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172.絢爛豪華なパーティー2

「折角だから貴方達の名前を聞いておこうかしら。何かとお世話になってるもの」


 初めてのパーティーでそれなりに緊張していたのだが、見知った顔に会えた事でそれが少し和らいだ。そのお礼も兼ねて、『皇族に顔と名前を覚えられる』誉れを贈る事にしたのだ。

 例え皇帝と皇太子に嫌われる野蛮王女と言えども、皇族である事に変わりはないからね。


「じ、自分はマルキント・ソーティと言います!」

「俺はクレイブルムです! 平民出身です!!」


 ビシッと敬礼しながら、騎士達が名乗る。

 後輩君は平民で……先輩君はソーティ男爵家の人間ね。最近見たわ、その家名。ソーティ男爵家は確か今男三人兄弟で……長男が嫡子で次男は既に他家に婿入りしている。

 つまり彼は三男で、彼以外には騎士もいない筈だ。なら家名で呼んだ方がいいわよね。いきなり名前で呼ぶなんて馴れ馴れしいもの。

 それにしても…………身分差に囚われずかなり仲良くやっているのね、この騎士達は。とってもいい事だと思うわ、それ。


「そう。ソーティ卿、クレイブルム卿。これからも帝国に仕えし騎士として世の為人の為励んでくださいまし」

「「ッ、はい!!」」


 隣から謎の圧を感じつつも彼等に向けてニコリと微笑みかけると、ソーティ卿とクレイブルム卿は顔を真っ赤にして大きく返事した。

 それじゃあ中に入りましょうか。とドアノブに手をかけようとした時、ソーティ卿からの「お待ちください」という制止の言葉が。


「王女殿下の入場の際に絶対に行うように仰せつかっている事がありまして」


 ソーティ卿とクレイブルム卿が、まだほの赤い顔でアイコンタクトを取って頷き合う。

 一体何をするつもりなのかと首を傾げる私を置いて、騎士達は扉の前に改めて立ち、そして大きく息を吸った。


「「──フォーロイト帝国が第一王女、アミレス・ヘル・フォーロイト王女殿下のご入場です!!」」


 耳にビリビリと響く大きな声。広く長い廊下にこだまするその言葉は、きっと会場内にも届いた事だろう。

 …………え? 何その、皇帝とかが入場する時に言われそうなやつ。


「それでは王女殿下、パーティーをどうかお楽しみください」

「行ってらっしゃいませ!」


 ぽかーんとする中、やり切った顔の騎士達によって目の前の扉がゆっくりと開かれる。


「王女殿下。御手をどうぞ」


 まだ理解が追いついていないのだが、イリオーデがエスコートの為に腕を差し出して来たのでひとまず腕を絡める。

 緊張や恐怖よりも困惑が勝る状況で私はパーティー会場に足を踏み入れた。


 ざわっ…………


 私の登場に、会場が一気にどよめきだす。人々の好奇や畏怖の視線が一点に集中する。

 あのドレスは何? 青い髪……まさか本当にランディグランジュ家が? 野蛮王女がパーティーに出てくるなんて。

 ……そんな言葉が次々に聞こえてくる。やはり重役出勤は目立つわね。

 自然に会場を見渡してみるも、皇帝の姿は見えない。とりあえず首の皮一枚繋がったわ。

 その代わりに、令嬢達に囲まれるフリードルを見つけてしまった。気は乗らないけど、主役に挨拶しないのはどうかと思うし……仕方ないからちゃんと挨拶しにいきましょうか。


「イリオーデ、兄様の所に行きましょう」

「ご無理はされない方が……」

「大丈夫よ。その辺りの折り合いはもうつけてあるから。心配してくれてありがとう」

「…………私には勿体無い言葉にございます。騎士が主君の身を案じるのは当然の事ですので」


 イリオーデはキリリとした面持ちで、それが当然とばかりに言い切る。


「流石は私の騎士ね」


 ふふっ、と笑いをこぼす。するとイリオーデも嬉しそうな顔をしていて、僅かにあった緊張は完全に解れた。

 そんなほんわかした空気の中。フリードルに群がる蟻……、令嬢達の群れにまで辿り着くと、私に気づいた令嬢達がハッと顔を青ざめさせてスサササッと道をあけた。

 わざとらしく笑顔を貼り付けているので、恐怖を覚えたのだろう。モーセが海を割ったかのように開かれた道は、まっすぐにフリードルの元まで続いている。

 社交界のマナーに則り、私は小さく会釈してその道を進んでゆく。多くの人達の視線を後頭部に感じつつも、フリードルの前で立ち止まり優雅に一礼する。


「……──御機嫌よう、お兄様。十五歳のお誕生日、お喜び申し上げます。わたくしからのプレゼントはまた明日、お兄様の誕生日に改めてお祝いの言葉と共に贈らせてくださいまし」


 ふふーんっ、どうよこの完璧な所作! 元々ハイラに仕込まれていたからそれなりには出来たけれど、この一週間のうちに、名簿の暗記や仕事のついでに復習しておいたから自信はあるのよ!

