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135.狙うはハッピーエンド2

「とにかく、アンヘルのルートを潰す方針で行くか」

「潰すって言うけど具体的には何をするの?」

「具体的には……ってそりゃあ、ほら、アレだよ。だから潰すんだよ」


 考えてなかったのね……あからさまにカイルの目が泳いでいるわ。


「あー、そうだ! ミシェルがそのルートには進めないように先手を打つってのはどうだ。出会いやその他主要イベントを俺達で全部台無しにする──ってかもうアレだな、ほぼ全キャラのルートを潰せばいいんだ、俺達で! そんで俺達が選んだ一人のルートにしか進めないようにするとか! これでどうよ!!」


 随分とまぁしたり顔でカイルが活き活きと語る。開き直ったわねこいつ。

 しかし……そうか、ルートを絞るなんて選択肢があったのか。確かにそれならば、私も死ににくくなるし何が起こるか分かるから対処もしやすくなる。

 確かに一理あるわね。


「仮にそうするとして、誰のルートを選ぶかが問題よね」

「フリードルと俺は無しって事でおけ?」

「いいわよ、私としてもフリードルのルートに進む事は阻止したいわ」

「よし。マクベスタ……も多分無理だろ、前提変わったし」

「そうなの? じゃあ彼も除外ね」


 二人で色々と話し合いながら候補を絞ってゆく。残る候補は四人……ミカリア、ロイ、セインカラッド、サラだ。


「つっても神殿都市組はイベント阻止が難しいよなぁ……俺達も神殿都市に行かなきゃ無理だし」

「やっぱりそうね……神殿都市組の出会いを阻止するとなると、そもそも神殿都市に行く理由を無くす必要があるもの」

「むずくね?」

「むずいわね」


 うーん、と二人で唸る。

 ロイは最初からミシェルちゃんと共にいるから出会いそのものを阻止するのは不可能。しかし他の三人は出会いの阻止も可能だ。

 そもそもミシェルちゃんとロイが神殿都市に行かなければミカリアとセインカラッドとサラとは出会わない。逆に、ミシェルちゃんとロイが神殿都市に行ってもセインカラッドとサラが神殿都市に行かなければ、ミシェルちゃんとは当然出会わない。

 ミシェルちゃんとロイが神殿都市に行く事になる原因は、魔物の行進(イースター)と呼ばれる不定期に起きる魔物の大量発生イベントで住む村が襲われたからだ。

 そこでミシェルちゃんの天の加護属性ギフトが発現し、それが切っ掛けで同時に身寄りが無くなったロイと共に国教会に保護される。そんな経緯で二人は神殿都市に行くのだ。

 つまり、魔物の行進(イースター)でミシェルちゃんの住む村が襲われるのを阻止したら──そもそもミシェルちゃんが天の加護属性ギフトを発現する事も、世界の命運を背負わされる事も、神殿都市に行く事も無くなるんじゃあないのか?

 ミシェルちゃんがいなければ厄災を打倒出来ないという不安があるものの、最悪の場合ミカリアを動員すればいい訳だし。ここにいるカイルとかいうチート野郎を全力で酷使すればワンチャンあるかもしれない。

 これをA案としよう。次はB案、セインカラッドとサラが神殿都市に行く理由を無くす方だが…………こっちはかなり難しい。

 何せハーフエルフのセインカラッドは故郷の森が大火災で失われ国教会に保護されて、サラは諜報部としての仕事──皇帝からの勅命で神殿都市に潜入調査をする事になり、神殿都市に行く。

 こちらの理由を無かった事にすると言う事は、自然災害と皇帝の勅命を覆す必要があるのだ。めちゃくちゃ難しい。

 それならば、魔物の行進(イースター)によるミシェルちゃんの村壊滅スタートを阻止する方が簡単だ。ていうか何、ゲーム始まった瞬間に人々の阿鼻叫喚とヒロインの慟哭で始まる乙女ゲームって。改めて考えると凄いわね。

