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211.暗躍しましょう。2

「……炭塵爆発。恐らく、これが理由よ」

「炭塵爆発……粉塵爆発って事か。日本でも昔そういう事故があったな」


 ハッとなったように、カイルが顎に手を当てて考え込む。


「って事は、炭鉱内で誰かが故意に火の魔力を使ったって事か? んな事したら大勢が死ぬって分かってて、わざと?」

「多分そうだと思うわ。当時の新聞によると、多くの人が作業をしていた採掘場に続く斜坑の天井が広範囲に渡って崩れる程の何かが起きたらしいから……それによって逃げられず、一酸化炭素が蔓延した炭鉱内に取り残されたんだと思う」

「このファンタジー世界でもそんなことが起きるのかよ…………誰かしら、魔法を使って脱出しようとかしなかったのか?」


 理解出来ない、と言いたげにカイルがため息をつく。

 それに関しては私も少し気になる所がある。この世界の炭鉱作業では、原則光の魔力を持つ人間を数名配置する事が決められている。

 やはりどの世界でも炭鉱作業というものは危険が付き纏うので、いつ体調不良者が出ても対応出来るよう、治癒が可能な人間がいる筈だ。

 それなのに、どうしてあんなにも死者が出てしまったのか。

 ランメル鉱山は公爵領の領主の城からもそう遠くなく、轟音を聞いて嫌な予感がしたアルブロイト公爵がすぐに騎士団を派遣して、救助活動を始めたらしい。

 轟音と共に事故が起きてから、二時間もしないうちに崩れた天井の除去も終わり救助に移れたそうなのだが……それにしては、あまりにも死者が多すぎる。

 ランメル鉱山はフォーロイト帝国内でも大きな部類の鉱山だ。それ故に、光の魔力を持つ人間も多く配置されていた筈。

 ならば、交代ごうたいで作業員達が死なないように治癒し続ければもっと多くの人が助かった筈なのに。どうしてそうしなかったの?


「魔法を使っての脱出に関しては出来なかったというのが正しいと思うわ。鉱山内は濃く強く魔力が溜まっているから、下手に大規模な魔法を使うと周りの魔力も巻き込んで肥大化するの。だから、基本的に鉱山内では魔法を使ってはならない事になっているのよ。一部の魔力を除いてね」


 そう。鉱山内では全ての魔法が通常よりも肥大化する為、原則として魔法の使用が禁じられている──光の魔力を除いて。

 光の魔力に限っては、寧ろその肥大化の恩恵を受けて魔法の効果が増す。だからこそ光の魔力を持つ者が配置されるのだが……何故か、例の鉱山事故では作業員ほぼ全員が犠牲となった。

 アルブロイト公爵家騎士団や帝都から派遣された救助隊の迅速な救助活動もむなしく、数百人近い犠牲者が出たのだ。


「あー、空間魔法とかでもない限り脱出とか出来ねぇのか」

「ええそうよ。だからこそ、万が一の時の為に光の魔力を持つ人が鉱山内での作業中にはいる筈なんだけど……」

「それにしては被害者が多い、って事か? 爆発に巻き込まれて先に死んだとかじゃねぇの?」

「それは無い……と思う。爆発が起きたのは斜坑らしいし、そんな通り道に貴重な光の魔力所持者がいるとは思えない。いるとしたら採掘場だろうし」

「じゃあなんで光の魔力所持者は仕事をしなかったんだぁ……?」

「それが謎なのよねぇ……」


 ピタリと立ち止まり、二人して腕を組み首を傾げる。

 鉱山内で事故が起きて、何人もの光の魔力所持者がいてあれ程の死者が出た事が本当に謎なのだ。何人もいて、しかも鉱山内なんだよ? どう考えても、交代ごうたいで治癒魔法を使っていれば沢山の人が助かっている筈なのに。


「職務怠慢は駄目だろ〜。全員不在とか有り得ねぇし誰かしらはいただろうに……なんで誰一人として仕事しなかったんだ?」


 腰に手を当てて、カイルは深く項垂れた。

 本当に、職務怠慢は良くないわ。助かる命も助からなくなってしまったのだか……ら……。


「ぁあああああ!! そうか、そういう事か?!」

「うおっ、どうした急に」


 強烈な気づきを得て、勢いのままに叫び声が漏れ出た。

 うっかり共通語で叫んでしまったからか、周りの人達が何事かとこちらを見てくる。恥ずかしい気持ちで「すみませんお気になさらず……」と周りに謝ってそそくさと路地裏に入る。

 そこで私は、記憶を総動員して当時見た新聞の内容を思い出し、カイルに伝えた。


「これ……恐らく鉱山にいた光の魔力所持者達は事前に殺されてたのよ」

「えっ?」


 カイルがギョッとする。


「確か鉱山事故の二日後とかにアルブロイト公爵領とベルゴート子爵領の境目で身元不明の死体が十一人発見されたの。どれも既に死んでからそこそこ時間が経ってて……顔が完全に潰されてたから身元が分からなくて、同時期に鉱山事故も起きた影響で、本当に身元の特定が不可能って言われてたわ」