 アミレスの社交界デビューだもの。絶対に失敗は許されない……そりゃあ、寝る間も惜しんで最後の追い込みをかけておくってものよ。


「そうか。まさかお前から面と向かって祝われるとは思わなかったな」


 フリードルの瞳が冷たく私を見下ろす。

 私に祝うつもりもなければ、そもそも貴方はアミレスに会おうとしてなかったんだから。面と向かって祝える訳がないでしょう。


わたくしが不甲斐ない妹なばかりに、これまでお兄様のお誕生日をきちんとお祝いする事が出来ず、恥ずかしい限りです。ですので今年はとても嬉しく思いますわ。こうして、お兄様のお誕生日をお祝いする栄誉にあずかれたのですから」


 今ばかりは私の感情よりもアミレスの感情が優先だ。なのでここは健気な妹を演じよう。我が演技力、とくとご照覧あれ。


「……体調はどうなんだ」

「はい?」


 フリードルがボソリと呟いた。意味が分からなくて、つい反射的に聞き返してしまう。


「体調はどうなのかと聞いている。以前自ら意識を絶っただろう…………あの日の事が、あまりにも不可解で仕方無かった」


 ああ、あの日の事か。不可解って……本当にこの男はどこまでも心無いのね。特に期待もしていなかったからダメージは少ないけれど、それでも心が痛まない訳では無い。

 それに、あの日の事は説明が難しいのだ。実を言うとシルフ達にも意識を絶った本当の理由は話していないのだから。


「その節はご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございません。あの日はとても体調が悪く……お兄様の前で恥を晒すぐらいならと、自ら意識を絶ちました。あれ以来体調も快復し、今は健康ですのでご心配には及びませんわ。お心を砕いてくださり、誠にありがとうございます。お兄様」


 今日の主役はフリードルだ。流石に主役を立てねばなるまい。なので妹を気遣う優しい兄という構図になるよう誘導してみた。

 勿論それだけが理由ではない。

 私は天才だから気づいてしまった……フリードルに楯突く事で衝動的に殺される可能性も全然ある事を。

 これまで顔を合わせる度に喧嘩腰で相対していたのだから、当然好感度なんて底辺も底辺。寧ろマイナスまで落ちまくっている事だろう。

 だから今更ではあるが、こうして世間のイメージ改善に務め、皇帝だけでなくフリードルにとっても役に立つ存在なのだと示す事にした。忘れていたが、この男も私の死亡フラグを強く握っているのだから当然だ。

 今更取り繕っても無駄かもしれないけどね。一応やれる限りの事はやっておきたいのだ。


「……埒が明かないな、この話はこれで終わりだ。父上がお前に与えたこの機会、決して無駄にするな。良いな?」

「えぇ、当然ですわ。どうぞ……わたくしの事は気にせずこのパーティーを心ゆくままにお楽しみくださいませ、お兄様」


 礼儀として挨拶に来ただけだもの。フリードルの方から離れてくれるのならこれ以上の事は無いわ。

 イキイキとした笑顔でフリードルを送り出す。その様子が気に食わないのか、フリードルは一度強くこちらを睨み、やがて不服ながらも踵を返した。

 勝ちましたわ〜〜〜〜っ! いつもは私から離れていたのに、今日はフリードルから離れさせる事が出来たわ! これは間違いなく大いなる進歩…………いつの間にかレスバが強くなっていたのかもしれないわ。


「ふぅ……そう言えばイリオーデは終始無言だったけれど、兄様とも昔会った事があったんでしょう? 何か積もる話とか無かったの?」


 自然にイリオーデの腕にもたれ掛かり、エスコートされている風に見せ掛けながら移動する。だってあの場所、狩人みたいな目をした令嬢達に囲まれていたから怖かったのよ。

 その際、ふと気になった事を口にしたのだ。


「いえ、特には。それに皇族の方々の会話に割って入るような愚行は犯しませんよ」

「あらそうなの。あっ、あそこの立食区画に行きましょう。ダンスの時間までは食事を楽しむ事にするわ」

「は、仰せのままに」


 イリオーデはどうやら本当にアミレスの事以外はどうでもいいらしく、フリードルとの積もる話とかは特に無いようだ。

 本人がそれでいいのならと、私はとりあえず立食用のテーブルが立ち並ぶ区画に視線を送り、イリオーデとそちらへ向かう。

 あくまでも王女の品位を保つ必要があるので、いつもの様に食事をする事は不可能だが……それでも多少は私も楽しめるだろうと踏んだのだ。

 そして私は堂々とスイーツを頬張る。あくまでも王女らしく。あくまでも上品にスイーツを堪能する。

 食べたい物を指定すると、イリオーデが全部持って来てくれるので私はほとんど一歩も動かず様々なスイーツを堪能していた。

 王女の私が毒味の一つもさせず、すぐにスイーツを頬張った事に周りは驚いていた。しかしそれも束の間、親鴨に続く小鴨のように、「王女殿下がお食べになるなら……」と続々と立食に手を出す人が現れ始めた。

 そんな人々から注目を浴びるのはシュークリーム。前にふと食べたくなって、ダメ元でシャンパージュ伯爵にある程度の作り方を教えたところ、何と完璧に再現されたのだ。

 それがシャンパー商会のスイーツ店から販売され、今では若い世代を中心に大人気なのだとか。なんと、ついに王城でのパーティーにまで進出するレベルに至ったらしい。

 まぁ、シュークリームって本当に美味しいし。人気が出るのも当然よね。

 しかしそれにしてもシャンパー商会の力が凄まじい。本当に何なのかしら、あの商会。何でも出来るじゃない。

 ……今度あれも頼んでみようかしら。ブリオッシュ。

 オタクとしては一度でいいからおやつに食べてみたいのよねぇ、ブリオッシュ。確かパンの一種よねあれ。何とかしてこの世界で再現出来ないかしら。


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