 うーん、やっぱり神殿都市組の出会いそのものを阻止するのは難しそうね…………。


「とりあえず、個人的にはロイかミカリアのルートがいいと思うんだけど」

「俺もそこまでは絞った。で、どっちの方が俺達が安全かと聞かれれば間違いなくミカリアだな。ロイのルートだと戦争も起きるし厄災も出てくるからな」

「ミカリアのルートだと戦争は起きないし厄災もぱぱーっと片付くから私達は安全ね、バットエンドにさえ行かなければ」

「ミカリアのルートでバットエンド行った瞬間に帝国は滅ぶからなァ……」


 ハハハハ、と乾いた笑いを二人であげる。

 じゃあミカリア以外のルートは全力で潰す感じで行こうか、と話を進めた所で「でもさ」とカイルの待ったが入る。


「ロイの奴、ぶっちゃけ最初から好感度カンストみたいな所あるじゃん。果たしてミカリア以外のルート全潰しで何とかなるのか?」

「まぁそこは……自分のルート以外で毎回虚しくもフラれた不憫系ヤンデレサイコワンちゃんを信じよう。多分ミカリアならロイに噛みつかれても小指で跳ね除けられるわよ」


 乙女ゲームに出てくる幼馴染み攻略対象の宿命、自分のルート以外は毎度フラれる。当然の事だがロイもゲームでその洗礼を受けている。

 ロイの凄い所は、自分以外のルートでは闇堕ちしてミシェルちゃんに選ばれた攻略対象を殺そうとする所だ。前作組のバットエンドの中にはロイが原因のものも幾つかある。

 流石はヤンデレサイコワンちゃん、執念が凄すぎて恐怖でしかない。とアンディザファンをして言わしめた程の男。


「まぁ、それもそうか……じゃあミカリアのルートに無理やり進めさせる感じで行くか」

「ミシェルちゃんがちゃんとミカリアを攻略してくれないと誘拐事件が起きて私達全員報復で死ぬのかぁ……やばいなーこれ」

「もしもの時は俺も動くから、とりあえずはミシェルがミカリアを攻略出来るよう全力でサポートしようぜ、な?」


 だからそう気を落とすなよ。とカイルが眩い笑顔で励ましてくる。

 それに「うん……」と力無く返すと、カイルはわざわざ立ち上がってこっちに来てまでして「元気出せー」と背中をバシバシ叩いて来た。痛いわねこの野郎。

 ガシッとカイルの手を掴み私は食ってかかる。


「私を叩いたな? 今の所まだ父親にも叩かれてないのに!」

「いやだってお前ん家、ネグレクトじゃん……」

「そんな正論をド直球でぶつけてくる……?」


 なんだこいつ、急に梯子外してくるじゃないの。


「まぁ、うちも実質虐待されてたみたいなモンだけどよ……」

「あっ……そうか、お兄さんに……」


 腹違いの兄から度々酷い暴行を加えられていた、というカイルの闇を思い出し、私は思わず彼に同情した。本当に各キャラ家庭環境に問題があるゲームなのだ、アンディザは。

 親または兄弟から虐待を受けるロイとカイル。家族はおろか故郷が大火災や伝染病で滅んだセインカラッドとマクベスタ。自分以外の一族が全員突然死したアンヘル。そもそも親の顔も名前も知らず家族が一人もいないミカリア。片親かつ父親から洗脳に等しい教えを刻まれ続けたフリードル。そもそも家族の記憶が無いサラ。

 攻略対象全員がまともな家庭環境じゃない。てか家族が死にがち。そして家庭環境に問題があるのは攻略対象だけではない。

 生まれてすぐ両親が死んで結果的に捨てられたミシェルちゃん。母親が昏睡状態になる原因となってしまったメイシア。妹が領地の内乱で死んだレオナード。そして皆様ご存知、愛する家族に利用されて死んだアミレス。

 なんだこのゲーム。ひっどいなぁ。


「もう気にしてないけどな。てかずっと気になってたんだけどさ、お前、もしかしてミシェル推し? なんかミシェルだけちゃん付けじゃん」


 カイルが席に戻って紅茶を一口含み、突然そんな事を聞いて来た。それに対する答えは勿論──


「ええそうよ。私、アンディザだとミシェルちゃん最推しなのよ! だってもう……っ、超可愛いじゃない! 天使、最高の女神!!」


 ──イェス。私はミシェルちゃん最推しだった。誰よりも優しくて笑顔も何もかもが可愛い我等が天使…………少し周りに流されやすい世間知らずな箱入りお嬢様っぽい所もあるけれど、でもこれと決めた事は決して変えない芯の強さもある最高のヒロイン。

 自分の愛する全てを守ろうと巨悪に立ち向かう姿はまさに聖女、いいや聖母のよう──……そんなミシェルちゃんが、私の最推しなのだ。

 これまでは生き残る為に頑張らないとと無我夢中に努力していて、ミシェルちゃんについて語る余裕なんてなかった。だが今は違う……語る余裕が多少はある上に語る相手もいる。

