードは、『君の見ている俺は、最初からこんな人間だったらよかったのにな。っていう俺の理想そのものなんだ』みたいな闇を感じさせる台詞を言っていた。

 当時は妹を失ったショックからまだ立ち直れていないものとばかり思っていたのだが、内乱の原因が原因なだけに、彼も色々と思う所があったのかもしれないと推考する。


「決行日は次期大公が爵位を継承し、大公位に即位する即位式前日。どうやら領民は、抗議運動で済もうとも内乱に発展しようとも、最初から即位式をめちゃくちゃにするつもりのようです」

「……想像以上に厄介ね…………」


 私の計画としては、内乱が起こる前に強大な絶対悪となって、内乱を阻止し……分裂してしまった領民達を纏める指導者を用意して、そのまま領民を抑え込むつもりだった。

 だがそれは内乱の時期も動機も何も分からない状態で立てた仮組みの計画。

 ここでようやく判明した内乱の詳細。果たして私達が絶対悪となる事で内乱の──領民の怒りの矛先を私達に向ける事が出来るのだろうか。

 そもそも、優れた指導者を用意して、分裂した領民を纏めさせて……それで解決する問題なのだろうか。

 そもそもの原因を排さねば、大公領の内乱を阻止する事も妨害する事も出来ないんじゃないか? だがそれでは実力行使に出た領民と同じだ。

 計画を一から立て直す必要か出て来た。とりあえずヘブンにこの事を共有しないと。


「ふぅ……あー、もしもしヘブン? 聞こえますかー」


 机の引き出しからヘブンに渡された手鏡を取り出し、そこに向けて声を発する。そんな私をアルベルトが不思議そうに見ている。

 何となく恥ずかしく、虚しい気持ちのまま待つ事数分。

 鏡に水面のような揺らぎが現れる。普通じゃまず有り得ないその現象に言葉を失っていると、


『──なんだよ、クソガキ。こっちは今仕事中なんだが?』


 鏡に不機嫌そうなヘブンの顔が映る。

 本当に繋がってしまった……鏡の魔力って凄い。


「例の件について、とりあえず内乱が来年の一月に起こる事が分かったから共有しておこうと思って。それと……スコーピオンから連れて来る人間は少数精鋭で頼むわ。思っていたよりも厄介な案件になりそうなの」

『少数精鋭か……しょうがねぇな、こっちからは動ける奴等を何人か連れて行く。一月までに大公領に着けばいいんだな?』

「お願い。よりにもよって真冬の移動になって申し訳ないんだけど、貴方達の力も必要なの」

『取引だからな。その分後々しっかりオレ達の役に立って貰うからな、王女サマ』

「分かってるわ。そういう取引だもの」

『詳細が決まったらまた追って連絡しろ』


 そこで鏡に波紋が広がり、それはただの鏡に戻った。

 いわゆるブツ切り電話のような感じだ。感じわるーい。急に連絡寄越した私にこんな事言う権利は無さそうだけど。


「彼がスコーピオンの頭目ですね?」

「ええそうよ。色々と分かったら連絡するように言われてたの。便利よね、鏡の魔力って」

「……闇の魔力だって便利ですよ」


 アルベルトは少しムッとした表情でボソリと呟いた。


「もしかして、拗ねてる?」

「拗ねてません。嫉妬とか、そんなの全然……」


 やだ、何この子可愛い。やっぱりかっこよくてかわいいじゃないの、アルベルトは!


「ふふっ、闇の魔力の便利さもちゃんと分かってるから安心して。アルベルトの事もこれからは沢山頼るつもりだからね、覚悟しておきなさい?」


 アルベルトの顔を覗き込むように近づいて、いたずらっ子のように笑いかける。

 するとアルベルトの顔がまた赤くなった。


「っ、はい! か……覚悟しておきます!!」

「覚悟しておきますって、どんな返事よ」


 こうやって和やかに時間は過ぎてゆき、アルベルトからの報告を全て聞き終えたものの……私はどうにも仕事をする気になれず、イリオーデ達の所に合流する事にした。

 アルベルトの格好を見て師匠やマクベスタがずるい! と突然騒ぎ出したり、何故か敵対心を剥き出しにするイリオーデとアルベルトの二人で模擬試合をする事になったり……。

 夕食の時間までは、そうやって皆で汗を流していた。

 ──ちなみに。アルベルトとイリオーデの模擬試合の決着はつかず、その日以降、色んな形で競い合う仲の良い二人の姿が東宮で見られるようになった。


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