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202,5.ある者達の困惑

デート発言の後の東宮サイドの閑話です。

 時は少し遡り、アミレスが爆弾を落として出掛けてしまった後の事。東宮に残された者達はこれでもかという程に錯乱し、騒いでいた。


「ほんっっっっっとに意味分かんないんだけど! なんでおねぇちゃんがアイツとデートするワケ!?」

「そもそもデートとはなんじゃ」

「逢瀬の事だよ!! ちくしょうあんのクソガキ、生意気にも魔法を隠蔽しやがって! 転移先分かんなくて捜しようもねぇじゃん!!!!」


 シュヴァルツが怒りを叫び体をくねらせ、頭をわしゃわしゃと掻き乱す。彼にとってあまりにも予想外の面白くない事態に、人間シュヴァルツの演技が疎かになっているようだ。

 何故ここまでシュヴァルツが不機嫌全開なのか。それは当然、姿を消したアミレスとカイルに起因する。

 カイル──サベイランスちゃんの最も恐ろしい性能が、ズバリ魔法の隠蔽なのである。本来魔法というものは使用した際にその場に暫くは魔力が残留し、魔力に敏感な者や魔法に精通した者であればそこで魔法が使われたと分かる。

 更に、悪魔や精霊と言った魔力や魔法と密接に関わる存在であれば、その魔法が『どのように』使われたかなども読み取る事が出来てしまうのだ。

 なのでシュヴァルツはカイルが魔法を使用した場所を突き止め、残留する魔力を読み取り転移先を把握して邪魔しに行こう──……と思ったのだが。

 ここでサベイランスちゃんの性能が光る。

 本来魔法というものは体内の魔力炉で生成された魔力を体外に排出、ないし体内で循環させて発動するもの。空間魔法などの中〜大規模な魔法に関しては前者に当てはまる事だろう。なので普通ならば空間魔法を使えば、転移先の指定や魔法発動までの僅かな時間だけでもその場に魔力が残留してしまい、見る人が見れば行く先も大まかに把握されてしまう。

 しかし、サベイランスちゃんは本来体外で行うそれらの作業のほぼ全てを本機で行う為、魔法を発動する瞬間にしか魔力が溢れない。しかもその溢れた魔力は、魔法プログラム発動きどうする為のスイッチでしかない。何せ魔法発動に必要な全てを、サベイランスちゃんが最高効率で行ってくれるのだから。

 よって、その場に魔力が残留しようとも行先などが把握される事はまず無い。

 そんな人間離れした魔法の隠蔽をカイルがやってのけたので、この悪魔は更に虫の居所を悪くしているのだ。


「逢瀬…………ハッ! アミレスとカイルはつがいじゃったのかえ?!」

「「ちっげーーーーし!!」」


 ナトラの勘違いに、シュヴァルツとエンヴィーが強く反論する。その勢いに圧倒され、ナトラは肩を跳ねさせた。


「な、何でそんなに怒るのじゃ……逢瀬とは番がするものであろう…………我、何も間違っておらんのじゃ……」


 ボソボソと呟き、肩をすぼめてナトラは不貞腐れる。

 これに関してはナトラに全く非は無い。悪いのはそこの心が狭すぎる男二人である。アミレスが人間の男と二人で出掛けただけでこの騒ぎっぷりなのだから。

 彼等はとても心が狭いので、アミレスに恋人だとか、そんな存在が出来る事を許容出来ないらしい。


「クソッ、制約さえ無けりゃカイルの事だって殺せたのに……!」

「帰って来たら絶ッ対カイルの顔面ぶん殴ってやる……ぼくだってまだアイツと二人で出掛けるとかそんな面白い事出来てないのに何人間の分際で先に体験してんだよ絶対に許さねぇ」


 何と醜い嫉妬だろうか。これが火の最上位精霊と人間に擬態した悪魔である。


「……王女殿下が、デート……王女殿下に、恋人……」


 ぶつぶつと呪詛を放つシュヴァルツの横では、イリオーデが死人のような顔で茫然自失としている。

 イリオーデはつい昨日さくじつ、兄のアランバルトよりアミレスの婚約者を用意する方針でケイリオルが動き出した事を聞いたばかりだった。ただでさえ、その事で思い通りにならない己の感情に思い悩んでいたというのに、そこにあの発言──『カイルとデートしてくる』という、特大の爆弾が落とされたとあれば。

