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128.悪友は巡り会う。5

「戻ったぞーアミレス──って何か俺の知らないイケメンがいるぅ?!」


 私のマントを片手に、ひらひらと手を振りながらカイルが戻って来た。そして私の傍にいる師匠とイリオーデを見て興奮気味に叫ぶ。


「え、しかもマクベスタまで……っ!? 待て待てまてまて、俺まだ推しに会う準備出来てないって、主に心が!」


 最後にマクベスタを見てハァッ、と息を呑むカイル。

 はぁ……と深く息を吐いてカイルの方まで歩いて行き、私はその頭にチョップを落とした。そしてマントを回収する。


「近所迷惑」

「いだっ……だって仕方ないだろぉ、目の前に推しがいるんだぞ推しが! てかマジであの赤髪のイケメン二人誰?!」

「赤髪のイケメン二人は私の師匠と私兵よ」

「はー……マジで顔がいいな」

「でっしょ〜〜?」


 身内が褒められて嬉しくなり、ふふん、と鼻高々になる。

 流石はカイル、『舞台:Unbalance(アンバランス)Desire(ディザイア)』からアンディザに入り原作にもどっぷりハマって完全制覇したという元舞台オタクね! 

 推しの俳優が出てるからという理由で舞台アンディザを観て原作にもハマったらしい彼は、確かに顔のいい男が好きなようだ。

 カイルから送られて来た手紙にアンディザとの馴れ初めが長々と書いてあったから、多分間違いない。

 師匠とイリオーデとマクベスタの顔を見てかなり大はしゃぎだ。

 突然街中でアイドルのロケ現場に遭遇した女子高生みたいなテンションで、「え、ちょっ、マジで顔良くね?」と騒ぎながら私の肩を揺さぶって来る。女子かよ。


「っ、王女殿下。その不躾な輩は何処の馬の骨ですか……!」


 拳を震わせながらイリオーデが問うてくる。

 やっぱり寒いのかな……私はまだ何となく大丈夫だけど、皆はキツイのかもしれない。早く皇宮に戻った方が良さそうね。

 とりあえずカイルの紹介だけ済ませて、アルベルトも連れて一旦皇宮に戻ろう。……アルベルト、皇宮に連れて行っても大丈夫かしら? やっぱりやばいかしら?


「あぁ、そう言えば紹介してなかったわね。こちらお友達のカイル・ディ・ハミルよ」

「どっ……どうもカイル・ディ・ハミルですぅ……」


 いや女子かよ。猫かぶってんじゃねえ。

 推しの前だからかやけに消極的に振る舞うカイルに、思わず心の中で突っ込んでしまう。

 その時だった。突如、肌がひりつくような強い殺気を感じた。

 出処はイリオーデ達だった。三人共、今まで見た事も無いような険しい顔つきになっている。

 殺気だけで人一人余裕で殺せそうな……それ程に強く禍々しいものが、三人から溢れ出ているような気がする。

 それはカイルにも感知出来たようで、先程までニヤニヤしながらはしゃいでいたカイルも、今や緊張した面持ちで固唾を飲んでいた。


「何で俺こんな殺意向けられてんの? 俺何かした?」

「私も知らないわよ……あんた何したの?」

「ええええ、俺今初対面よ?」


 ぎこちない動きで解説を求めてくるカイルに、私は知らないと首を横に振る事しか出来なかった。

 そうこうしている内にも三人の殺気は増してゆく。理由が分からないそれに怯えながらも、私は何とか三人を鎮めようと働きかける。

 カイルのお陰で私は怪我も無く無事に犯人を捕まえられたのだと必死に説得する。本当に、少しでも目を離せば今にもカイルを殺しにかかりそうなイリオーデとマクベスタを抑えるのが大変だった。

 私の友達! 他国の王族! 命の恩人! と、ある事ない事必死にアピールして何とかそれを食い止め、やっとこさ私はイリオーデ達の紹介に移れた。


「はぁ……ええと、こちらがイリオーデでこちらが師匠──エンヴィーさん。最後にこちらがマクベスタよ」

「イリオーデ。王女殿下の騎士だ」

「人間相手に名乗る名はありませーん」

「……マクベスタ・オセロマイトです」


 え、ちょっとどうしちゃったのこの人達。反抗期?

 つっけんどんではあるが一応挨拶したイリオーデとマクベスタはまだいいとして、師匠ほんとにどうしたの。そういう感じのヒトでしたっけ貴方??

 何で皆こんなにカイルの事を毛嫌いするんだ……?


「まぁ、とにかくよ。今から皇宮に帰ろうと思うんだけど…………アルベルトって、皇宮まで連れて行っても大丈夫かしら」

「アルベルトってあの犯人? ……って、え、サ──もがっ?!」

「そうよ殺人鬼よだから今は黙ってて!!」


 アルベルトの顔を見て、カイルの奴がサラと叫びそうになった。その為カイルの口を勢いよく塞ぎ、物理的に奴の口を封じる。


(何、急に!?)


 そう言いたげに目に困惑の色を浮かべているカイルに、こちらも目で訴えかける。

 私もカイルもサラなんて人物は本来知る筈が無いのだから、下手な真似をしてはならないのだ。それなのにこいつは!

