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レモン爆弾

作者: a

 君はレモン爆弾を知っているか?

 そう、全国各地の至るところに仕掛けられた、…あの代物のことだよ。


 それは自ら爆発する事を望み、爆発するその瞬間を今か今かと待っている。

 実は熟し、大きく膨らみ、少しの刺激で爆発する。そんなところまでもう来てしまっているのさ。


 爆発を止める方法はないのかだって?

 それは無理な相談だ。

 命知らずの解体業者は、もうこの場所には残っていないのだ。

 仮にいたとしても、解体するにはあまりに犠牲が大き過ぎてね。

 どう正しく、順序立てて解体を試みたとしても

 それは爆発と同義となってしまう、そういう仕掛けになってしまっているのさ。

 もうお手上げ、手詰まり…という訳だよ。


 そんなものだから、人々は置かれた爆弾から目を()らし、あるいは逸らされて。

 偽りの安寧の中に留まっては、天やら何やらに向かって、必死に祈りを(ささ)げ続けているんだね。

 …実に、美しいことだよ。



 ()くして祈りは成就する。

 祈り、支え続ける人々がいる限り、確かに延命は成され続けるだろう。

 されどそれは、期限を薄く引き延ばすための、まやかしに過ぎない。

 そのまやかしのために、爆弾が更に手に負えない程に増殖し、それぞれが大きく育つというのにね?

 そしてそれにも限度、限界点というものがある。分かるだろう?



 あれをごらん。

 夜空の中を花火が何発も打ちあがっている。よくある花火大会の光景だ。実に美しいね。


 では、あちらを。

 花火に見入ってる観客らの後方、その更に向こう。暗がりに向かって、駆け出す者が数名いる。

 その一方で観客の方へ向かう者も数名。

 花火に照らし出されたその顔は、見惚れている観客達とは随分と違った形相をしている。


 …君も流石に知っているだろう?遠くでオレンジが炸裂したことを。

 自分には関係がないって?さて、それはどうかな。

 先程から、花火に混ざって号砲が鳴らされているのに気が付いているか?

 無邪気な歓声に混ざった、怒号や悲鳴、驚愕する声には?

 …そして散発的にこの場を去る者達。


 知っている者は、(はな)からこの場に近づかない。

 ずる賢い者は、気付かぬ者をこの場に誘い出し、身代わりにして時間と小遣い稼ぎに精を出す。

 気付いた者は、周りの者に悟られぬよう、こっそりと逃げ出し…。

 そしてその人数が増えて、増えて、増えて、どうしようもなく増えて。

 花火よりも人々の動きに注目が集まった時、加速度的に終局を迎える。

 まやかしの崩壊というものは、創造や維持にかかる労力に比べて、実にあっけないものなんだな。


 遠くのオレンジが炸裂し、こちらのレモンの実をふるふると揺らす。

 揺れたレモンの一つが堪えきれずに爆発し、それが引き金となって連鎖的に誘爆を開始する。

 そしてこの爆発の余波が、また別な場所の実を震わせるんだね。


 これを悲劇だと思うかい?それとも喜劇?

 どちらにせよ、その心にあるものは、まやかしを手放した安堵と開放感なのかもしれないね。



 さて、レモン爆弾はもうじき爆発する。

 目一杯引き延ばされた期限を、もうこれ以上先送りには出来ない。

 諦めたまえ。されど過度に悲観して絶望する(なか)れ。


 未来を往ける者よ、旅人よ。

 恐れに身を(すく)ませ、まやかしの中に留まってはいけない。

 偽りの安寧に浸かり、虚像を維持する手伝いを続けてはいけない。

 夜空に漕ぎ出し、誰もいない航路を開け。

 君は既に自由だ。

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