 さしものイリオーデといえども、狂惑の迷宮に迷い込むというもの。出口の見えない迷宮の中で、困惑や恐怖や迷いに足を搦め取られて、その場で立ち尽くす事しか出来なかった。

 面白くない事態に発狂するシュヴァルツ、静かに怒りと嫉妬が燃え盛るエンヴィー、理不尽に怒られて拗ねるナトラ、案山子のように呆然と立ち尽くすイリオーデ。

 そんな混沌極まるこの場に、更なる被害者が現れた。


「東宮にいないからどこにいるのかと思い、捜していたが……皆してこんな所で何をしているんだ?」


 オセロマイト王国からの正式な使節として、両国の親交の橋渡しにと王城に滞在するマクベスタが、その王城から東宮までやって来た。使節らしい礼服に身を包み、愛剣を腰に帯びて混沌とした場に接近する。

 ここはカイルとアミレスが待ち合わせに用いた木陰。この面子がこんな所に集まる理由というものが、マクベスタにはてんで分からないようだ。


「それに、アミレスもいない。一体どうしたんだ?」


 キョロキョロと辺りを見渡して、マクベスタは首を傾げる。


「…………心して聞けよ、マクベスタ」

(心して聞け、なんて。一体何が……?!)


 エンヴィーがあまりにも重苦しく口を切った為、マクベスタは固唾を飲み話を聞く姿勢に移った。


「姫さんが、カイルとデートするとか言ってどこかに消えた」


 頬に青筋を浮かべ、地獄より這い出た魔物かのような低い声でエンヴィーは告げる。

 ピタッと停止したマクベスタの体。その顔からは表情が消え、唯一、丸くなった瞳だけが彼の心情を表しているかのようだった。


「──え?」


 時間差だった。暫しの間現実を受け入れる事が出来なかったマクベスタは、通常よりも多くの時間をかけて、ゆっくりとエンヴィーの言葉を咀嚼して飲み込んだのだ。


(アミレスとカイルがデート? 何故? デート……でーと、でえと? デートって、何だっけ…………)


 やがてマクベスタの顔が徐々に青く染まりゆき、全身が小刻みに震え始める。その脳内はゲシュタルト崩壊していた。

 アミレスに告白しないとは決めているものの、マクベスタのアミレスへの想いは日々募り膨らむばかり。ショックはそれなりに受けてしまうのだ。


「あ、あああ、アミレスは、カイルと……恋人……だったのか……?」


 今にも泣き出しそうな顔でマクベスタが呟くと、


「「だからちげーーーよ!!!!」」


 またもやシュヴァルツとエンヴィーが強く反論する。

 二人の勢いにこれまた圧倒されつつも、マクベスタは食い気味に否定された事で、僅かながらも胸を撫で下ろしていた。


「そ、そうか……だが、デートとは、恋人がするものなんじゃ……」

「この流れさっきやったっつーの! おねぇちゃんとカイルが恋人とか絶ッ対に認めないからな、ぼくは!!」


 純粋な青少年たるマクベスタは、デートという行為が恋人同士でのみ発生するものだと認識していた。それ故に浮かび上がった疑問が、先程のナトラのものと全く変わらないものだったのだ。

 天丼のごとき展開を、シュヴァルツが一刀両断する。別にアミレスが誰と恋仲になろうとも、シュヴァルツに許可を貰い認めて貰う必要は微塵も無いのだが。

 こうして彼等は、混沌の中でカイルへの殺意を募らせてゆく事になる。

 遂には、どうにかして二人の行先を突き止めようと彼等は一致団結した。それぞれの仕事などそっちのけで、行先を突き止める為の調査などに躍り出る。が、その結果は惨敗。

 カイルの才能──……サベイランスちゃんの性能を彼等は実感する事となったのだ。

 その為。果たしていつになるかは分からないが……アミレスとカイルが東宮に戻って来た時、二人が彼等から強く問い詰められ、カイルが袋叩きに遭うであろう事は想像にかたくない。

 こればかりは、『デートと言えば誰にも邪魔されないだろう』と勘違いしたアミレスの大いなる過ちであるといえよう。まったくもって、自業自得である。


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