 キッと強く睨みをきかせると流石のカイルも察したのか……急に大人しくなり、その後は暫く黙っていてくれた。

 不機嫌なイリオーデ達とアルベルトの事について話し合い、一旦皇宮まで連れて行って改めて事情聴取をし、処遇を決めよう。という事になった。

 それじゃあ皇宮まで帰りましょう、となった時。「あのー」とカイルが控えめに挙手した。


「皇宮になら瞬間転移出来るけど、やる?」

「……本当に?」

「ハミルディーヒから手紙送れてたんだから、これぐらい余裕だっつの」

「お願いしていい?」

「おまかせを〜」


 自信満々に胸を叩くカイル。何やらちょっと事前準備がいるとかで、カイルはおもむろにサベイランスちゃんを弄り始めた。そして相変わらず時が経てば経つ程どんどん不機嫌になるイリオーデ達。

 すると突然師匠が後ろから覆い被さるように体重を掛けてきて。


「ひーめーさーん、何でアイツと仲いいんすか。初対面でしょー?」

「……師匠、ヤキモチ焼いてるの?」

「だったらなんすか。妬いてたら慰めてくれるんですか?」

「うーん、本当に妬いてくれてるのなら慰めたかも」


 ぶすーっとむくれる師匠の顔を下から見上げる。

 師匠は精霊だもの、人間相手に嫉妬とかしないでしょう。そもそも、師匠が不機嫌なのは私がまた無茶な事したからだろうし。

 ……そう考えると、あれね。ヤキモチ焼いてるの? とか私今どんだけ恥ずかしい発言したのよ。自意識過剰すぎないかしら?

 師匠がノッてくれなかったら自意識過剰で恥ずか死してたかも。



♢♢



 遡る事十分程前。

 アミレスがアルベルトより事情を聞いていた頃、マクベスタ、エンヴィー、イリオーデの三人がアミレスの水鉄砲ウォーターガンを認識して合流し、道中で検問に引っかかっていた。

 それもその筈。やたらと見目のいい男三人(うち一人は他国の装束を着ている)がこんな夜中に急いで何処かに向かう様子であれば、流石の警備隊とて声を掛けるだろう。

 それなのに騎士のような風体の赤髪の美丈夫は今にも剣を抜きそうな威圧感を放つし、もう一人の赤髪のイケメンは露骨に不機嫌なのが分かる上になんか凄い熱気を放ってくる。周りの雪が溶けるレベルで。

 もうヤダー! と恐怖に震えつつも警備隊は何とか検問を行い、唯一礼儀正しかったマクベスタの『寒い中、お疲れ様です(でも今はやめて欲しかったな……)』と言う言葉に感動したとか。


「一体何があったんだろうか……もしや本当に不審者を見かけたとか?」

「姫さんなら既に戦うぐらいしてそーだけどな」

「……王女殿下なら有り得る」


 そうやって、呼び出しの意味を考えながら三人は雪の上を爆走していた。やっとの思いでアミレスの元まで駆けつけた三人は、アミレスが殺人鬼を一人で相手取りやがて鎖でぐるぐる巻きにしたのだと勘違いした。

 普通ならそんな勘違いしないが、アミレスだと普通にやりかねないので勘違いしてしまったのである。

 何せアミレスは無茶無謀の常習犯だ。どんな事でもある程度『まぁアミレスならやりかねないな』と言う可能性が生まれてしまう、周りから見ればそんなレベルの常習犯となっていた。

 そんな時だった。アミレスが火の最上位精霊(エンヴィー)を歩くストーブ呼ばわりして湯たんぽ代わりにと抱き着いていた事を知らないイリオーデとマクベスタは、当然のように嫉妬していたのだが……イリオーデはアミレスから褒められた事で一気に機嫌回復。


(流石はイリオーデ──。あぁ、王女殿下が! 私を褒めて下さった!!)


 その脳内はただ純粋に、狂喜乱舞状態であった。だがこの直後事件が起きる。


「……そういう事だから、お願い、私に力を貸して?」


 彼等を映すは大きくつぶらな瞳。可愛らしさを底上げする上目遣いとその表情。少しばかりいつもより高く愛らしい猫なで声でアミレスがおねだりした。


(かわっっっっ…………ぃい……!!)

(何それ可愛い過ぎねーか?!!!)

(──これが、メアリーの言っていた『尊み』か……はぁ、何と尊い……)


 その瞬間、男達の脳内は見るも愉快な暴れようであった。普段から綺麗よりの美少女たるアミレスではあるが、ここまで女子を前面に押し出した表情など滅多にしない。

 ふとした仕草や笑顔は当然のように世界トップクラスで可愛いと認識している彼等であったが、ここまであざといものは初めて見る。

 故に、突然の事に脳がパンクしかけていた。あまりの可愛さにため息をついたり息が止まるぐらいには、彼等の内心もとても荒ぶっていたのである。

 その後アルベルトがサラの関係者であると気づいたイリオーデによって、サラっと色々な話がなされる。そう、サラっと。

 まぁそれでも中々にいい空気ではあった。サラ──エルハルトが九年前の事件の後怪我もなく元気であった事を知れたアルベルトは涙して喜んだ。

 が、しかし。ここに来て空気が悪くなる。あの男が現れたのだ。

 空気感クラッシャー、何処でもオタクワールド全開、顔のいい男は滋養に良いと語るチートオブチートの攻略対象、カイル・ディ・ハミルが。


「戻ったぞーアミレス──って何か俺の知らないイケメンがいるぅ?!」

(誰だあの男……王女殿下の御名前を気安く口にしおって……)

「え、しかもマクベスタまで……っ!? 待て待てまてまて、俺まだ推しに会う準備出来てないって、主に心が!」

(……今、オレの名前を言ってなかったか? 知り合いだったか、あの男と……?)


