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203.カジノ・スコーピオン

 会場に入ってすぐ、受付で会員証の提示を求められた。会員証一つにつき一名まで同伴者が許されるので、その点は難無くクリア。そこで「年齢をお伺いします」と年齢確認が行われたので、


「十七歳です」

「俺は十六歳です」


 私は平然とサバを読んだ。嘘はついていない。前世が推定享年十七歳だもん、嘘ではない。

 そしてカイルが大真面目に実年齢を答えた事により、カジノにあるらしい嘘発見機みたいな魔導具も特に反応は無し。ちなみにこれは、アルベルト情報でまだ未完成の物らしく、六割の確率で嘘かどうかを見破る代物のようで……まぁあまり警戒する必要の無い魔導具だ。


「では最後に所持品検査の方に移ります。こちらのゲートを通ってください」


 所持品検査? とカイルが一瞬目を丸くした。


「カジノ・スコーピオンは絶対に不正を許さないカジノなのよ。だから、魔導具を使った不正が出来ないよう、余程の事情が無い限りは魔導具が持ち込めないようになって……る……の…………」


 何も知らないカイルの為に説明した時、私はふと思い出してしまった。そういえば、カイルって今めちゃくちゃ普通に魔導具持ってるわよ!? 何でこの事を事前に言っておかなかったの私!!

 ハッとなり、一気に顔から血の気が引けてゆく。しかしそんな私の焦りや混乱も気にせず、


「お客様の仰る通りです。平等と公正を当カジノは重んじておりますので」

「こうやってしっかり管理する体制が整っているなんて、凄いですね」

「我が社自慢の技術ですので」

「俺も趣味で魔導具を作ってるので、どんな仕組みか気になりますね」

「ふむ……スコーピオン社の説明会が今度ありますので、そこでならば仕組みの説明もあるかもしれませんよ」

「本当ですか? いいですね、会社説明会!」


 受付の男性と談笑していた。何でそんな仲良く話してるの? そんな場合じゃないでしょ? 危機感無いの??

 愕然としている私を置いて、カイルは堂々とした態度でゲートを通った。空港の金属探知機のようなゲートをくぐり、魔導具を持っているとバレたら──……そんな恐怖からハラハラとしていたのだが、何故かゲートは無反応。

 あれ、どういう事……? だって今、カイルはサベイランスちゃんを持ってるのよ? ゲートの誤作動とか……?

 状況に理解が追いつかず、私はその場で立ち尽くしていた。するとゲートの向こうから、カイルが「お前も早く来いよー」と手招きする。

 とりあえず受付の男性に会釈して、ゲートを通る。換金所を目指しながら私はカイルに問いただした。


「ねぇさっきのどういう事なの? あんたサベイランスちゃんを持ってるんじゃあ……」

「俺のサベイランスちゃんをそんじょそこらの魔導具と一緒にするなっての。起動しない限りサベイランスちゃんはただの魔石が組み込まれただけの箱。ああいう類の魔導具に引っ掛かる事はないんだよ」


 自慢げにペラペラと語るカイル。成程ね、あの堂々とした態度は確かな自信から来たものだったのか。

 何はともあれ、私はホッと胸を撫で下ろした。


「よかった……私が言い忘れてたからあんたの相棒が没収されたりするかも、って凄く怖かったわ……」

「まぁもし没収されたとしても、サベイランスちゃんに限ってはいつでもどこでも俺の元に召喚出来るから問題ねぇけどな」

「マジか」


 サラッととんでもない事言うわね。思わず素が出てしまったじゃないの。私の白夜みたいなものなのね、サベイランスちゃんは。


「まぁとにかく。サベイランスちゃんの事は心配いらねーし、ほら、行こうぜ換金所」

「それもそうね、行きましょうか」


 エスコートをしようとでも思ったのか、カイルがニッと笑って手を差し出して来る。そこに手を重ねて、大人しく彼のエスコートを受ける事にした。

 ……凄いわ。今更だけど、私、今攻略対象のエスコートを受けてるじゃないの。元々敵役なのに。ゲームではカイルとアミレスの絡みなんて無いに等しかったし、こうしてカイルと一緒にいる事がそもそも凄い事なんだけどね。