 そりゃあ、私だって元オタクだもの。語るわよ。


「予想以上の熱量が返ってきたぁぁ……でも良かったわ、お前もちゃんとオタクで安心した」


 なんかいつも俺ばっかり語ってた気がするし、とカイルは肩を撫で下ろした。まぁカイルばっかり語ってたのは事実だけどね。

 私にその余裕が無かったのも理由の一つだけど。


「話は戻るんだけどさ」


 これからはオタク語りもしていきたいなぁと考えていた所、カイルがおもむろに口を切った。


「お前、力じゃ男や大人に勝てないって言ったじゃん」

「えぇそうね、勝てないわ。悔しい事に筋肉もつきにくいのよ、この体」

「なるほどなるほど……その件で一つ言いたいんだけどな」

「はい」


 改まった顔でカイルがこちらを見てくる。もしかしてオススメの筋トレとか教えてくれるのかしら? 一体何を言われるのやらと身構えると。


「なんで当たり前のようにフリードルや皇帝と戦おうとしてんの? 普通に逃げりゃいいじゃん」


 …………た、確かにその通りだーッ! 何であの化け物達と戦うつもり満々でいたんだ私は! 負け戦に挑もうとするなんて私らしくもない!!

 とあまりの大発見に顎が外れる思いの私。


「そんな衝撃受けるような事か? 普通最初に出てくるだろ、逃げの選択肢は」


 開いた口が塞がらない私に向け、カイルが冷静なツッコミを入れてくる。確かにそうだ……普通最初の方に出てくるわよね、逃げって選択肢は。どうして今まで出て来なかったのかしら。


「……なぁアミレスさんよ。まさかとは思うが、お前……ここから逃げられない──とか言うんじゃねぇよな?」


 不安からか額に冷や汗を滲ませ、カイルが薄ら笑いを浮かべる。その言葉を聞き、私は考える。

 ここから……フォーロイト帝国から逃げるって? そんなの、そんなの──……


「……無理だわ。私、帝国から逃げられないみたい」


 絶対に駄目! そう、アミレスが訴えかけてくる。この国から逃げるなんて事、多分この体には出来ないんだ。戦争から逃げ出そうって前に決めた時だって、そういえば帝国から出ようとは全く考えなかったもの。じゃあ本当に、私はフォーロイトから逃げられないの?


「やっぱりかぁぁぁ……最初から逃げの選択肢が出て来ない時点で、そんな気はしてたが……想像以上の頑固っぷりだな、アミレスは」

「なんか、ごめんなさい……まさか逃げる事さえ体に拒否されるとは思ってもみなかったわ」

「いやまぁ仕方ねぇよ、それだけ家族に対する思いが強いんだろ」


 彼の想像を上回るレベルで強く逆らえないアミレスの想いに、カイルは困ったなァ……と頭を抱えていた。


「正直な所、俺的にはもしもの時は国外逃亡させりゃあいいかって思ってたんだよ。そしたらお前は死なないだろ? でもその逃亡って手段が消えちまった以上、お前はいつ爆発するかも分からない爆弾を抱えながら、この箱庭の中でこれから先も生きていかないといけないって訳だ。そんな運ゲーに人生賭けるしかねぇとか最悪だろ……」


 アミレスは恐らく、家族を愛していたが故に逃げるなんて選択肢を知らなかったんだ。何故愛するお父様から逃げる必要があるのか、何故愛する兄様のいないどこかへと逃げなければならないのか……そんな風にアミレスなら考えるであろうと、今の私なら分かる。

 ただ国外に出るだけなら大丈夫なようだけど、きっと『フォーロイト帝国に帰らない』と言う選択肢は私の中には今後一切現れない事だろう。

 絶対、何があろうと──私の帰る家はここなのだから。


「まぁとにかく、逃げなくても死なないで済むよう頑張ろうぜ。俺も協力するし」

「……助かるわ。本当に色々迷惑かけるわね、貴方には」

「いいよ別に。旅は道連れ世は情け、だろ?」


 ニッと笑いながらカイルが手を差し出して来たので、私はそれに応じて彼と握手をする。悪役王女の私が一作目でメインヒーローだった攻略対象とこうやって手を組む事になるなんて、誰が想像出来ただろうか。

 少なくとも半年前の私はそんな事考えもしなかった。だからカイルからの手紙が来て本当に驚いたし、この孤独や葛藤を分かち合える仲間が出来たと喜んだ。


「──目指せ、ハッピーエンド!」

「──えぇ、一緒に頑張りましょう!」


 この日私は……頼れる協力者と共に新たな目標と計画を立てた。

 それはミカリア以外の全ルートを潰し、ミシェルちゃんにミカリアのルートに進んで貰おう大作戦。そして私達は全力でミシェルちゃんがミカリアとくっつくようにサポートする。これよもう!

 多分これが一番世界も我々も安全だもの、絶対成功させてやるわ!!


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