 突然現れた謎の男をじとーっと睨むイリオーデとマクベスタ。

 すると騒ぐカイルにおもむろに近寄り、アミレスが手刀を落とした。


「近所迷惑」

「いだっ……だって仕方ないだろぉ、目の前に推しがいるんだぞ推しが! てかマジであの赤髪のイケメン二人誰?!」


 やけにアミレスと親しげな初めて見る男。だが今は、それよりも驚くべき事があったのだ。


(アミレスが──)

(姫さんが──)

(王女殿下が──)

(((──人の頭を殴っただと?!)))


 特訓や戦闘中であれば一切の躊躇なく相手を攻撃をするアミレスではあるが、その分普段は人一倍誰かを傷つけぬよう無意識に気を使っているのである。

 自分が人を傷つける力を持っていると分かっているからこそ、必要の無い時は人を傷つけぬように下手な反撃や攻撃はしないのだが……今この時、アミレスはカイルの頭目掛けて軽いチョップを落とした。

 それ即ち、アミレスにとってその男が気の置けない仲であるという事。

 彼等三人に叩きつけられたその事実が嫉妬の炎を生み出し、三人の思考を一致させるに至ったのだ。


「赤髪のイケメン二人は私の師匠と私兵よ」

「はー……マジで顔がいいな」

「でっしょ〜〜?」


 チラチラとエンヴィー達を見て楽しげに話すアミレスとカイル。自分達の前ではあまりしない年相応の無邪気な表情を見て、三人は更なる嫉妬に駆られる。


「っ、王女殿下。その不躾な輩は何処の馬の骨ですか……!」


 嫉妬に耐えきれず、拳を震わせながらイリオーデが男の名を聞くと、


「あぁ、そう言えば紹介してなかったわね。こちらお友達のカイル・ディ・ハミルよ」

「どっ……どうもカイル・ディ・ハミルですぅ……」


 アミレスはあっさりと紹介し、カイルがその横でぺこぺこと挨拶した。

 その瞬間、彼等の中にあった嫉妬の炎が嫌悪の炎に飲み込まれた。


(((カイル・ディ・ハミル──ッ!?)))


 何故ならその名は、アミレスと謎の暗号でやり取りをする敵国(ハミルディーヒ)の王子の名前だったから。

 彼等の愛するアミレスを、裏切り者にしかねない危険な行為を冒した存在。とどのつまり──彼等にとっての、敵である。

 アミレスに必死に止められていなければこの場で殺していたかもしれない。そんな風に本人達が思う程、その怒りと嫌悪は強く燃え盛っていた。

 そりゃあ、自己紹介なんてしたくないよね。アミレスが紹介したのだからと仕方なく嫌々名乗ったイリオーデとマクベスタ、そして結局名乗らなかったエンヴィー。

 彼等はアミレスに『反抗期かしら?』なんて風に解釈されている事を知らない。

 アミレスを思うあまりカイルを毛嫌いする者達の気持ちを、当のアミレスは全く気づかないのであった。



♢♢



「おし、じゃあ行くぞーアミレス」


 カイルの方も準備が出来たようで、全員アルベルトの周りに集まるよう指示してきた。三人共、カイルの言葉に従おうとしなかったので私からもカイルの言う通りにするよう呼びかけ、皆で固まる。

 イリオーデ達が怪訝な目でカイルを見ている中、そんな緊張もものともせずカイルは「いくぜ、サベイランスちゃん」と言ってサベイランスちゃんを起動した。


《星間探索型魔導監視装置、仮想起動。システムコード簡略、魔導変換開始》


 突然光り変形したカイルの箱に、誰もが目を奪われる。そこから聞こえて来る無機質な音声に、誰もが耳を疑った。


《事前指定、目次参照……完了。転移術式構成、完了。転移対象、指定完了。座標指定、座標固定、完了。目的地、フォーロイト帝国東宮内──転移術式発動》


 サベイランスちゃんのアナウンスが終わると同時に、足元に空間魔法の魔法陣が出現し、私達はその光に包まれた。

 次に視界が元通りになった時には、私達は全員、見慣れた東宮の廊下にいた。


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― 新着の感想 ―
初コメント失礼いたします。 最近になってまた初めから読み返している者ですが、「すると突然師匠が後ろから覆い被さるように体重を掛けてきてー」を脳が勝手にアミレスちゃんポジVRかましてきたので昇天しました…
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