 換金所についた私達は、それぞれ氷銀貨十枚分のチップ五十枚を手についにギャンブルに挑戦する。とりあえず一旦チップ増やさね? とカイルが言うので、じゃあ何をするのかという話になった。

 そこで技術も何もいらない初心者向けのルーレットを選択。私はあまり運がいい方ではないので、ここは豪運を自称するカイルに任せてみる事にした。

 ──その結果。


「おい見ろよあのガキ、さっきから何連勝してんだ?」

「運がいいにも程があるだろ……」

「チップの数が異常だ」

「同卓の奴等死にそうな顔してるぞ」

「賭博の神に愛されてやがる……」


 カイルの前には今や約五百枚のチップがある。カイルは何とも怖いもの知らずでめちゃくちゃなベットを繰り返し、毎回賭けに勝利していた。そりゃあもう、ディーラーも目がひっくり返ってる。

 ものの数分でチップが十倍になったんだもの。自称するだけはあって、カイルの豪運がとんでもないわ。流石は神に愛されすぎた男……持てるステータス全部駆使していくわね。簡単には説明がつかない豪運っぷりよ。

 そんなカイルの快進撃を見ようと周りには見物客が多くいて、口々にカイルの運の良さを羨んでいる。

 しかしカイルはチップを専用の箱に入れて立ち上がり、ここでゲームを降りた。丁度、カイルに大敗を喫して意気消沈していた人達が席を離れ始めたからだと思う。

 箱を手に私の元まで駆け寄って来たカイルは、


「どうよ、俺のこの豪運っぷり。物の見事にチップが増えたぜ?」


 随分とまあ楽しそうなしたり顔を作った。


「貴方の豪運を舐めてたわ。凄すぎて周りに引かれてるわよ?」

「天才とは常人に理解されないものだからな、致し方無し」

「何かムカつくわね、その言い方」


 軽口を叩きながら、ついでに私の分のチップもカイルの持つ大きな箱の中に入れる。サービスのドリンクを手に取り、ひとまず壁際まで移動してから次はどうするかと話し合う。

 カイルが完全に運ゲーのゲームなら負ける気はしない。と言うので次はダイスゲームに。邪魔になってはいけないので、私は少し離れた所からそのゲームの光景を眺めていた。

 名称やルールは分からないが、どうやら三つのダイスを投げてその合計を当てるゲームのようだ。他の挑戦者達が慎重に「大!」「奇数」と言ってチップを置いていく中、カイルは毎度適当に思いついただけの数字を口にしてチップを置いては、周りの大人達に「これだからカジノを知らん子供は……」みたいな視線と薄ら笑いを向けられていたのだが。

 お決まりの流れだろうか。いっそ恐怖すら覚える程にカイルはドンピシャで当て続けていった。他にも当てている挑戦者達がいたのだが、毎度ドンピシャで当てて夥しい量のチップを手に入れていた。

 周りからも一周回って引かれ始めた中で、ついにカイルが大勝負に出た。


「んー、じゃあ次で最後にすっかなぁ。五のゾロ目にオールインで」


 ニヤリと笑うカイルがチップの入った箱をドンッと卓に置いて宣言する。それには周囲の見物客達も大騒ぎ。あまりにも無謀な挑戦だと、どよめきだす。しかし、それと同時に見物客達は興奮していた。

 ここまで脅威的な運を発揮してきたあの子供なら本当にやりかねない。私達は今、滅多に見られない大勝負を目撃しているのではないか──。

 そう、誰もがカイルに強く視線を集めた。

 ……ところで、その箱の中には私の分のチップも入ってるのだけど。さっきあの箱の中に入れておくんじゃなかったわ。

 こんな時に何を小さな事を、と文句を言われてしまいそうな事を考えつつ私は勝負の行く末を見守る。緊迫した空気の中誰もが固唾を飲んで出目を見た、その時だった。


「お、オール五のゾロ目……です……っ!!」


 ディーラーもまた興奮を抑えきれない様子で、震える声で呟いた。その瞬間、辺りは大歓声に包まれる。ヒューヒュー! と大盛り上がりのフロア。その中心で足と腕を組みふんぞり返ったあのチート野郎は、