「あー、成程な。鉱山事故で確実に人を殺す為に前もって光の魔力所持者を殺しておいたって事か? とんでもなく頭が回る連中じゃねぇか、海賊共……!」


 どうしてこんなにも点と点とが繋がってしまうのか。日本語で話し、奥歯を噛み締めながら冷や汗を浮かべる。

 私達の出した結論はこうだ。

 海賊が港町ルーシェで人攫いをする為に、アルブロイト公爵領南方にあるランメル鉱山で炭塵爆発を利用した事故を起こした。

 それによってアルブロイト公爵家騎士団の多くが鉱山事故の救助活動に向かい、港町ルーシェで起きた些細な問題には対応出来なくなった。

 前もって光の魔力所持者が殺されていたようで、ランメル鉱山での事故で数百人規模の死者が出てしまった。それらを炭鉱から運び出す作業や身元特定の調査などで救助隊は膨大な時間を要する事となった。

 それにより海賊は余裕をもって目的を達する事が可能に。それが近頃港町ルーシェで発生している行方不明事件なのだと。

 本当によく考えられた計画だと思う。敵ながら天晴れなんて言いたくないけれど、本当に……私みたいに考えすぎる人間じゃないと気づけないような関連性だ。

 だからこそ、気づいてしまったのならどうにかしたいと思ってしまう。今もなお、どこかで誰かが行方不明──人攫いに遭っているのだとしたら。

 ……私のお父様の国で、もう二度とそんな事を許したくない。

 そう、心の奥底から彼女が訴えかけてくる。アミレスと心が一つになる。そうよね、アミレス。人身売買を許しちゃ駄目よね。


「さて、アミレスさんよ。殺るなら夜か?」

「! ……えぇそうね。目立ちたくないもの」


 覚悟を決めた時、まるで私の心を読んだかのようにカイルがニヤリと笑う。

 この男、本当に私への理解度が高い。この件を聞いて私が海賊を懲らしめようと思った事に気づくなんて。


「海賊はそこそこ強いっておじさんが言ってたし、リーダー格っぽい奴を生け捕りして……後はもう殺してしまった方がいいわよね」

「最悪の場合はそうするしかないだろうな。大事なのは攫われた人達の解放だし、海賊共の安否は度外視でもいいか。俺達の魚料理の為にも諸悪の根源には消えてもらわねーと」


 入り組んだ路地を進みつつ、物騒な計画を立ててゆく。外道な計画には外道の計画をぶつけるしかないのよ。

 幸いにも、私は戦闘能力がある。生け捕りや防衛戦は苦手だけど、普通の戦いならばそれなりに自信がある。だからきっと大丈夫だろう。


「攫われた人達の奪還は任せてもいい? 海賊は私が蹴散らすから」

「別にいいが、一人で大丈夫か? 船何隻もあったし、海賊の数も相当多いと思うぞ?」

「多分大丈夫よ。殺してもいいのなら、有象無象に遅れをとらないわ。秘策もあるしね」

「ははっ、秘策か。それじゃあ、お前の事を信じて俺は攫われた人達の奪還優先で動くわ」


 そうやって簡単に計画を立てつつ、泊まっている宿に向かう。そして部屋に戻り、ここに来る時に着ていたシャツなどに着替える。

 日が暮れるまでの間はそれぞれの部屋で準備などをして過ごし、夜闇が空から降り注いでから、私達はローブを身に纏いフードを目深に被って町に繰り出した。



♢♢



 時は少し遡り、昼下がり。

 活気溢れる港町ルーシェの人気の無い空き地にて、一人の少女が最近出来た友達とボール遊びに興じていた。


「いっくよー、シャーリーちゃん!」

「うん! いいよ〜ミア!」

「それっ! ってあーーっ、ごめんシャーリーちゃん!」

「大丈夫だよ〜!」


 ミアの手から放たれたボールは明後日の方に飛んで行き、シャーリーはそれを追って物陰へと向かった。

 物陰に行き、キョロキョロとしてボールを探す。その最中で急な目眩がして、シャーリーはその場で蹲った。


「ぅ……」

(この、感じ……魔力で、よっちゃったのかな…っ)


 徐々に強くなる目眩と吐き気。頭痛までもがシャーリーを襲い、彼女はその場から動けなくなってしまった。

 そこに、一人の男が現れる。


「大丈夫かいお嬢さん。顔色が悪いし、おじさんと一緒においで。治してあげるよ」

「だ、れ……んぐっ!?」


 男は鋭くニィッと笑い、シャーリーの口元に薬が塗られた布を当てた。その匂いを嗅いで、シャーリーは意識を失った。


「やあ、お嬢ちゃん。突然で悪いが、俺達と一緒に来てもらうよ」

「え? おじさん誰──っ」


 それと同時に、シャーリーがボールを見つけて戻って来るのを待っていたミアも謎の男に声をかけられ、同様に眠らされていた。

 ミアを麻袋に入れた男が「そっちはどうだ?」ともう一人の男に近寄り声をかける。もう一人の男は慣れた手つきでシャーリーを麻袋に入れて持ち上げ、「こっちも楽勝だ」と下卑た笑みを浮かべた。

 そして二つの麻袋を運搬用の木箱に入れ、それを持った男達は高笑いを上げながら港の外れに向かっていった。


これより少しの間、しょっちゅう視点が切り替わります。

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