24.いざ潜入任務!3
私、メイシア、ナナラ、ユリエア、シュヴァルツの五人による作戦会議が始まった。
脱走計画の為にと、ナナラとユリエアの二人が警備担当の巡回時間や構成、この建物の大まかな構造を教えてくれた。
二人の話を元に、地面に水を使って地図を描く。
地下空間から脱出する手段はとりあえず一つしかなく、私達がここに入る際に通った道のみ。地上の建物は二階建てらしく、そのどこかに、デイリー・ケビソン子爵にこの拠点の管理を任された男の私室があるらしい。
……人身売買や奴隷取引の証拠になりそうなものは全部そこにありそうね。帳簿の写しとかがあれば、問題の早期解決の為にそれをケイリオルさんに渡したい。
それは皆を逃がしてから探すとして……地上の建物内に出たら、敵との交戦は避けられないだろう。
果たして、私一人でここにいる子供達全員を守れるのだろうか。
次いでこの拠点の警備担当の巡回時間や人数。
巡回は大体一日に三回、朝昼夜。朝と夜は食料配給も兼ねている。
基本的には商品になる子供達が病気になっていたりしないかの様子見に来るだけなのだが、その際に下手に奴隷商に楯突いたりすると、暴行を加えられたりもっと酷い目に遭ったりするそうだ。
巡回に来る人間は時間帯ごとに固定されていて、朝の巡回が三人、昼の巡回が二人、夜の巡回が三人。
ただ、ユリエア達の話によると、夜の巡回担当の人達は他の奴等と毛色が違うようで、妙に子供達に優しいらしい。
朝と比べて夜は沢山食料がもらえて、怪我等をしていればその人達が簡単な治療をしてくれるとか。
それらの情報を元に作戦を立てる。
決行は数時間後、夜の巡回が終わり、奴隷商の奴等が寝静まるであろう深夜。
檻を開ける方法はある。逃走ルートも大雑把にだが定められた。
だから本当に……問題は、私が皆を護れるかどうかなのだ。
それが一番の鬼門である。いくら私がある程度戦えるとしても、流石に大人数相手だと厳しい戦いを強いられるだろう。
それについて頭を悩ませていると、いつの間にか私の膝に頭を乗せていたシュヴァルツが、
「それならさぁ、夜の巡回の奴等を仲間に引き入れたらいーんじゃない? ぼくの所感でしかないけど、話せば何とかなると思うよぅ」
私の髪を触りながら提案してくる。
「他に案も無いし、やるだけやってみようか」
そう返すと、シュヴァルツは「おねぇちゃんの手腕次第だねぇ」と楽しげに笑った。
例の夜の巡回の人達と話す為にも私は一度牢から出た方が良いだろう。巡回に来た男に襲いかかり、脅しながら話せばきっと首を縦に振ってくれる筈だ。
牢の錠前に水を流し込み、それを氷に変える。壊れぬように慎重引っ張ると──氷の鍵が完成した。
やっぱり便利だなぁ、水の魔力って!
私が平然と鍵を開けて外に出たものだから、皆は唖然とした様子でこちらを見つめてくる。
氷の鍵をポケットに隠し、くるりと振り返ってメイシア達に告げる。
「……とりあえず、巡回の人達の事もあるから一度鍵をかけておくわね。後でまた開けるから」
皆が小さく頷いてくれたのを確認し、通路に積まれている木箱の影に隠れる。全反射も行い、準備は万端だ。
そうして待つ事数分。ついに夜の巡回の人達が現れる。
ユリエアの情報通り三人の男で、その内の一人が確かに眼帯をつけていた。
「ガキ共ー、飯の時間だ。腹減ってる奴は手ェ挙げろ、多めにやるからよ」
眼帯の男は中くらいの布袋の中からパンをいくつも取り出し、子供達に手渡していく。
その度に子供達と仲良さげに話していて、子供達もこの男達相手にはあまり怯える様子を見せない。
「ねぇおじさん、わたし達本当にこのまま知らない人のところに売られちゃうの?」
「……このままだと、そうなっちまうな」
「おじさんはどうして助けてくれないの? とっても優しいのにどうして?」
「…………っ、もう少しだけ待ってくれ、もう少しで……きっと……!!」
どこかの牢の前で眼帯の男は奥歯を噛み締めていた。
──その様子を見て、交渉次第で彼を味方に出来る。そんな確信が私の中にあった。
悔しさから拳を震わせ、申し訳無さげに子供達を見つめる眼帯の男の元に、背が低い猫目の男と筋骨隆々の男が近寄る。
「アニキ、こっち終わったよ」
「俺の方も終わったぞ」
「そうか……じゃあな、ガキ共。ゆっくり寝ろよ」
その二人と共に、早くも眼帯の男が巡回を終えてここを去ろうとしている。そんな眼帯の男を引き留めようと、私は慌てて物陰から飛び出した。
「待ちな、さいっ!」
「ぐぁっ!?」
全反射を解除し、眼帯の男の背中目掛けて勢いよく飛び蹴りをかました。
眼帯の男はそのまま前方に倒れ込み、対照的に華麗なる着地を決めた私には、周囲の視線が一気に集中する。
肝をつぶした様子の眼帯の男が、こちらを見上げてくる。そんな彼を真剣に見下ろしながら、私は提案した。
「──子供好きのお兄さん。ここにいる子供達全員を助ける為に、私と取引しませんか?」
さあ──……交渉開始だ!