「神に愛されるってのはこういう事を言うんだぜ?」


 鼻持ちならない顔を作った。カイルがそれ言うと、もう二度と全世界の人が神に愛されてるとか言えなくなるのよ。貴方みたいな本当に神に愛された人が言うとね。

 先程とは比べ物にならない程、山のように積まれた夥しい量のチップを大きな箱二個に分けて入れて、運営に台車を借りてそれに乗せて移動する。

 当然だが注目される。私の隣で呑気にサービスのドリンクを味わっているこの男の噂は既に広まっているようで、ただ歩いているだけで「アイツが例の……?」「今日だけで勝ちまくってるガキってあの金髪の事か?」とヒソヒソ話が聞こえてくる。

 その流れ弾で連れの私まで注目されている。とほほ……私は何もしてないのに。


「そういえば、お前は何もゲームしないの?」


 チップが沢山入った箱を載せた台車を押しながら、カイルが話題を振ってくる。

 確かに、今のところ私は何もしていない。ただカイルが異様な豪運で勝ち続けているのを、ドリンク片手に眺めているだけだ。そんな私にカイルは疑問を抱いたようだ。


「一応、一つだけやろうと思ってたゲームがあるわよ」

「なんのゲーム?」

「ブラックジャックよ」


 恐らく、運がいい方ではない私にカジノで出来るゲームはこれぐらいしか無い。だから、最初から私はブラックジャックだけをプレイする予定だったのだ。


「え、何でブラックジャック? ポーカーとかじゃ駄目なん?」

「唯一私でも出来そうなゲームだからよ」


 どういう事? とばかりにカイルが首を傾げる。

 私が何故ブラックジャックに固執するのか。それは簡単な事。あれだけは記憶力と戦略でどうにかなる可能性があるからだ。

 カジノ・スコーピオンは絶対に不正を許さない。なので、この世界にカードカウンティングという概念があるかどうかの賭けになる。

 ……あまり覚えていないのだが、前世で私はこれを習得していたのだと思う。誰か、親しいような親しくないような人に教えて貰ったような気がする。

『───記憶力のいいおまえは、こういう技を持っておいた方がいいだろう。いずれ、必ず役に立つからな』

 優しい声と、大きな手で、そのひとは私に色んな事を教えてくれた。そのひとの顔も名前も、『私』との関係も分からないけれど、その声だけは覚えている。

 人は人を忘れる時、まず声から忘れると言うけれど……どうして私は声だけを覚えているのだろうか。どうして私自身の事は何も覚えていないのに、この言葉だけは覚えているのだろうか。


「お、カードゲームをやってる区画はあの辺っぽいぞ」


 カイルの声で現実に引き戻される。彼の指さした方向では、確かにいくつものカードゲームが行われているようだった。その中に、目的のブラックジャックの卓もあった。今行われているゲームが終わるまで、ディーラーを観察して待つ事に。

 その間も暇だからと台車を私に預けてカイルが近くの卓にポーカーをしに行き、やがて彼が向かった方からは度々どよめきが聞こえてくるようになった。

 あいつ、ルーレットやダイスゲームに限らずどんなゲームでも豪運発動するのね……チートにも程があるわ。

 おっと。カイルの事は置いておいて観察を再開しよう。しかし、流石はスコーピオンの精鋭ディーラーと言うべきか、特に収穫は無い。落胆し、はぁ……とため息をついた時。


「あのディーラーは特に隙が無いと有名なんだ。あの卓では完全な運と実力が問われるのさ」


 突然、後方から見知らぬイケメンが声をかけて来た。

 何故ディーラーを観察していたのがバレた? と驚いていると、イケメンお兄さんはニコリと笑って一礼した。


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